盗人の論理(ぬすびとのろんり) その3
使用人頭が大きくうなずき
「そうなのです。一日目は壱一と言う使用人が市へ買い物に出かけました。その夜、生活費の入った手箱を確認すると支払いに使った額十文より二十文多く紛失していたのです。」
「壱一が銭を持ち出して買い物の後返し忘れたのでは?」
私が口をはさむと使用人頭は首を横に振り
「今までこんなことはなかったし、買い物のために持ち出した銭のおつりはちゃんと返したと壱一は言いました。」
若殿が
「で、二日目も同じことが起こったんですね?額も二十文と同じですか?」
続きを促した。
「はい。二日目は次二が買い物に出かけ、夜確認すると同様に二十文が紛失していました。次二は知らないと言いました。」
私が
「三日目にも二十文紛失があって、その後がちょっと違ったんですよね?」
使用人頭がウンウンと頷き私を見て
「そうです!熊猫がお前にしゃべったのか?
三日目の夜は壱一、次二、参三、肆四、呉伍、陸六 が見知らぬ女性をそばに置き博打をしながら酒盛りをしてたんだ!
しかもこの侍所でな!びっくりしたよ!
『頭も一緒に一杯どうだい?』
と誘われたが、どこからそんな銭を工面したのか見当もつかないので、奴らのうちだれかが盗んだと疑ったんだ。」
若殿が不思議そうに
「でもそれのどこがおかしいんだ?誰かが二日間盗んでどこかにとっておいた銭を三日目に使い切っただけじゃないのか?」
そうそう!と激しく同意。
使用人頭はエヘン!となぜか得意げになり
「そこが奴らのクセが強い変なところでね。
壱一は銭を持てばすぐ酒を買って飲むし、
次二は銭を持てばすぐに賭け事に使う。
参三は銭を持てばすぐ女を口説きます。
この三人は銭があればすぐこの行動をとります。
あと三人はもう少し複雑です。
肆四は銭と酒があれば女を口説きます。
呉伍は銭と賭け事があれば女を口説きます。
陸六は銭と女がいれば賭け事をします。
それぞれ条件がそろうと毎回必ずこの行動をとります。」
何っ?!変な癖っっ!!
そして毎回必ずこの行動をとりますって?!
この六人はからくり人形か何かなの?!
えぇ~~と・・・・・と一応考えながら
「もし一日目に買い物に出かけた壱一が銭を盗んだなら、その日に酒を買い飲んでしまうけど、こんなことは起こらなかったという事ですか?」
使用人頭が頷き
「そう。壱一は銭があるとすぐに酒を買って飲みますがその日、壱一は酒を飲んでいません。
だから一日目に二十文を盗んだのは壱一ではないと言えます。」
驚いて
「いやっ!そんなっ!銭だけ盗んで酒を飲まないこともあるでしょ?体調が悪いとか!」
「この場合それは考えません。
買い物に出かけたものが盗んだとは限りません。
三日目には六人全員が宴会をしていますが、準備した奴らが他の奴らを誘ったとも考えられます。
全員が盗みにかかわったとは言い切れません。」
急に無感情で棒読みでつっけんどんに言い放つ。
若殿が面白そうに眉を上げ
「わかった!じゃあその条件をすべて満たす奴、または奴らが犯人だということだな?
つまり、すべての条件を満たすやつを見つけろという謎解きだ!」
ホクホクと手もみしながら嬉しそうに呟いた。
(その4へつづく)