深窓の愚者(しんそうのぐしゃ) その3~竹丸、違和感の正体を知り、やるせない気持ちになる~
三番目の奧さん?
私はハキハキと
「これは、頭中将からの文です。
太郎君へお渡して、返事を書いていただきたいとのことなので、そうお伝えください。
ここで待たせてもらってもいいですか?」
言いながら文を手渡すと、女性は不思議そうな顔をしながらも『はい』と小さく呟き、妻戸の向こうへ引っ込んだ。
少しすると、同じ女性が出てきて
「これを」
とだけ言って私に文を渡し、すぐに引っ込んだ。
ちょっと不愛想だけど気にしないっ!役目は無事果たせたしっ!!
意気揚々と帰路につく。
・・・・文の内容が気になる。
ちょっと見てみるかっ!!
いつものことだし、若殿も了承済みだよねっ!!
文を開いてみると
『弟は義母殴り闇落ち、
母は弟に腹立ち、
継母そのときの菓子を作ったんだが。』
と書いてあった。
はぁ??
一枚目の文の続き?
その後、次郎君が二番目の妻を殴って、闇落ち?って、暴れて手が付けられなくなったってこと?
で、一番目の妻が次郎君を叱って、三番目の妻が菓子を作ったの?
だから何??
意味がさ~~~~~っぱりっっ分からんっっ!!
チンプンカンプンで帰り着き、若殿に文を渡した。
若殿がサッと目を通すとウンと頷き
「なるほど。そういう事か。
竹丸、弾正台へ行くぞっ!!」
は?
何が『なるほど』??
ますます意味不明でとりあえず若殿にお伴し、弾正台へ。
巌谷と何か話しながら出てきて、今度は二人で典薬寮へ向った。
典薬寮から出てきた若殿に
「中で何を調べてたんですか?」
私の存在にたった今、気づいたかのように、若殿が眉を上げ
「薬草の在庫の量と、帳簿に記録してある量が一致しているかを調べたんだ。
思った通り、在庫の薬草が記録より減っていた。」
あまりにも勿体付けられ過ぎてイライラが最大になり
「はぁ?いい加減教えてくださいよっ!!
太郎君の文とその薬草の関係をっ!!
多和気が典薬寮の使部だからですかっっ?!」
唾を飛ばしてブチ切れると、若殿はゴキゲンにほほ笑み
「よし、では、お前が拾った文に、何と書いてあったか憶えてるか?」
ブンブン首を横に振り
「ぜ~~~んぜんっ!!憶えてませんっ!!」
高らかに言い放つと、若殿はイラっとしたように袂を探って文を取り出し、見せながら読んでくれた。
「『どうか助けてください。
義母が弟をいじめる。
もう終わり。』
とあっただろ?
これ以後は『もう終わり』の言葉通り、一文の最後の文字だけを読んでみろ。」
私は文を受け取り、一文の終わりだけを読む
「ええっと・・・・
『弟は水をかけられたまま。』の『ま』
『義母は母に慰謝料をよこせと言い、』の『い』
『母は嫌だと言ってるのに、』の『に』
『弟は継母にイタズラしたのち、』の『ち』
『義母の娘にもイタズラをしたけど、』の『ど』
『それで義母が怒り烈火のごとく。』の『く』
『何を、』の『を』
『どうすればいいのかわからないの。』の『の』
『弟は母の息子でわがまま。』の『ま』
『義母の娘と遊ばせ、』の『せ』
『そのとき継母は私と義母と菓子を食べる。』の『る』
続けると『まいにちどくをのませる』ですねっ!!
ええっっ??!!!『毎日毒を飲ませる』??
って誰がっっ???!!」
若殿がニヤッと笑い
「私が送った文の返事の語尾は?」
返事の文を開き読んでみる。
「ええっとぉ・・・
『弟は義母殴り闇落ち、』の『ち』
『母は弟に腹立ち、』の『ち』
『継母そのときの菓子を作ったんだが。』の『が』
『父が』っっ??!!
つまり、太郎君は多和気に毒を毎日飲まされてるんですねっ!!
だから典薬寮の薬草が減ってたんですねっ!!」
若殿がウンと頷き
「そう。
おそらく息子たちは知的障害を持って生まれたわけじゃなく、ずっと毒を盛られて不自由な状態を強いられていた。
そのことに気づいた太郎君は、痴人を装って助けを求める文を路に投げ捨て、鬼のような父親に気づかれずに現状の地獄から抜け出そうとしたんだ。」
ポツリと呟いた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
言葉だけでは、相手が何をどのくらい考えているのか推し量るのは難しいですよね!
時平と浄見の物語は「少女・浄見 (しょうじょ・きよみ)」に書いております。