盗人の論理(ぬすびとのろんり) その5
ウ~~ンと少し悩んだが、どう考えればいいのかわからなくなったので若殿に
「もういいでしょ!教えてくださいっ!」
若殿が『仕方ないな』と肩をすくめ
「ゆっくり考えれば簡単な事だ!
まず、一日目と二日目に何も起こらなかったということは肆四、呉伍、陸六 のうちの二人が盗んだという事。
つじつまの合うように何回か当てはめてみればいい。
だが三日目に女、賭け事、酒を全部そろえるためには二日目までに必要なのは何だ?
『酒』を発生させるのは壱一しかないから三日目に壱一が銭を盗む必要がある。
(銭→壱一→酒)
となると銭、酒から肆四が女を発生させる。
(銭、酒→肆四→女)
となると銭、女から陸六が賭け事を発生させれば酒、女、賭け事が全部揃う。
(銭、女→陸六→賭け事)
だから二日目までに盗んだのは肆四か陸六のどちらでもよいが一回ずつ盗み、三日目には壱一が銭を盗んだ。
犯人は 肆四、陸六、壱一 の三人だ!」
ビシッと決めた。
う~~~んまぁ・・・そうかも。
酒を買ってくるのが壱一しかいないからなぁ。
と納得。
この結果を模式図で書くと
一日目:
銭、(酒)→肆四→何も起こらない
*このとき以後、肆四は銭を持っている。
二日目:
銭、(女)→陸六→何も起こらない
*このとき以後、陸六は銭を持っている。
三日目:
銭→壱一→酒
*酒があるので肆四がやっと銭を使い
銭、酒→肆四→女
*女があるので陸六がやっと銭を使い
銭、女→陸六→賭け事
となり『女をはべらし博打をする酒盛り』が三日目に無事発生する。
このほかには無理だと思うけど。多分。
(*作者:スッキリしていただけたでしょうか?)
この結果を聞いて使用人頭は
「はぁ~~~なるほど!じゃあ壱一、肆四、陸六 の三人の泥棒のことを主に伝えてくれませんかね?若君?」
図々しい。
若殿が目を丸くして
「いいえ。少なくとも三人から話を聞いてからにします。彼らはどこにいるんですか?」
使用人頭が少し焦り
「か、買い物や屋敷の掃除や庭の手入れ、薪わりなどの仕事中です!主なら主殿におりますので案内しましょうか」
若殿はニヤリと皮肉気に笑い
「主に報告するのは彼らのことではなくあなたのことになりますがいいんですか?
そもそもこんなに出来過ぎた話があるわけがない。
あなたは自分が着服したことを壱一、肆四、陸六に気づかれ、密かに強請られたから彼らを排除しようとしてるんじゃないですか?
たまたま六人で宴会してるのを見かけ、誰かに謎解きをさせれば解き明かしたという高揚感で調子に乗り彼らをクビにするよう主に進言する者が現れると思ったんでしょう?」
使用人頭が開き直ったように苛立ち
「わしが盗んだ証拠などないっ!その三人だ!」
若殿はますます口をゆがめ
「今回が初めてではなさそうだから、過去の出費を記した帳面と取引実態を照らし合わせば主も矛盾に気づくんじゃないですか?そう伝えますがいいですか?」
使用人頭は首を垂れため息をつき
「それだけは勘弁してください。ほんの出来心なんです。ほんのわずかな額を着服しただけです。それもこれも給金が低いせいです!責任だけは重く使用人たちのわずかな失敗を理由にさらに減額されるんです!理不尽ですよ!」
使用人頭の身なりもさほど贅沢なわけでもないし酒を飲みすぎの顔色でもないから給金が低いのは真実っぽい。
若殿は不承不承という表情で
「では今回は見逃しますが、あなたの主には一応警告しておきます。あなたを見張るようにとね。」
帰り際、門まで送ってくれた熊猫が
「竹丸、お前は盗人上戸か?」
キョトンとして
「は?どういう意味ですか?」
熊猫はフッとわずかに口を緩めて
「酒も甘いものもいける口の『両刀』かと聞いたんだ。」
「甘いものは何でも大丈夫です!酒はわかりません!」
ハキハキ答える。
熊猫がヒョウタンを差し出し
「甘酒だ!これをやる!」
「わ~~い!味見してみます!あっ!甘くておいしいっ!でもちょっと苦いですね。独特の匂いもありますし。でもありがとうございますっ!」
と上機嫌で帰途についた。
帰り道、都の大路を若殿と歩いてると、ハッと思いつき
「使用人が多すぎるから給金が低いんですよねぇ~~。熊猫を若殿が従者に雇ってあげるのはどうですか?」
何気なく聞くと
若殿は驚いたように眉を上げニッコリしたと思ったら
「熊猫は自分の銭をつぎ込んで美味そうな食い物を買い与えていつもお前を喜ばせているだろ?
お前を友人以上だと思っているようだが、それでもいいのか?家で一緒に働いても?」
な、何っっ!
それは困るっっ!と焦って首を横にブンブン振り
「そうなんですか?だから優しいんですか?じゃあイヤですっ!絶対雇わないでくださいっ!」
ビュゥゥゥッ!
不意に強い風が吹いた。
咲いたばかりの桜の花びらがどこからか雪のように風に舞い散り、儚い一生を全うした清々しいまでの潔さに心打たれた。
若殿が舞い散る桜の花びらを目で追い、フッと短く息を吐いた。
「・・・・お前は冷たいやつだな。
熊猫は別に気持ちに答えてほしいとは言ってないし、
もしかしたら、そばにいられるだけでいい・・のかも、しれないのにな。」
寂しそうに呟いた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
論理パズル?をストーリーにするのは難しい気がします。
多分頭の中の『わーーーっ!』とゴチャゴチャしたのが『スッキリ!』するのが気持ちいいんだろうという理屈はわかるんですが。
時平と浄見の物語は「少女・浄見 (しょうじょ・きよみ)」に書いております。