偽りの変化(いつわりのへんげ) その3~最初の怪異の謎が解ける~
若殿が唐突に
「あなたの主の大室隗異さんは、お体の具合が悪そうですが、いつもああなんですか?」
銜丸は困惑した表情で
「はい。私が勤め始めたのは五年前ですが、そのころからすでにあんな感じでした。」
若殿が
「大室隗異の両親や十年前に失踪した若い侍女について何か知ってますか?」
「古参の砧という侍女に聞いた話ですが、主の父君がちょうど十二年前に失踪し、母君は六年前に行方不明になったそうです。
十年前に若い侍女がいなくなり、そのあたりでもう一人の若い侍女が亀になったそうです。
三年前には奥方が猿になって逃げ出したそうです。私も猿になった所を見たわけではありませんが。
あの屋敷は呪われているんです。次々と人がいなくなりました。
山棲坊という修行僧の話では、猿が時を経て妖になりそれが女子に変化して主に嫁いでいたのが、人間のフリをし続けることに限界がきて正体を現したそうです。
侍女は過去の因縁により亀に変化させられてしまったそうです。」
ここまで聞いて、ハッ!とあることを思いついた私は、今度は流石に黙っていられなくなり
「わかりましたっ!!
ある法則に気づきましたよっ!!
三年ごとに人が行方不明になってます!
十二年前に父君、十年?九年?前には若い侍女、六年前は母君で、三年前が奥方!ね!そうでしょ?スゴイでしょ?!!」
すっかり得意になって声を大にして若殿と銜丸に言いふらす。
若殿は『当然だ』というように肩をすくめ
「そうだな。で、大室隗異は最近、新しく妻を探しているんじゃないのか?もしくは忠実な使用人を?」
銜丸がギョッとしたように目を丸くし
「はいっ!なぜお分かりになるんですか?
主は昔から度々夜中に、屋敷を馬で抜け出してはどこかへ出かけていましたが、この頃は週に二三度は必ず出かけます。
砧も私も、主には通う女子がいると思っています。
私は従者ではないので、お伴したことはありませんが。」
若殿が鋭い横目でチラッと睨んだ。
「行先は知らないと言いたいんですね?」
銜丸がビクッ!としつつ、ウンと頷いた。
そうこうしてるうちに、歩いて四半刻(30分)ほどが過ぎ、周囲は林や田園ばかりになり、桂川近くまできたようだった。
「あそこです!」
銜丸が指さす場所は、木が生い茂った小高い丘になっているようだった。
銜丸が先導して歩き、木々の間にある丸太でつくった階段になっている山道を昇る。
十間(18m)ほど続く階段を上り終えると、頂上は木が生えてない、開けた場所だった。
ただし、真ん中には長さ二丈(6m)、幅一丈(3m)ぐらいの大きな岩と、その周りにも一辺が三尺(90cm)ぐらいの四角い岩が積み重ねられていた。
「わぁ!!大きい岩ですね!どうやってここまで運んだんでしょうっ!!」
ビックリしてると若殿が、
「四五百年前の、昔の豪族の長の墓だな。いわゆる古墳だ。」
テンションが上がり、大きな岩の周りをぐるっと回ると、南東の地面に、三尺(90cm)四方の木の板と木の枠が埋まっていた。
「若殿っ!!これは何ですか?入り口でしょうか?」
板には丸い穴が数個開いてるが、細すぎて私の指がやっと入るぐらい。
若殿がすぐそばにしゃがみ込み、穴に小枝を挿してみたりして調べてた。
その間、銜丸は、丘の頂上に到着した山道から一歩も我々に近づかず、遠巻きに見てる。
若殿が
「古墳への入り口だとしても、金属の硬い棒か何かが無ければ、開けられないだろうな」
銜丸に向かって
「で、大室隗異はここで何をしていたんですか?」
はぁ??!!
大室隗異がここで何かをしてたって??
そんな話してた??!!!
銜丸がビクッ!と肩を震わせ
「はい?わ、私は、ヤモリが変化した黒い男のあとをつけたのであって、主のことではありません。」
若殿は立ち上がり、銜丸の方へ歩きながら
「ヤモリの話は嘘だな。この季節、ヤモリは冬眠して厩の壁で見る事はできない。
主が足繁く通っているこの場所が気になって、木の扉を開けて中に入ったんだな?
何を見た?」
あっ!!
やっぱりヤモリが男に変身したって嘘なの?
納得。
肩から震えが徐々に全身に広がり、銜丸は今や指先までをワナワナと震わせていた。
「く、暗くて、よく見えませんでしたが、た、沢山のっ、ひ、人の、骨のような、ほ、ほかにもっ、ひ、人の死骸のようなものに、白っぽい何かが刺さっていましたっ!!怖くなって急いで扉を閉めました!だっ誰かに、話を聞いてもらいたくてっ!ヤモリの話をでっちあげました!」
ひぇ~~~っっ!!!
人骨っ??!!
怖っっ!!
背筋がゾクゾクして木の扉からちょっとでも遠ざかろうと、若殿のそばに走り寄った。
若殿は腕を組み地面に埋まった木の扉を見つめ
「ふぅむ。大室隗異はそこで何をしてたんだ?」
銜丸は震えながら首を横に振り、
「し、知りませんっ!!私は、あ、主が木の扉を開き、下に降りたところを見たのです!しばらくすると上がってきましたが、中から何かを取ってきた気配もありませんでした。」
「お前が中に入った時、何か感じたか?匂いや、音や、喉がイガイガして咳込んだとか、息苦しくなったとか、眩暈がしたとか?」
(その4へつづく)