狐狸の香木(こりのこうぼく) その2
大殿に睨みつけられている使用人たちが奥から一人ずつ
「私はきっちり、大納言邸、左大臣邸へ文箱を届けました。」
「私も中納言邸、右大臣邸へと届けました。」
すぐ右隣りの全浅丸がいきなりガバっと頭を床にこすりつけ
「じ、実は私が届けるはずの、参議さま方へは、じ、実はかわりに竹丸に届けるように頼んだのです!」
はっ?!
急に全ての責任を押し付けられてもっ!
慌てて
「えーーっと、そのぉ~~、それはそうなんですが、私はぁ~~、自分の分の参議さま二人分と、全浅丸の分の参議さま二人分をちゃんとお屋敷に届けました!さぼってなんていませんっ!」
ツバを飛ばしながら冤罪を主張する。
なのに大殿はニヤッと口の端で笑って
「よしわかった。竹丸だけ残れ!他のものは出ていってよい。」
はぁっ?
有罪決定なのっ?
なぜっっ!
焦りと不安でパニック!!
ちゃんと届けたのにぃ~~~~~!
寝ころんで手足をジタバタさせて泣き出したい衝動にかられた。
「で、その後どうなった?」
ニヤニヤした若殿に訊かれて口をとがらせながら
「ずっと平行線ですよ~~!大殿はひたすら『お前は仕事をさぼり参議四人の屋敷に文箱を届けなかったんだろ?』と責め立て、私はひたすら『ちゃんと四人の屋敷に行き、家人に文箱を手渡しました!』と主張するという堂々巡りでした。」
面白そうに眉を上げ
「父上は激怒していたんだろ?お前の処遇はどうすると言ってた?クビか?」
イラっとして
「ハッキリとは言いませんでしたけど、『次はないぞ!』と睨みつけられました。冤罪なのに~~~!!」
若殿は顎に指を添え考え込むと
「でも不思議だな。四人の参議の屋敷で、家人に文箱を手渡したにもかかわらず参議たちが『届いてない』と証言する。
なぜだ?参議たちが受け取ったのに知らんふりを決め込んだのか、家人たちが握りつぶしたのか。
四人の共通点と言えば竹丸だけだから、やっぱりお前が怪しいな。
ちゃんと侍所で家人に手渡したのか?」
思い出してみると・・・
「そういえば、東門を入ったすぐのところに下人が待っていてその人に手渡しました。」
「四回とも?」
「そうです!」
神妙に頷いた。
「そもそも何の文だ?中を見たか?」
ギクッとちょっと焦り
「い、いいえっ!その、文は読んでませんけど・・・・」
ギロっと睨み
「文箱を開けてみたんだな?何があった?」
両手を前で横に振り
「ちょっとだけですよっ!ええと、香りのする木のカケラみたいなのが入ってました!いい匂いでした~~!文もありましたが、内容は知りませんっ!」
冷や汗をかいた。
若殿が興味を示し一層考えこんだ。
「香木・・・?と文、公卿達への贈り物・・・か。何の意味があったんだろう?」
(その3へつづく)