偽りの変化(いつわりのへんげ) その4~兵衛の体調不良の原因が判明する~
銜丸は震えながら
「人の、白い骨が散らばっていて、こ、怖さで血の気が引き、眩暈がしましたっ!!に、匂い?はなにも感じませんでしたっ!!音も、あ、ありませんでした!ジメジメした土臭い匂いはありましたが。」
若殿と銜丸が話し込んでる間に、その気味の悪い古墳からもっと遠ざかろうと、山道を一人で降り、丘の中腹の若殿の背中が見えるか見えないかのところまで降りてきて、ホッと一息つく。
やっぱり墓だから、人骨があって当たり前だよね~~~!
大室隗異はそこで何してたの?
足繁く通ってたなら中で何かしてたの?
それにしても沢山の骨?って怖い~~~!
グッッ!!
いきなり後ろから、大きい手で口を塞がれ、腕をまわして胸から抱えあげられた。
ゴワゴワした硬い皮膚を口元に感じる。
「ん゛っーーーーっっん゛--っっ!」
声を出そうにもピッタリと塞がれて出ない。
こんな時は抵抗しても無駄なので、ぐったり力を抜いて持ち上げられるままにしてた。
犯人は私を胸のあたりに回した腕で持ち上げるように、引きずりながら、山道を登り、古墳が見える頂上に着いた。
「そこをどけっ!!さもないと、この子供の首を折るぞっ!!」
大室隗異がドスの利いた声で、若殿と銜丸を脅した。
犯人の言うとおりにして~~~!!
首の骨を折られる~~~っっ!!
ヒヤヒヤしてると、若殿と銜丸は大人しく後ずさりし古墳への通り道を大室隗異に開いた。
大室隗異は私を持ち上げつつ引きずり、古墳へ入る扉に近づくと、片手で懐から、コの字に曲がった鉄の棒を二本取り出し
「これを穴に差し込み、両手で扉を持ち上げろっ!!」
若殿たちに命令する。
ひぇ~~~!
どーするの??
人骨だらけの中に入りたくないっ!!
気持ち悪いっ!!!
若殿がゆっくりと近づき、コの字に曲がった鉄の棒を拾い上げ
「わかった。落ち着け。大室隗異。お前の目的は全て承知してる。
ただ、その前に、私の推理が正しいかどうかを知りたいんだ。私の説明に間違えがあれば教えてくれ。
お前は十二年前、父君とこの古墳を見つけ、中に入った。
そして、父君を古墳に閉じ込めて殺したんだな?
その重たい木の扉を開けるためには、このような専用の道具が必要だ。
道具を用意し、古墳の中に入ったお前たちはそこで何かを見た。
そして、お前は父君を古墳の中に閉じ込めることにした。
重しを置かれ、中から扉を開けることはできない父君は死亡した。どこか間違っているか?」
大室隗異がゆっくりと首を横に振る。
若殿が続けて
「その二年後、今度は若い侍女二人を古墳に閉じ込めた。その三年後は母君、さらに三年後は妻、合計五人を古墳に閉じ込めて殺した。そうだな?」
大室隗異が血走った目をギラギラ輝かせ、口の端をゆがめて笑い、大きくウンと頷いた。
「そうだ。だが二人目の若い侍女は違う。山棲坊が亀になったとほざいた娘だ。そいつは本当に失踪したんだ。」
は??
なぜ四人も古墳に閉じ込めて殺したの?
目的がさっぱりわからないっ!!
古墳の中で何を見たの?
死骸に何か白いものが刺さってたって銜丸が言ってたけど?
頸に腕をまわされ、いつでも締め上げられる準備が整った状態になりつつも、頭の片隅には疑問がいっぱい。
若殿が困惑した表情で
「ただ、分からないのは、なぜ三年に一度、人を閉じ込める必要があるのか?だ。
古墳の中にいるのは、人を食べる獰猛な獣?
それとも、亀や蜥蜴や蛇?
それとも蜘蛛や百足や蚯蚓といった虫のたぐいか?
いや、人肉を食料とするとは言え、死肉でもいいなら、鳥辺野で死骸を調達すればいい。
周囲に悟られる危険を冒してまで三年に一度、生きた人間を供するとなれば、一体、何だ?
・・・・まてよ、銜丸の言葉『死骸に白っぽい何か刺さってた』のではなく『死骸から白っぽい何かが生えていた』とすると、まさか、人を宿主とする冬虫夏草か?」
冬虫夏草??
って蝉とか蟻とか生きた虫に寄生して死後に生えるキノコ?
唐の国で貴重な薬とされるやつ?
の人に寄生する版?
ひぇ~~~っっ!!
そんなのがあの岩の下にあるの??
こわっ!!
寄生されたら死ぬんだよねっっ??
生きたまま、キノコの菌糸に喰われて、栄養にされて、殺されて、体からキノコが生えるんだよね??
怖ろしさに背筋がゾクゾクする。
ブルッ!
身を震わせるが、相変わらず腕で頸を絞められてる。
(その5へつづく)