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権現の慈悲(ごんげんのじひ) その2~竹丸、疑惑の阿闍梨の法会に乗り込む~

平安の現在、得度を受けたちゃんとした『僧侶』ならば同性を含め性交が禁じられてて、もちろん子供との性交も重罪で『犯したものは僧団永久追放!かつ僧侶の資格はく奪!』のはずなのに、見苦しい言い訳を作り上げてまで性交を我慢できない『野獣人間』なら、僧にならなければいい。


僧になって『特権階級という現世利益=旨味は欲しい!!でも性欲は手放したくない!!』って、そんなヤツが僧になって何の意味があるの?


何が偉いの?


なぜ威張ってるの?


僧侶を尊敬する理由が一切(いっさい)、見当たらない。


世の中の矛盾や、『権力者の利己的な方便』に対する怒りに、ひとりでムカムカ腹を立てる。


巌谷(いわや)はお構いなしに続けて


「もうひとりは妙吉丸(みょうきちまる)という少年で、母親が彼を妊娠してるときに、本地(ほんち)阿闍梨(あじゃり)が『文殊(もんじゅ)菩薩を産む』と予言したそうです。」


若殿(わかとの)が眉を上げ、興味を示し


「ほぅっ!

その少年は稚児として今も本地(ほんち)阿闍梨(あじゃり)(つか)えているんですか?」


巌谷(いわや)がウウンと首を横に振り


「いいえ。

本地(ほんち)阿闍梨(あじゃり)の弟子僧の話では、仏像に不敬を働いたとかで、一年半ほど前に僧団から放逐(ほうちく)されたそうです。

あっ!頭中将(とうのちゅうじょう)どのっ!

本地(ほんち)阿闍梨(あじゃり)から話をお聞きになりたいなら、ちょうど今日、午後から法会が行われていて誰でも参加できるそうですから、これから本地(ほんち)阿闍梨(あじゃり)の寺へ行くことも可能ですが、どうなさいますか?」


若殿(わかとの)


「では行きましょう」


と頷くと、スクッ!と立ち上がり、私たちは本地(ほんち)阿闍梨(あじゃり)の法会を訪れることになった。


右京の南西の端に近い、貴族の屋敷もまばらで、夏草が茂る野原になるまで(ほう)っておかれた土地が多い、(さび)れた場所に、本地(ほんち)阿闍梨(あじゃり)殊室利(じゅじり)寺があった。


門から中に入ると、本堂から、恨みのこもった唸り声のような読経が聞こえる。


灼熱地獄の底から罪人たちが娑婆(しゃば)の人間に、救いを求めているような、単調で重低音の振動が全身を(ふる)わせ、得体のしれない恐怖感にゾクゾクと寒気がした。


お経って、聞くと厳粛な雰囲気(ムード)になって、いつも緊張する!


若殿(わかとの)巌谷(いわや)侍所(さむらいどころ)で案内を()い、本堂に通されると、奥に安置されている本尊の大日如来に向かって、二人の僧侶が座って読経する後姿(うしろすがた)が見え、その後ろには法会の参加者と思われる人々が並んで座る後姿が見えた。


「こちらへどうぞ」


案内の雑色が指し示す最後尾の列に、私たちも加わった。


ほどなくして読経がやみ、僧侶の一人がこちらに向き、法会の参加者に向かって話しかけた。


「では、今回の法会はここまでとなります。

のちほど、本地(ほんち)阿闍梨(あじゃり)宿曜(すくよう)術による運命診断をご希望の方は、ひとり一回百文から、となっておりますので、ご了承のうえその場でお待ちください。

それ以外の方は散会といたします。

皆様に仏の御加護がございますよう、お祈りいたしております。

それでは今日はお疲れ様でした。」


数珠を引っかけた手のひらを合わせて人々にゆっくりと会釈した。


人々がざわめきあいながら帰り支度を始めると、稚児髷(ちごまげ)を結った、鮮やかな水色の水干姿の十五歳ぐらいの少年がどこからか現れ、


宿曜(すくよう)術運命診断をご希望の方はこちらへお並びくださ~~~い!」


と呼びかけた。


その他にも、弟子と思われる修行僧たちが、そそくさと衝立や几帳や屏風を運び込み、本堂を個人面接用の(へや)と待合室とに区切った。


水色水干姿の稚児は、待合室側に人々を呼び寄せ、愛想よく話しかけながらキチンと並ばせてた。


よくみるとその稚児は絶世の美少年!というわけではないが、平均以上に整った顔立ちで、にこやかな笑みを常に浮かべてるので第一印象は『()い人そう!』って感じ。


若殿(わかとの)礼儀(マナー)的な微笑みを浮かべその稚児に近づき


八王丸(はちおうまる)さんですか?

本地(ほんち)阿闍梨(あじゃり)に少し話をうかがいたいんですが」


八王丸(はちおうまる)は警戒するように眉をひそめ


「運命診断ならちゃんと並んでください。」


若殿(わかとの)が口の端に笑みを浮かべつつジロッと睨み付け


「私は弾正台(だんじょうだい)の役人です。

本地(ほんち)阿闍梨(あじゃり)にはある強姦未遂事件の容疑者として後日、取り調べのために弾正台(だんじょうだい)に来ていただくか、今すぐここで二・三の質問に答えていただくか、選んでいただくことはできますが、どちらがいいですか?」


ゴリ押しすると、八王丸(はちおうまる)は青ざめたままコクリと頷くと


「わかりました。こちらへどうぞ」


と個人面会用の(へや)に私たちを導いた。


文机が一つ置いてある、屏風や衝立で区切られた空間に座り込むや否や、几帳越しの向こうに坊主頭が見え、八王丸(はちおうまる)の鼻にかかった甘えたような声が聞こえた。


「先生っ!弾正台(だんじょうだい)の役人がお話をしたいって、待ってます!強姦未遂事件について?とか言ってました。」


衝立と几帳の隙間から姿を現したのは、白いおにぎりにゴマを振ったような伸びかけの坊主頭とひげの、色黒な五十前後の僧侶だった。


色黒の顔の中で、大きな目玉の白目が爛々(らんらん)と光ってる。


本地(ほんち)阿闍梨(あじゃり)は文机を挟んだ向こう側に座りながら、私たちの顔を順番に睨み付け


「話とは何ですか?」

(その3へつづく)

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