表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
187/370

猿投窯の秘色皿(さなげようのひしょくざら) その6

骨董商人は目をギョッと開きギクリとしたが

「あの・・・?若君?一体何の話でしょう?猩子(しょうこ)とは誰のことですか?」


若殿(わかとの)は何かを思いついたようにニヤリと口をゆがめて笑い

「そうか。ではお前には我が家の骨董を鑑定してもらいたい。」

立ち上がって大奥様の偽物の『秘色瓷(ひしょくし)』を手に取り、骨董商人に渡した。


骨董商人は恐る恐る皿を手に取り裏返したり目を近づけたりして鑑定すると

「これは、『越州窯(えっしゅうよう)青磁(せいじ)』ですが出来のいいものですからさぞかし高値でお買いになったんでしょう?」

とカチコチの笑顔。


私には(くりや)から茶色っぽい皿を取ってくるように命じたのでその通りにした。


若殿(わかとの)がじゃあこれはと言って私が(くりや)から取ってきた皿を渡し、骨董商人は念入りに調べた後

「これは『越州窯(えっしゅうよう)青磁(せいじ)』の偽物ですなぁ。騙されたんでしょう?私が持ってきた本物と交換して差し上げましょうか?」

と今度は心から嬉しそうなホクホク顔に見えた。


う~~ん。この骨董商人は偽物を本物と言い、本物を偽物と言う。

目利きが下手なのか嘘をついてるか。

どちらにしてもこんな商人から物を買う人はいないだろう。

若殿(わかとの)はどうするつもり?

と見てると骨董商人の腕をガッと掴み


「そこまでだ!我が家の陶器の大半を偽物にすり替えた罪で今からお前を弾正台(だんじょうだい)に引き渡す。」

と宣言した。


骨董商人が狼狽(うろた)える隙もなく続けざまに

「幸い証拠となる偽物の『越州窯(えっしゅうよう)青磁(せいじ)』を自ら持ってきてくれるとはなぁ。同じ窯で作られたものだと本物の目利きなら一発で鑑定するだろう。我が家にある偽物がどこの窯で作られたかを調べる手間が省けた。」


えぇ~~っ!と驚いたが

「じゃあ今もその偽物の『越州窯(えっしゅうよう)青磁(せいじ)』を大奥様に売りつけようと企んでたってワケですか?じゃあ猩子(しょうこ)は関白邸から本物の『越州窯(えっしゅうよう)青磁(せいじ)』を持ち出し偽物とすり替えたということですか?コイツは本物の『越州窯(えっしゅうよう)青磁(せいじ)』を売って大銭を稼いでたんですか?」


話が全~~~~部つながった・・・が、最大のお宝!


「じゃ~あの!『秘色瓷(ひしょくし)』の本物はどうしたんですかっっ!アレだけは(ケタ)違いのお宝だったでしょっっ!」


とツバを飛ばし、本物の超ド級の唐土(もろこし)宝物の実在にワクワクした。


骨董商人がチッと舌打ちし

「あぁ、あれは偽物だよ。大した銭にはならなかった。白っぽくしてあるところが『猿投窯(さなげよう)産の青瓷(あおし)』にしては凝った作りだったがな。

こだわりの強い職人の精巧な模造品だとは認めるが、本物の『秘色瓷(ひしょくし)』ではない。」

肩をすくめ

「かくいうオレも実物を見たことは無いがな。『猿投窯(さなげよう)産の青瓷(あおし)』はあらゆる種類を見慣れているから間違うはずはねぇ。だから大した銭にはならなかったのさ、残念ながら。」

(うそぶ)いた。


見たことないなら本物かもしれないじゃん!


・・・・ってアレ?もしかして!

「大奥様が割ったときには既に偽物とすり替えられてたんじゃないですかっ?」

大奥様を見るとずっとキョトンとして理解できてないよう。


若殿(わかとの)がオホンと咳払いし

「母上、母上が壊したと思った『秘色瓷(ひしょくし)』はすり替えらえた偽物でしたが、そもそも父上が購入したものも偽物だったかもしれませんし、気に病むことはありません。

それより我が家の陶器のほぼすべての『越州窯(えっしゅうよう)青磁(せいじ)』が猩子(しょうこ)の手で偽物つまり『猿投窯(さなげよう)産の青瓷(あおし)』にすり替えられていたんですよ!損失としてはこちらのほうがゆゆしき事態です!」


全部をクッキリ理解した大奥様はポカンと口を開け(ほう)けたまま二の句が継げずにいた。


まだ謎が残っていたので勢い込んで

「あの紙で包んだ陶器のカケラは何だったんですか?」


若殿(わかとの)はこともなげに

「あぁ、あれは銭になりそうな本物の唐渡(からわたり)陶器つまり『越州窯(えっしゅうよう)青磁(せいじ)』のすり替えを猩子(しょうこ)に急かした秒読み(カウントダウン)だ。

猩子(しょうこ)が関白邸から本物を持ちだし、月一回のxxx寺参拝で偽物と本物を交換、猩子(しょうこ)が元の場所に偽物つまり『猿投窯(さなげよう)産の青瓷(あおし)』を戻したんだろう。

紙で包んだ陶器のカケラは


『正一』『正』『王』『干』『十』『一』


の順で送られてきたハズであれは一見、漢字のようだが意味はなく、文字の読めない猩子(しょうこ)には棒の数で示したんだ。


『六』『五』『四』『三』『二』『一』


と一つずつ送り付けることで期限が近づいてると恐怖をあおったんだ。」


フムフム!

強制して嫌な事をさせるためには秒読みすればいいのかぁ~~!

悪知恵ゲット!

猩子(しょうこ)はすり替えを急かされ『一』になったので奴に襲われると思い怖くて夜逃げしたんですね!」


若殿(わかとの)が眉をひそめ

「仲間なら合流しただろうけど一方的に脅されて犯罪に手を染めていたのかもな。」


ともかく謎が全部スッキリして晴れ晴れした気分で

「でもまぁ器が漏れてて汁がこぼれるだとかすぐ壊れるだとかの実用上の不便が無ければ何でもいいっちゃいいですよね~~~!現に今まで誰も気づかなかったんだし。」

軽口(かるくち)(たた)くと


若殿(わかとの)が眉を上げ

「あぁ!それに唐土(もろこし)の陶器に大金が動き、作る価値があると分かったわが国の工人は真似しようと必至で技術を吸収・改良し努力するから、釉薬(ゆうやく)を使用した陶器(施釉陶器)がわが国でもここまでに発展した。

大金をはたいて嗜好品を買いあさる父上の道楽もまんざら無駄とは言えないな。」

と面白そうに呟いた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

紙にメモって思考(試行)錯誤するという贅沢は平安時代には誰でもできるワケじゃなかったんですよねぇ~~~。

時平と浄見の物語は「少女・浄見 (しょうじょ・きよみ)」に書いております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ