石龍の花嫁(せきりゅうのはなよめ) その9
次の日の早朝まだ薄暗いうちに、若殿と私は今は白陀が主となって住んでいる屋敷を訪れた。
少しずつ周囲が明るくなって朝日が上ってくるなぁと思ってると若殿が
「見ろっ!この独楽型の石をっ!」
といわれたので見てみると、独楽型の石の棒部分に光が当たり、円盤部分に落ちた影がちょうど「卯」の線と一致していた。
「えぇっ!!じゃあこれは時刻を示す石だったんですか?太陽の位置によって変わる?いまは『卯三つ(六時)』ですか?次が辰一つ(七時)、辰三つ(八時)、巳一つ(九時)、巳三つ(十時)、・・・と進むはずだから?」
若殿がウンと頷き
「そうだ。あの古文書の文言に『春分の辰 寅より昇り四海(東西南北四方の海)を統べる』というのがあっただろ?あれは辰の時刻にこの渦巻状列石を寅(東北東)から見ろという意味じゃないか?」
私はその思いつきに興奮して
「辰!といわず今から見張っていましょう!寅からといわず色んな方向から!」
と私はウロウロ渦巻状列石の周りをまわっては立ち止まり眺め、まわっては立ち止まり眺めをいろいろな角度と方向から繰り返していたけど渦巻状列石の形は一向に変化しない。
もうすぐ辰一つがくる!という時刻になって若殿は寅(東北東)方向から渦巻状列石をジッと見つめている。
私も相変わらずいろいろな方向から眺めては周りをまわって立ち止まりを繰り返していると若殿が
「ほらっ!見てみろっ!ここから渦巻状列石の影をみるんだ!」
というので若殿のそばに走り寄り申(西南西)方向におちた渦巻状列石の影を見ると、渦巻の端の方にある尖った高さの高い二つの石が上顎と下顎、中心付近の石がギザギザした歯、手前の渦巻をちょっとはみ出した石が目というふうに影が龍の顔に見えてきた。
渦巻の中心部分にあるほぼ球体の石は龍の開けた口の中にあり、まるで龍が珠を飲み込んでいるように見えた。
不思議な影絵に気分が高揚してピョンピョン飛び上がりいろんな角度から影絵を見てみるけど、寅方向から見ないとうまく龍の顔にならなかった。
「すごいっっ!!すごいですっっ!珠をくわえた龍ですねぇっ!舌まで見えます!うまいことできてるなぁ~~!」
と感心して見続けていたけど、太陽の角度が少し変わるとすぐに龍の顔を見るのが難しくなった。
へぇ~~~!と感動して
「これが渦巻状列石の秘密だったんですね!いや~~!いいもの見ましたぁ~~!春分の日じゃないとダメなんでしょうかね?」
「いちばん上手く見えるのが春分の日の辰の刻だろうな。」
と若殿も上気した顔に微笑みを浮かべて興奮してた。
私は調子に乗って
「じゃあ後二つの文言の意味は何でしょう?
・龍頭は水を操る
・龍頭は能登より出づる
龍の頭は一つの石を指すのではなく、列石全部でしょう?
『水を操る』と『能登より出づる』はどういう意味ですか?」
(その10へつづく)