盗人の論理(ぬすびとのろんり) その1
【あらすじ:侍従友達の勤め先で三日連続少額の銭が紛失したが、三日目に見つかったどんちゃん騒ぎのせいで六人の使用人に疑惑の目が向けられた。あり得ないほど論理的なその六人の行動から銭を盗んだ犯人の特定は簡単かと思われたけど、現実には不自然?時平様は今日も合理的に悩む!】
私の名前は竹丸。
平安の現在、宇多天皇の御代、日本で権勢随一を誇る関白太政大臣・藤原基経様の長男で蔵人頭・藤原時平様に仕える侍従である。
歳は十になったばかりだ。
私の直の主の若殿・時平様はというと、何やら、六歳ぐらいの小さな姫に夢中。
宇多帝の別宅に訳アリで、隠し育てられている姫を若殿は溺愛していて、周囲に気づかれていないと思っているが、使用人はじめ母君・大奥様にもバレバレ。
若殿いわく「妹として可愛がっている」。
でも姫が絡むと、はたから見てもみっともないくらい動揺する。
従者としては、たかが小さな女の子に振り回されてる姿はいかがなものか。
今回は『論理的に行動』って現実にはあまりしないですよね!というお話(?)
ある日、従者仲間からある相談を受けた私は屋敷に戻るとすぐさま若殿に丸投げしてみた。
「あのぉ~、ついこの間、私の従者仲間の主の屋敷で少額の銭が三日連続で紛失するという事件があったらしいんですよ~~!」
若殿は寝っ転がって片肘を立てて『在五中将物語』を読みながら
「ふ~~ん。で、紛失の原因はわかったのか?」
私も、
『誰かが謎の死に方をした』
とか
『絵巻物や和歌に見立てられた変な死にざまだった』
とか
『死にかけの苦しい息の下で死ぬ間際まで考え抜いたような、見るかどうかもわからない犯人にバレないように、でも探偵にだけはわかってほしい!できればみんなが感心して凄いね~~~!って褒めてくれるような謎がいいなぁ!とか思いつつ殺される想定で元気な時から考え抜いたんじゃないかというような奇抜な暗号文を残して誰かが死んだ』
というわけでもないので、面白くない事件だなぁと思いながら、
「いいえ。おかしなことに銭が紛失して二日目まで何事も起きなかったのに三日目に突然、使用人たちが見知らぬ女性を連れて博打や酒盛りを始めたらしいんです。」
書から目を離しモゾモゾと上半身を起こした若殿が
「銭の紛失と酒盛りに因果関係があるのか?銭紛失の三日目がたまたま使用人たちの給料日だったんじゃないのか?」
私は『分かってないなぁ~~この人は!』とウンザリため息をつきながら
「そんなに豪勢な遊びを給料日ごとにできるほど、使用人は銭をもらってません!必需品を買う程度のことしかできませんよぉ~~~」
と言ったが、ん?でも『酒』、『博打』、『女』、のどれも中毒になる人はその『必要経費』をつぎ込んでまでのめり込むなぁ。
若殿が顎に指をあてて考えこみ
「給料をコツコツと蓄えて誕生日だとか何かの記念日に仲間が集まり宴会を開いたんじゃないか?」
私はフフン!と鼻で笑い
「いいえ!そこの使用人はクセの強い奴らばかりで、仲間どうしで示し合わせて予定を立て、その日に宴会しましょうなんて奴らじゃないそうです。
友人の従者仲間もそれを不思議がっていました。
銭が手に入ればその銭をその日以内に使い切って自分だけで博打したり酒を飲んだり女性を口説いたりする連中らしいです。」
若殿は眉を上げ興味を示し
「じゃあ、お前の見立てでは銭の紛失と宴会には因果があるという事か。
使用人のうち誰かが銭を盗んだのになぜか使わず三日目にみんなで宴会をすることになったという事か?
なぜだろう?
・・・・面白そうだな。」
ニヤリと笑い
「よし!調べてみよう!」
我々は興味津々でその貴族の屋敷へ向かった。
(その2へつづく)