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悪道の土人形(あくどうのつちにんぎょう) その2~竹丸、悪の巣を垣間見る~

阿狗趣(あくしゅ)はカッ!と眼を見開き、若殿(わかとの)を睨み付け


「一週間前、私が仕事に出かけている間に、間男と駆け落ちしたんです!息子を連れてっ!」


「間男の身元は知ってるんですか?関係はいつから?」


「弟子の職人です。いつからかは知りません。」


「駆け落ちする兆候はあったんですか?」


阿狗趣(あくしゅ)は腹立たしそうに首を横に振り


「知りませんっ!そんなもんありませんっ!」


若殿(わかとの)


「うむ・・・」


と小さく呟き、顎に指を当て、何かを考え始めた。

と思ったら私に向かって


「竹丸!さっきから(かわや)に行きたかったんだろ?漏らす前にお借りしろっ!!」


は??

そんなこと言ったっけ?

キョトンとしたが、若殿(わかとの)が意味ありげにウンと頷くので


「あ~~~!そういえばそうでしたっ!!漏れそうですっ!(かわや)をかしてほしいですっ!!」


阿狗趣(あくしゅ)は明らかに迷惑そうに目と口の端をピクピクさせて私を睨み付け


「屋敷の外で、排水溝にすればいい」


ボソッと言い放つ。


若殿(わかとの)を見ると黒目がチラッと動き、屋敷の奥を調べろ?的な合図だと察して


「ダメですっ!!大きいほうですっ!外ですると排水溝が詰まりますっ!!」


阿狗趣(あくしゅ)はチッ!と大きく舌打ちし、決心しかねて悩んでいたみたいだけど、ちょうどそこへ雑色が白湯を運んできたのを見て、


「この子を(かわや)へ連れて行ってやれ!ちゃんと見届けて、終わったらここまでお連れするんだ!」


鋭く命じると、雑色がウンと頷いて案内してくれた。


草履をはいて、庭へ降り、主殿の前庭を西へ横切り、(くりや)と思われる建物で曲がって北に向かうと、北西の壁沿いの端に小さい建物が見えた。


「あそこです。」


雑色が指さした(かわや)へサッサと入り、用を済ませるぐらいの時間を潰し、出てくると、雑色が待ってたので、


「ありがとうございます」


礼を言って、再び雑色の後についていく。


それにしても、見張られてるみたい。


余計な場所を詮索するなってこと?


そういわれるとかえって気になる~~~っっ!!


ってことでキョロキョロ辺りを見回してると、(くりや)のそばには洗濯物が干してあったり、庭には茂って枯れた雑草がそのままだったり、桃や梅の木に混じって雑木が生い茂ってるだけで、別におかしいところはなさそう。


雑草の間に、手のひらぐらいの大きさの土人形が落ちてた。

表面がザラザラしてて白っぽい黄色なのはさっきのと同じで、今度は馬の形をしてた。


主殿も、廊下でつながったその北にある北の対の屋も、格子がおり御簾と壁代(かべしろ)がおろしてあって、中が見えないようになってた。


私と雑色が連れ立って侍所(さむらいどころ)に戻ってくると若殿(わかとの)


「雑色の彼に話を聞いてもいいですか?使用人は彼と彼の妻の二人だけなんですね?」


阿狗趣(あくしゅ)はムッとしたように


「そうだが、何を聞きたいんだっ?オレを疑ってやがるのかっ!!?」


ひぇ~~~!!

ガラが悪くなってるっ!!

本性っ??!!


若殿(わかとの)阿狗趣(あくしゅ)をなだめるように愛想笑いを浮かべ


「いいえっ!ただ、使用人から見た奥様と若君の様子をうかがいたかっただけです。」


雑色が両手を前で横に振り


「しっ知りませんっ!奥様も若君も見たことがありませんっ!私は妻とともに、ここへ一週間前にきたばかりなのでっ!!」


若殿(わかとの)が眉を上げ興味を示し


「あなたたち夫婦に子供はいますか?」


雑色は首を横に振り


「いいえっ!妻とは一年前に結婚したんですが、子は一度も授かっておりません。生活が苦しかったものですから。」


終始不機嫌な阿狗趣(あくしゅ)に別れの挨拶をのべ、屋敷を後にした。


路を歩きながら、黙って考え込んでる若殿(わかとの)


「これからどこへ行くんですか?」


藤原被騙(ふじわらひかた)の屋敷だ」


「報告ですね!

そういえば、阿狗趣(あくしゅ)はなぜ義父である藤原被騙(ふじわらひかた)に娘の駆け落ちを教えてあげなかったんですか?

そうですよっ!藤原被騙(ふじわらひかた)に何の連絡もしないなんて変ですっ!

駆け落ちじゃなくて『実家に里帰りしただけ!』かもしれないのに!

妻の居所が気にならないんでしょうか?」


阿狗趣(あくしゅ)が言うには、『娘の非行を知らせるのが気の毒だった』そうだが、その実、娘と一緒に生活してると思わせ、できるだけ長期間月々の贈り物を引っ張ろうとしたんだろう。

駆け落ちして娘がいなくなったとバレれば、藤原被騙(ふじわらひかた)からの贈り物は一切無くなるだろうからな。」


「娘が元気だと見せかける文を偽造するほどの度胸はないってことですか?」


若殿(わかとの)が険しい表情でウンと頷いた。


そういえば、娘が殺されたかも!って藤原被騙(ふじわらひかた)は心配してたなぁ。


悲劇的な想像が頭に浮かび、


「使用人も藤原被騙(ふじわらひかた)の娘と孫の姿を見てないんですよね?じゃっ、じゃあ、藤原被騙(ふじわらひかた)の疑うようにホントに阿狗趣(あくしゅ)に殺されて、鳥辺野(とりべの)に捨てられたのかもっ!!」


ゾクッ!


背筋が寒くなった。

(その3へつづく)


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