盗人の論理(ぬすびとのろんり) その2
その貴族の屋敷につくと、侍所で友人の従者仲間・熊猫を呼び出し話を聞く。
熊猫は私より十も年上で主からの覚えもめでたい、真面目で控えめで、一緒に主を待ってるときはいつも私が一方的に話すのを黙って聞いて相槌を打つくらいの大人しい青年。
私は関白家の従者なので、大殿や若殿への便宜を図ってほしい貴族や、若殿の妹君に通いたい貴族やその従者が私に近づき機嫌を取ろうとする場合が多い。
熊猫の場合、今のところ何の便宜も頼んでこない。
それなのに市で甘栗や水あめを買ってきてくれたり、お弁当の焼き餅をくれたり、私に好くしてくれるので私もなるべく悩みを聞いたり、若殿に解決できる相談なら話を聞いたりすることにしてる。
その熊猫が侍所で我々を見て
「あぁ!本当に来てくれたんですか。実は責任者は使用人頭である父なのです。父を呼んできます。」
侍所に使用人頭が来たので、『頭中将』と紹介しようとすると若殿に『しっ!』と唇に人さし指をあてて内緒にするよう命じられたので
「主です。銭の紛失について力になれるかもしれないとのことで話を聞きに来たんですが。」
使用人頭はうさん臭そうに若殿を上から下まで見ると
「はぁ。どこかの貴族様の若君ですかな。わざわざ御足労頂いてありがたいことです。
ただ、我が家もこのぐらいの額の紛失で身代が揺らぐわけではございませんし、身内の恥をよそ様に曝すようでみっともないことですので、今日のところはお引き取り願いたいと・・・」
モゴモゴ言う。
若殿がイラっとしたように
「三日ぐらいではそうかもしれませんが、紛失が再び起こり、毎日続けば被害は深刻でしょう?
早く決着がつくならその方がいいのでは?」
ブツブツと言い捨てると、使用人頭はちょっと青ざめ
「はぁ。誠にその通りでございます。では事の次第をお話いたします。泥棒を捕まえていただけるならそれに越したことはありません。」
と観念した。
泥棒?ということは使用人頭は心当たりがあるの?
使用人頭が話し始めた。
「紛失した銭は私が管理しているこの屋敷の生活費で、食材や日用品、生活必需品を買うための銭なのです。
市や行商で買ったり、屋敷の修繕、庭の手入れなどの支払いにも使います。
その生活費を置いてある場所は私の他、六人の使用人が知っています。
実は・・・・」
と声をひそめ
「その六人の中に泥棒がいると思っているのですが、証拠もなく、主や奥様のお気に入りの者たちなので迂闊に問い詰めることもできません。
若君に泥棒が誰か明らかにしていただき、できれば直接、主に話していただければ、私も頭痛の種が一つ減ります」
う~~ん。手癖の悪そうな使用人が六人もいるのか。
このお屋敷も大変だな。
『も』って我が関白邸も大変みたいな言い方。
若殿が早速と言うように
「三日連続で紛失が起こったそうですね?」
そう!三日目になぜか女性付きの宴会を催した謎!を早く解決してほしい!と意気込んだ。
(その3へつづく)