猿投窯の秘色皿(さなげようのひしょくざら) その5
大奥様はハァとため息をつき
「わたくしが恐慌を起こしてオロオロしてたら猩子が『問題ありませんわ!そっくりの偽物を用意します!』というので任せたのよ。そうしたら次の日にはどこからか持ってきてくれたの!あの時は助かったわぁ~~!猩子が女神様・観音菩薩様!に見えたものよぉ~~!」
いや全然助かってないけど。
本物は割れたし。
大殿が気づいたら充分離婚理由になる。
「お前にもそろそろ今回の事件の全体像がつかめただろ?」
相変わらずニヤニヤしながら若殿がそういうと同時に北の対の廊下に侍女が現れ
「奥様。骨董商人が面会を申し出ております。ちょうどいい品が手に入ったからぜひとも奥様に品定めしていただきたいと申しております。」
頭を下げた。
若殿が大奥様に伺いもせず
「わかった。ここへ通してくれ!」
と命じるとしばらくして骨董商人が案内されて姿を現した。
その骨董商人は目つきが悪く、筋肉質のとにかく背が高い、喧嘩自慢みたいな体型の人で、高級そうな生地の水干を着てはいるが、装飾は質素。
お洒落するのが好きで人当たりと物腰の柔らかい、どんな話題でも響くように笑顔で返事が返ってくるという想像通りの『一流商人』からはかけ離れてる人だった。
大奥様にはよく『一流商人』が訪ねてくるものだから、その骨董商人のちょっと殺伐(?)とした雰囲気に少し違和感があった。
骨董商人は背負っていた葛籠を下ろし、中から木箱をいくつか取り出し、蓋を開けると布で包まれた碗や皿がでてきて、それを広げて大奥様に示し
「これは先日、貿易船から買い付けた唐渡の『越州窯青磁』でございます。お目が高い大奥様にはうってつけかと思われます。」
悪い目つきを一生懸命取り繕って無理やり口角を上げてぎこちなく笑うので頬はピクピクとひきつっているように見えた。
大奥様の目の前に並べられている陶器をしみじみと眺める。
ん~~~?でもぉ~~~、
これさっき厨でみた青っぽい緑色の器や皿とほぼ同じじゃないのぉ?
違うところは色合いぐらいかなぁ?
大奥様は骨董商人に対面して座っているが目の前に出された陶器よりも隣に座る若殿の顔色をチラチラと窺い
「ねぇ太郎?どう思う?いいものかしら?どうすればいい?」
若殿は骨董商人がくると、さっきまでの笑顔を引っ込め真剣な怖い顔を作って腕を組んでジッと座ってたが、重そうに口を開き
「猩子はどうしてる?元気でやってるか?今どこにいる?」
はっ?何のこと?またいつものハッタリ?
と驚いてると若殿は続けて少し砕けた笑顔になり
「あぁそうか、まだ猩子が失踪したことすら知らないのか?急かしてまで催促したのに猩子が行方不明じゃ銭の当てがなくなり首が回らなくなったんだな?だから自分で出向いて何とかするしか方法がなくなったんだな?」
唐突に変なことを骨董商人に訊いた。
(その6へつづく)