表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
340/367

深窓の愚者(しんそうのぐしゃ) その1~竹丸、違和感のある文を拾う~

【あらすじ:分かりそうで分からない、違和感のある文章が書いてある文を路上で拾った私は、『助けを求める文』と判断して時平様に丸投げ。典薬寮のある役人の家の前で拾った文だから、本人に話を聞けば謎はすぐに解決!!したハズだったのに・・・。私は飢餓感を、時平様は違和感を、今日も簡単に放置しない!!】

私の名前は竹丸(たけまる)

歳は十になったばかりだ。

平安の現在、宇多天皇の御代、日本で権勢随一を誇る(いちばんえらいひと)関白太政大臣・藤原基経(ふじわらもとつね)様の長男で蔵人頭(くろうどのとう)右近衛権中将うこのえごんのちゅうじょう藤原時平(ふじわらときひら)様に仕える侍従である。

 私の直の(あるじ)若殿(わかとの)・時平様はというと、何やら、六歳ぐらいの小さな姫に夢中。

宇多帝の別宅に訳アリで、隠し育てられている姫を溺愛していて、周囲に気づかれていないと思っているが、使用人はじめ母君・大奥様にもバレバレ。

若殿(わかとの)いわく「妹として可愛がっている」。

でも姫が(から)むと、はたから見てもみっともないくらい動揺する。

従者としては、たかが小さな女の子に振り回されてる姿はいかがなものか。

今回は、良い人か悪い人かの見分けって難しいですよね!というお話?・・・・でしょうか?


 ある晴れた五月の日のこと。

高く青く抜けるような空、ひんやりとした空気は澄んでいるが、照りつける日差しは容赦なく肌を刺す午後。

細長い白い花弁が目立つ蜜柑(みかん)の花が、甘酸っぱい芳香を漂わせる小路を、お使いを終えて歩いてた。


ふと路の端に、細長く折って結んだ文が落ちてるのを見つけた。


誰かが落としたの?


でも、大事な文なら文箱に入れて届けるから、中身だけが落ちるとは考えにくい。


ハッ!


(ひらめ)いたっ!!


もしやっ!

訳アリ男女の秘密の恋文っっ??!!

間者(スパイ)への極秘指令書っっ??!!

すれ違いざまに素早く受け渡すのをミスって落とした?


周囲をキョロキョロ見回(みまわ)す。


文が落ちてたすぐそばにある古びた板塀の向こうに見える屋敷は、立派な貴族のというわけではなく、板屋根が見えるところからして、下級役人ぐらいの身分の屋敷?に見える。

板塀が取り囲む広さから判断して、関白邸の対の屋一舎分ぐらいの広さかな?

とにかく狭そう!


あたりに人影はないのでとりあえず文の中身を確認する。


カサコソッ!


開いてみると、(つたな)い、子供が書いたような文字で次のように記してあった。


『どうか助けてください。


義母が弟をいじめる。


もう終わり。


弟は水をかけられたまま。


義母は母に慰謝料をよこせと言い、


母は嫌だと言ってるのに、


弟は継母にイタズラしたのち、


義母の娘にもイタズラをしたけど、


それで義母が怒り烈火のごとく。


何を、


どうすればいいのかわからないの。


弟は母の息子でわがまま。


義母の娘と遊ばせ、


そのとき継母は私と義母と菓子を食べる。』 


はぁ??!!


意味が分かりそうで分からないっ!!


う~~~~ん。


助けを求めてるんだよね?


誰から?何から?


最後にはお菓子を食べてるしっっっ!


どーゆーこと??!!


もしかして、文字通りの意味じゃなく、何らかの暗号?


悩んでても分からないので、持って帰って若殿(わかとの)に見せることにした。


関白邸の曹司(ぞうし)で、若殿(わかとの)に見せると、サッと目を通し


「どこに落ちてた?」


「ええっとぉ、右京二坊の六条坊門(ろくじょうぼうもん)小路あたりですかねぇ?

そこからさらに南に行くと、今大殿(おおとの)がハマってる女子(おなご)がいるんですっ!!」


チッ!と舌打ちし、


「色欲が衰えないのは相変わらずだなっ!

それにしても、この文章は変だな。」


「そうですよね~~!

字が下手なので、子供が書いたんでしょうね。

この子には義母、継母、母って、三人の母親がいて、実の弟と、義母の娘がいるのは分かりますが。

義母が弟をいじめてるから助けて欲しいってことですよね?」


若殿(わかとの)は黙って考え込む。

私は続けて


「で義母が母に慰謝料を要求したってなぜ?

この問題の弟が継母にイタズラって何でしょう?

それを義母の娘にしもした。

あっ!だから義母は弟を叱って、母に慰謝料を請求したんでしょうか?

時系列がおかしいからわかりにくいんですね??!!」


若殿(わかとの)が顎に指を添え、考え込んだあと


「明日、右京二坊の坊長(ぼうちょう)を訪れ、そのあたりに住む住人の名を調べてみよう。」


(*作者注:『坊長は坊内の京戸の戸籍を管理するとともに、租税の徴収、雑徭・兵士の徴発、犯罪発生時の官司への通報と犯人の追捕、坊内の治安維持、坊内で発生した奴婢・家地の売買・裁判における証明・調査など、坊内における徴税的・警察的な業務を行っていた。』出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』『京職』より)


翌日、若殿(わかとの)はひとりで坊長(ぼうちょう)を訪ね、古びた板塀の屋敷の住人は、典薬(てんやく)寮の使部(しぶ)(律令制で、太政官や八省などの官庁の、雑役に使われた下級の役人)で多和気(たわけ)という名だとつきとめた。


ついでに大内裏の典薬(てんやく)寮を訪ね、多和気(たわけ)を呼び出して、例の文を見せて詳しい話を聞いたらしい。

若殿(わかとの)は大内裏で仕事をしてるはずの午前中に、仕事の合間を縫って、ひとりで勝手にあちこち訪問したらしい。


ちぇっ!!


私も連れてってほしかった!


「で、多和気(たわけ)は何と言ってたんですか?」


若殿(わかとの)は腕を組んで、苦い顔をし、


「あ、いや、それがな、多和気(たわけ)が言うには、その文は息子のイタズラだったらしい。

文字を覚えたばかりの息子が面白半分に、適当な嘘を書いて庭から外へ放り投げたんだろうとのことだ。」


「えぇーーーっっ!!!

あんなに意味深なのに?

全部嘘ですかっ??!!

義母が弟に水をかけたとか結構現実的(リアル)だったのに??!!」


あっけない結末!!

(その2へつづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ