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権現の慈悲(ごんげんのじひ) その1~竹丸、暑さでイラ立ち辛辣になる~

【あらすじ:一風変わった、クセの強い事件の捜査に乗り出した私たちは、菩薩の生まれ変わりと呼ばれる二人の少年に会う事ができた。明確な悪意がないところに起こる、理不尽な悲劇から、不運な人々を救ってくれるのが菩薩の慈悲だというけれど、イマイチ納得できない。いつまでたっても解脱できない、私は今日も無明をさまよう!】

私の名前は竹丸(たけまる)

歳は十になったばかりだ。

平安の現在、宇多天皇の御代、日本で権勢随一を誇る(いちばんえらいひと)関白太政大臣・藤原基経(ふじわらもとつね)様の長男で蔵人頭(くろうどのとう)右近衛権中将うこのえごんのちゅうじょう藤原時平(ふじわらときひら)様に仕える侍従である。

 私の直の(あるじ)若殿(わかとの)・時平様はというと、何やら、六歳ぐらいの小さな姫に夢中。

宇多帝の別宅に訳アリで、隠し育てられている姫を溺愛していて、周囲に気づかれていないと思っているが、使用人はじめ母君・大奥様にもバレバレ。

若殿(わかとの)いわく「妹として可愛がっている」。

でも姫が(から)むと、はたから見てもみっともないくらい動揺する。

従者としては、たかが小さな女の子に振り回されてる姿はいかがなものか。

今回は、はずした予言の謝罪もせずに次の予言する予言者ってどういう神経してるんでしょうね?というお話?・・・ではないです。

 一年ぶりに娑婆(しゃば)に戻り子孫たちにチヤホヤされたであろう罪人たちが、地獄の釜に戻り蓋が閉じた頃。


つまり、お盆が終わった頃のことだった。


峰のように高くそびえる雲が、激しい雷雨を予感させる午後、弾正台(だんじょうだい)の役人・巌谷(いわや)若殿(わかとの)を訪ねてやってきた。


私が出居(いでい)へ案内すると、現れた若殿(わかとの)が挨拶しながら母屋の円座に座った。


母屋と(ひさし)を区切る御簾は巻き上げられていて、(ひさし)に座る巌谷(いわや)が、同じく(ひさし)に控えている私をチラッと気にしつつ、声をひそめて


「実は、連続強姦未遂事件が発生しまして、ええ、その、弾正台(だんじょうだい)に被害を訴える女性や被害者の家族が複数、おりまして、はい。

犯人を捕まえるために、頭中将(とうのちゅうじょう)殿のご協力を仰ぎたいと思いまして、参りました。」


太い眉毛とギョロッとした目で若殿(わかとの)を見つめ、ためらいつつも言い終えた言葉は、いつもの協力要請だった。


強姦未遂?

私が十歳の子供だから情操教育に悪いと思って口ごもってるのっ!?

今更(いまさら)だけどっっ??!


過去には殺人や集団心中のような、もっと(ヒド)い事件もあったと思うけど??!!


う~~~ん、でもこの頃は、さほど陰惨(いんさん)な事件は無いかも。


若殿(わかとの)は私をチラ見し、


「竹丸、聞きたくないなら席を外すように。」


ウンと頷くと、巌谷(いわや)に向かって淡々(たんたん)とした口調で


「では、事件について調べたことすべてを話してください。」


巌谷(いわや)はオホンッ!と咳払いして話し始めた。


「え~~、まず、一番最初の被害者と思われる女性が強姦とおぼしき行為を受けたのは、一年ほど前のことです。

波唯虚(はいきょ)寺という廃墟になった寺で、強姦されそうになったそうです。

被害者は全員この廃寺で被害に遭っています。

犯人は性的乱暴を最後までしたわけではなく、背後から女性に抱きつき、局部を体に押し付け、女性の衣に精液をかけたあと逃走したそうです。

被害者は突然背後から抱きつかれたことに驚き、(おび)えてジッと固まってしまった者や、腕を振りほどこうと暴れた者や、さまざまでしたが、皆、幸い、衣に精液をかけられるという被害だけで済んだそうです。

弾正台(だんじょうだい)に訴えでた被害者は今のところ五人ですが、犯人の男が逃げる方向に十三・四の少女を見たという証言もありますかから、潜在的な被害者はもっと多いかもしれません。」


体液を衣にかけただけ、だから強姦『未遂』?


うっ!!


充分気色悪(キモ)いっ!


けど、不幸中の幸い!?


若殿(わかとの)が不愉快そうに眉をひそめ


「被害者は五人ともなぜその廃寺に行ったのですか?」


巌谷(いわや)


「被害者たちは、本地(ほんち)阿闍梨(あじゃり)という有名な宿曜(すくよう)師(宿曜(すくよう)経を元にした占星術「宿曜(すくよう)道」を行う人)の法会に参加し、そこで個人的に本地(ほんち)阿闍梨(あじゃり)に運命を占ってもらったそうです。

その際に、本地(ほんち)阿闍梨(あじゃり)の弟子に被害に遭った廃寺へ行くことをすすめられたそうです。

そこへ行けば運気が上がると。」


はぁ??!!


なら簡単じゃんっ!!


「犯人は本地(ほんち)阿闍梨(あじゃり)の弟子でしょ?

廃寺へ行くことをすすめた人でしょっ!!

その人を問い詰めればいいだけですよねっっ!!」


思わず口を挟む。


若殿(わかとの)が呆れたように肩をすくめ


「それほど単純なら犯人はすぐに捕まってるだろ?

ということは、本地(ほんち)阿闍梨(あじゃり)や弟子たちなど怪しい人物は、事件の日の現場不在証明(アリバイ)があったということですね?」


巌谷(いわや)が険しい表情でウンと頷き


「はい。

本地(ほんち)阿闍梨(あじゃり)の弟子たちは全員、五つの事件のうち一つ以上の事件で、現場不在証明(アリバイ)がありました。

しかし、本地(ほんち)阿闍梨(あじゃり)は修行と称して外出することが多いので現場不在証明(アリバイ)はありません。

法会は誰でも参加可能なので出席者を調べることはできませんでした。」


若殿(わかとの)が顎に指を添え、フム!と唸り


本地(ほんち)阿闍梨(あじゃり)といえば、殊室利寺(じゅじりじ)の住職ですね?

確か、殊室利(じゅじり)寺の修行僧の中には『菩薩の化身』と呼ばれる者が二人いると聞きましたが、真偽はどうなんですか?」


えぇっっ??!!


菩薩っっ??の化身っっ??!!


超能力があって(ちゅう)に浮かぶとかっ?!


背中から光がでるとかっっ??!!


手から米粒が出るとか、手をかざすだけで病気が治るとかっっ??!!


絶っっ対っ見てみたいっっ!!


目を輝かせて巌谷(いわや)を見つめると、平然と


「はい。

ひとりは稚児灌頂(ちごかんじょう)を受けた八王丸(はちおうまる)という少年で、・・・・」


稚児灌頂(ちごかんじょう)』?って確か、


『美しい少年は秘儀を受け、観音菩薩と同体である神聖な存在とされ、僧侶に性愛を通じて救いを与える』


とか


『僧は生身の稚児そのものを犯すのではなく、稚児の性を通して観音菩薩と契るとみなされており、僧は児灌頂を受けた稚児との性交で性欲を含め煩悩を消し去ることができ、稚児との性交は救いであるとされた。(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』『稚児』)』


という建前(たてまえ)を用意して、性欲という基本的煩悩すら理性で抑えられない、畜生のように下等な連中をなだめるための、とってつけたような()理屈のこと。

(その2へつづく)

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