表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
336/369

煙幕の米道(えんまくのべいどう) その1~家出少女が帰宅し、病の床に臥す~

【あらすじ:ひと月前に家出した貴族の娘と侍女が逃げ込んだ先は、怪しげな道士が仕切る新興宗教団体の共同生活施設だった。二つの奇跡を目の当たりにし、天の啓示と信じこんだ道士に、極悪な野心はなさそうだけど、卑俗な邪心はたっぷりありそう!時平様は今日も眩惑な煙幕に惑わされず、真骨頂を発揮する!】

私の名前は竹丸(たけまる)

歳は十になったばかりだ。

平安の現在、宇多天皇の御代、日本で権勢随一を誇る(いちばんえらいひと)関白太政大臣・藤原基経(ふじわらもとつね)様の長男で蔵人頭(くろうどのとう)右近衛権中将うこのえごんのちゅうじょう藤原時平(ふじわらときひら)様に仕える侍従である。

 私の直の(あるじ)若殿(わかとの)・時平様はというと、何やら、六歳ぐらいの小さな姫に夢中。

宇多帝の別宅に訳アリで、隠し育てられている姫を溺愛していて、周囲に気づかれていないと思っているが、使用人はじめ母君・大奥様にもバレバレ。

若殿(わかとの)いわく「妹として可愛がっている」。

でも姫が(から)むと、はたから見てもみっともないくらい動揺する。

従者としては、たかが小さな女の子に振り回されてる姿はいかがなものか。

今回は、稲って数あるイネ科の中でも、人間からチヤホヤされつくして、ついには天下を獲った無双植物?ですよね!というお話・・・・ではないです。

 新緑の清々(すがすが)しいある春の日のこと。

京の都を出て、目的地へむけて、周囲に田畑の広がる道を馬に乗り歩かせている。

同行する弾正台(だんじょうだい)の役人、巌谷(いわや)若殿(わかとの)に事情を説明するため口を開いた。


「ある貴族の雍子(ようこ)という娘が、高額な家財を持ち出し、


『侍女とともにある方の屋敷で暮らすから心配しないで欲しい』


書置(かきお)きを残し、姿を消したのが、約ひと月ほど前でした。

その娘が数日前、突然帰ってきたそうなんですが、体調が悪く、寝ついてしまいまして、心配した両親が弾正台(だんじょうだい)に調べて欲しいと訴えました。」


ん?

家出人は弾正台(だんじょうだい)に訴えても探してくれないの?

事件性があれば動いてくれるの?

疑問が湧く。


若殿(わかとの)


「同時に失踪した侍女も帰ってきたんですか?」


巌谷(いわや)は太い眉の間に皺をよせ、難しい顔つきで


「いいえ。娘ひとりだけだそうです。」


「ふむ。で、娘はどこへ行ってたか話したんですか?体調不良の症状は?」


「ぼんやりしていて疲労感が強く、会話も難しく、激しい腹痛、吐き気、ときどき咳込む様子もあったそうです。」


若殿(わかとの)は顎に指を添え、考えこみ


「症状が多彩ですね。神経症状、消化器症状、呼吸器症状ですか。

ひと月の間、どこへ行っていたかは聞いてませんか?」


巌谷(いわや)がウンと頷き


「はい。少し回復した娘は詳しく場所を話したそうで、今から行くのはそこです。」


どこに、何のために行ってたの?

ムズムズ気になったので思わず話に割り込み


「で、娘と侍女はなぜ突然失踪して、突然帰ってきたんですか?どこへ行ってたんですか?侍女はなぜ帰ってこないんですか?」


巌谷(いわや)がチラッと私に視線を走らせたあと、若殿(わかとの)に向かって


「訴えによると、五斗(いつます)師君という男がある奇跡を()の当たりにし、『不老不死』を実現する方法を見つけたと主張し、それに感化された人々が五斗(いつます)の屋敷で集団生活をしているそうです。

まず、侍女がその教えに感化され、雍子(ようこ)を誘って五斗(いつます)の屋敷へ行ったそうです。

その集団は『稲苗教(とうびょうきょう)』と名乗っているそうです。」


稲の苗??


にまつわる『ある奇跡』っっ??!!!


稲がみるみる間に成長して実をつけるとか??!!


収穫後の稲穂が勝手にもみ殻と胚芽を落として白米になるとか?


何っっ??!!

ぜひ見たいっっ!!!


ウズウズしてこらえきれず


「『ある奇跡』って何ですか??!!今でも見れるんですかっっ??入信しないとダメなんですかっ?!!」


きっと私の目がキラキラしてる。


若殿(わかとの)が驚いたように眉を上げ


「入信するつもりか?

雍子(ようこ)のように体調が悪くなってもいいのか?

我々はこれから『稲苗教(とうびょうきょう)』が雍子(ようこ)に何をしたのかを確かめに行くんだぞ!

人々が五斗(いつます)に暴行されるなどの被害を受け、洗脳されて無力化し、軟禁されていないか、五斗(いつます)が犯罪を企てていないかを調査しに行くんだぞ。」


怒りを含んだ声で(さと)した。


 田畑の間にある道をしばらく進むと、山すそに広がる森が見えてきた。

ちょうどその森に入る付近に、立派な造り(寝殿造り)の新築らしい屋敷があった。

築地塀(ついじべい)も外から見える茅葺(かやぶき)屋根も真新しく見える。


「ここです。五斗(いつます)の屋敷です。面会を申し込んできます。」


巌谷(いわや)が馬を降り東門から中に入った。

すぐに出てくると、


「中で少しお待ちくださいとのことです。

五斗(いつます)が『内丹(ないたん)』を錬成中だとか。

つまり、瞑想(めいそう)して気を養っているんだそうです。」


出居(いでい)に通され、しばらく待ってると、廊下を渡って五斗(いつます)が現れた。


五斗(いつます)は長いあご髭を蓄え、小袖の上に、腰から下にひだがついてて(すそ)が広がったような黒い衣をはおり、髪の毛はザンバラに伸ばした四十前後の男性。


若殿(わかとの)巌谷(いわや)の前に胡坐(あぐら)をかいて座り込むと、


弾正台(だんじょうだい)のお役人ですね。何の御用でしょう?」


巌谷(いわや)


雍子(ようこ)という娘さんが、ここでひと月ほど滞在した後、体調を崩して寝込んでいるそうですが、ここで何があったか教えてください。」


五斗(いつます)は腕を組み目をつぶり、少し勿体(もったい)つけたあと、


「ここへは私と(こころざし)を同じくする人々が、各自の自由意思で修行しにきます。

いつ来てもいいし帰ってもいい。

瞑想(めいそう)内丹(ないたん)を錬成するもいいし、森に入り修行してもいい。

私から『不老不死』となる教えを直接聞きたい場合、授業料を納めてもらいます。

それすら微々たるものです。」


迫力のこもった低い声でゆっくりと話した。


若殿(わかとの)の目がキラっと光り


「授業料とはどれくらいですか?」

(その2へつづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ