神使いの青鷺(かみつかいのあおさぎ) その2~輪をかけて不思議なことが語られる~
気比が話し続ける。
『そして周囲の落ち葉で水たまりを覆うと、本当に満月が、みるみるうちに、雲に隠れてしまったのです!
天が私の窮状を察して、味方してくれていると思いました。
夜闇の中を歩き続けると、明かりが点った小屋がありました。
戸を叩き助けを求めると、中から若い娘さんが出てきて、わけを話すと中に入れてくれました。
朝までここで隠れていてもいいというので、そうしておりましたら、その娘さんが真夜中だというのに、急にどこかへ出かけてしまったのです。』
」
う~~~ん。
ここまで聞いて、すでに納得いきかねる疑問がワンサカある。
まず、月が雲に隠れたのは、気比が水たまりに落ち葉を浮かべたから?
はぁ?
偶然でしょ?
で、姿を見てないのに後を付けてくるのが元夫だと確信したのはなぜ?
証拠も無いのに?
で、いきなり助けを求めて家を訪ねてきた他人を、ハイハイと中に入れる若い娘がいる?
怪しいし、怖いよね?フツー。
警戒するよね?
変なことだらけで眉唾だが、とりあえず最後まで話を聞こう!
「で、どうしたんですか?あっ!最後の一個、おにぎり食べますか?」
竹皮包みに残ったのを名残惜しく見つめつつ、しぶしぶ差し出すと、若殿は首を横に振って遠慮したので
『いい人っ!!一生ついていきますっ!!!』
すっかり惚れ直した。
再びモグモグする私の横で、歩きながら若殿が
「ここで洋輪の証言を話してやろう。
弾正台が洋輪を呼び出し事情聴取したところによると、洋輪は次のように話した。
ちなみに洋輪は貴族の使用人で、三十代半ば、中肉中背の脂ぎった禿かけの男だ。
『昨夜ですか?
昨夜は、夜中に突然、女を抱きたくてしょうがなくなりましてね、へぇ、お役人さんもそういうときがあるでしょ?
で、我慢できずフラフラと外に出て、xx小路を歩いてたんです。
え?女子を物色して襲うつもりだったか?
いいえっ!無理やり強姦するなんて・・・そんなつもりは、まぁ、多少はありましたがね。
それよりも不思議な事に、xx小路を歩いていたはずがいつの間にか、あたりが枯草だらけの荒野になってましてね、京の都の外へ出ちまったと思ったんです。
仕方なく歩き続けてるとね、アオサギが目の前を横切ったんで、何だか妙な気が起きてその方向へ荒野の中を突っ切るようにして、追いかけたんです。
しばらく歩くと、さっきまで明るかった満月が雲に隠れ、真っ暗な闇夜になったんで、引き返そうにもどっちから来たかもわかりません。
立ち止まっても凍えるだけなんで、とりあえずめくらめっぽうに歩き続けていると、不運は重なるもんで、みぞれ混じりの雨と暴風に雷まで鳴り出しました。
え?穏やかな満月の晩だったって?
いいえっ!!まさかっ!!嘘でしょっ?!!
暴風が吹き、雷が鳴り響いてましたよっ!!都の外はひどいもんでした!
凍え死ぬかと思いましたっ!!
雷と暴風雨がおさまったあと、芯まで凍りかけた体を何とかして温めたいと這う這うの体で、枯れ野原を抜けると、明かりの点った粗末な小屋を見つけました。
熱い白湯でも飲ませてもらいたいと戸を叩くが、中から返事はありません。
少しでも中で休ませてもらおうと戸を開け、中に入ると、灯台に灯りが点してあるが、人の気配はありません。
辺りを見回すと、土間の隅の方に、白い、鱗のような模様のある、太い紐がとぐろを巻いてあり、その上には女物の衣がかかっていました。
近づいてよく見ると、白い紐は蛇で、蛇は女物の袿に体を絡めながらとぐろを巻いていました。
薄暗い明かりに照らされた仄白いキラキラ輝く鱗と、チロチロと出し入れする真っ赤な細い舌、金色に輝く無慈悲な目に、すっかり気分が悪くなり、背筋がゾッとしました。
慌ててその小屋を飛び出し、またあてもなく歩いているとやがて夜が明け、見慣れた景色だと気づくとxx小路を歩いてました。
何だか狐か狸に化かされたような一夜でした。』
」
ん?
またまた、疑問がいっぱい湧く話!!!
白蛇が女物の袿を着てたなんて、あり得ない!
「ええっと、昨夜が満月なのは確かですが、真夜中に暴風と雷雨なんて、ありました?なかったですよね?」
若殿がウンと頷く。
で、二人の話の共通部分は?と考えて、
「アオサギに導かれて、荒野にでて、明かりの点った小屋を見つけるところまでは気比と洋輪で同じですけど、中に入ってからが違いますよね?気比の話の続きはどうなったんですか?」
(その3へつづく)