彷徨の案山子(ほうこうのかかし) その2~竹丸、人と神仏の共通点を直感する~
若殿が険しい顔で
「そうだな。
納める米の量は公田は一反(9.9a)あたり二束二把(3%ぐらい)だが、荘園となるとその三倍から十倍を負担させられるからな。
だが、喜んでいる手前、はっきりとは言えなかった。
一応、結論は伝えたが。」
案山子が動いただけなら面白くないなぁ。
動いたのを見た人が死んだのだって偶然でしょ?
一人だけだし!
因果関係は無いでしょ?
「ふわぁ~~~~!
で、結局、なぜ案山子が動き回ったのか、理由は分かったんですか?」
と欠伸が出そうなぐらい退屈になりながら聞くと、若殿はニヤッとして
「ああ。
ある仮説を立て、その後それを検証して、事実だと判明した。
お前にはわかったか?」
フフン!と鼻で笑うように煽るので、ムッとして
「今までの話の中に手掛かりはあったんですか?!」
ウンと頷く。
う~~~~ん。
少し考えるとすぐにハッ!とひらめいた
「わかりました!
その田んぼには実は異世界への入り口があるんです!
案山子は実は別の並行世界では生きてる人間で、その並行世界へは、たまに扉が開くんです!
でそのときは向こうの世界に吸い込まれて、人間として田んぼを歩き回って、またこの世界へ繋がり扉が開くとこっちの世界に吸い込まれて案山子の姿に戻るんですっ!!
そうでしょっ!!
そして、その別世界が『極楽浄土』と呼ばれてるんです!
最後はその並行世界に吸い込まれてしまったんですっ!!」
これ以上の優雅な説明は無いっ!!
と思ったのに若殿が細~~~い冷た~~~い横目でチラ見して、呆れたようにため息をつき
「異世界の入り口を示す手掛かりがあったか?」
う~~~ん。
手掛かりと言えば・・・・
「案山子が日ごとに移動してて、別の日に見たら、活き活きとした表情で今にも動き出しそうだったって言ってましたよね~~?
それがヒントですか?
竹と藁で作った案山子の顔が『活き活き』ってどーゆーことですか?」
若殿が何も答えず腕を組みニヤニヤして、勿体付けようとするのでイラっとして
「もういいですっ!別に案山子がどうなろうと興味ありません!じゃっ!」
侍所に戻ろうとすると、こっちの作戦にまんまとのって、焦ったように私を引き留め
「待て待てっ!教えてやる。
私が何のために大和国へ行ったと思ってる?
腕のいい仏師を探すためだ。
という事は・・・?」
若殿が期待を込めたキラキラした目で見つめる。
どういう事?
ピンとこない。
諦めたように肩をすくめ
「その後、農夫と別れ、目的の寺を訪れた。
仏像製作工房にいた、修行中の見習の若い仏師たちの何人かに会った。
そのうちのひとりは作品を見る限り、将来見込みがありそうだが、仏師として、自分の技術がなかなか向上しないことに悩んでいると言った。
『だから本来、焼却や埋葬して供養するはずの、彫り損じた木製の仏像を、近くの田んぼに置き、人々の目に触れるようにしたんですか?』
と言うと、図星だったらしくビックリしてたよ。」
「はぁ~~~?
失敗作を燃やすのがもったいないから、ちょっとでも誰かに見てもらおうとしたんですか?」
若殿がウンと頷き
「そうだ。
丹精込めて丁寧に彫った仏像を、自分たち以外の誰にも見せず、評価も賞賛もされず処分するのが惜しいと思ったんだろう。
まだ若い仏師だったからな。
『自分の時間をつぎ込んだんです!人生の一部をつぎ込んだってことです!!
自分で言うのもなんですが、いい出来でした!
今にも動き出しそうなぐらい、生きた人間そっくりの菩薩様が彫りあがりました!
だけど、師匠に見せるとダメだって言われたんです。
依頼主に納入できるような出来じゃないって。
だから、もったいなくて、少しでも多くの人に見てもらい、褒めて欲しいと思いました。
村人の間で話題になっただけでも満足しています。
師匠に見つかり叱られたんで、もうしませんが。』
と話していた。
お前なら、心を込めて、血と汗と魂を注ぎこんだ自分の一部を、そう簡単に燃やせるか?」
納得して
「そうですねぇ~~!!
私なら一生手元に取っておきます!!
愛着湧きますもんねぇ~~~!
で、その仏師が何度も手直ししたから、日が変わると、置く場所が違うし、活き活きした表情になったんですね!」
若殿が怪訝な顔で
「それがな、その仏師に
『ご丁寧に笠と蓑を奪い取ってかぶせて、元の案山子に見せかけたんですね?
その後も何度も仏像を手直しして、その都度、置く場所が変わったから、歩き回ったと勘違いされたんですね?』
と聞くと、不思議そうに首を横に振り
『そういえば、師匠に叱られて回収しに行くと笠と蓑が被せられてましたね。
誰かが可哀想だと思って被せたんでしょうねぇ。
手直し?
してません!
最初に置いたままです!
案山子?
私が最初に仏像を田んぼに、こっそり置きに行ったときには、すでにそんなものありませんでしたよ。』
と言ったんだ。」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
少なくとも、どんな作品であっても、かけた時間ぐらいの愛着は湧きますよね!
時平と浄見の物語は「少女・浄見 (しょうじょ・きよみ)」に書いております。