朝堂の晦冥(ちょうどうのかいめい) その2~竹丸、噂の真相を探る~
まず、我々は蔵司を訪ね、蔵子さん(仮名)の同僚に話を聞くことにした。
大内裏の内蔵寮を訪れると、来客用の建物に案内され、蔵子さん(仮名)の同僚の女儒を呼び出してもらい、屏風や衝立で仕切られた空間で待っていた。
衝立の陰から姿を現した同僚の女儒・堂子は、円座で座ってる若殿を見るなり驚いたのか口をポカンと開けた。
慌てて両手で口元隠し、真っ赤になって小さく
「ホンモノだぁ~~~っっ!!!」
呟いた。
若殿は慣れてるのか無反応で、向かいの円座を指さし
「来てくださってありがとうございます。そこへ座ってください。」
堂子がチョコチョコと可愛らしく移動し、座った途端
「同僚の・・・・蔵子さん(仮名)?としましょう。その方が、中務省の役人に性的行為を要求され、断ると多額の贈り物を受け取り口止めされた話は知っていますか?本当ですか?」
若殿に真剣な目で見つめられ、堂子は顔中真っ赤になりすぎて、耳たぶまで真っ赤に染まってた。
躊躇いつつもウンと頷き
「はい。それは廷子さんのことです。典蔵・島小弁さんに宴席に侍るように命令されて、嫌だけどいかなくちゃならないとボヤいてましたから。でも、多額の贈り物?の話は聞いてません。その宴席の次の日から出勤してないんです。」
あっ!実名がわかった!
廷子さんが被害者で、宴席に呼び出した上司が島小弁さんね!
ぼ~~~~っっ!と若殿に見とれる堂子が
「でもぉ~~、廷子はぁ、頭中将様?のような、綺羅綺羅しい、凛々しい殿方たちと、お近づきになりたくて、宮中に勤めにでたといってましたぁ~~!
実家に引きこもって、頭中将様?にお会いする機会を逃したなんて聞いたら悔しがると思いますぅ~~!
島小弁さんに呼び出される宴席はいっつも脂っこいオジサンばっかりでウンザリだって言ってましたぁ~~!」
舌足らず気味にネチネチ呟いた。
『頭中将様?』
のところで小首を横に傾げ、可愛さを前面に押し出しアピールしてた。
堂子の化粧は白粉と紅・眉墨がキッチリ塗りたくられてて、前髪の量と位置を一分(3mm)単位で計算してそうな念入りな装い。
もはや素顔の原形は、見た目からは推測できない。
宮中に勤めに出て、有望な美男子公達を獲得しておけば、将来の不安も減る。
例え女儒という低い身分でも、美貌と実力次第で気に入られれば側室ぐらいにはなれるかも?という計算はあるだろう。
やって損な賭けじゃない。
・・・・フムフム。
廷子も堂子もその口ねぇ~~。
蓄財のため?
それなら相手は『脂っこいオジサン』=『中務大輔』でもよかったのでは?
そこは選り好みするの?
まぁ、まだ若いしね~~~。
諦めるには早いのね~~~。
『イケメンとの恋!』も『将来の安泰!』も手に入れたいのね!
そーゆー意味では若殿は一番の有望株!
きっと、行く先々で肉食系女子に狙われてるのね!
若殿は堂子の熱~~い視線から目をそらし、そっけなく、
「ありがとうございました。典蔵・島小弁さんをここへ呼んでください。」
次に現れた島小弁は三十代半ば、既婚のチャキチャキとした、いかにも仕事ができそうな感じの女性。
ペコリと若殿に会釈しながら着席し
「あの、頭中将様が、何の御用でしょう?」
若殿は愛想笑いのように口先だけで笑い
「ええ、少し疑問に思いまして。
中務大輔に接待してまで依頼したのは、蔵司と内侍司の吸収合併を取りやめてもらうことですか?」
島小弁はギクッ!と笑みを浮かべた頬を引きつらせ、
「はい?何のことでしょう?」
若殿は口元は微笑んだまま、目はギロっと睨み付け
「廷子さんを使って中務省の実務的な長官である大輔の大江珠縁氏をもてなすことで、蔵司の解体を防ぎたかったんですね?
従四位という位と職を失いたくなかったから?」
島小弁は顔色は蒼白だが開き直ったようにキッ!と目を吊り上げ
「だから何ですか!接待は律令で禁じられていますか?何だってしますわっっ!!生活のためには職と俸禄が必要ですからっ!!」
あなたのように血筋だけで食うに困らない立場と違って、こっちは必死なのよっ!!!
とゆー心の声が聞こえそう。
若殿は島小弁の心を見透かそうと目を細めてジッと見つめ
「大江珠縁氏から口止め料として廷子さんに贈られた品物とは何ですか?」
(その3へつづく)