石龍の花嫁(せきりゅうのはなよめ) その6
若殿はムスッとした表情で
「お前に言う必要はない。我慢してまで見るほどの価値があるとは思えん!もう忘れろ!」
とキレられたので仕方なくあきらめた。
それから数週間が立ち、善女龍王のことも古文書の謎のこともすっかり記憶から消えそうになったころ弾正台の役人・巌谷が若殿を訪ねてきた。
巌谷はいつもの平身低頭な態度ではなく少し居丈高な上から目線で若殿に対面し
「頭中将殿、お久しぶりでございます。今日はいつものような捜査の助言をいただきに来たわけではなく、ある女性の死に関わる関係者としてお話しをうかがいたく参りました。」
と正座しているが両手を自分の腿におき背筋をピンと伸ばし堂々と尋ねた。
つまり若殿は誰かの死に関わってると?
容疑者=犯人だと?思われてるってこと?
う~~ん。面白くなってきた!
と一人でテンションが上がる。
若殿は眉をひそめ怪訝な顔で
「誰の死に関わってると言うんですか?」
巌谷はエヘンと咳ばらいし
「善女龍王という祈祷の舞を生業とする芸人女です。ご存じでしょう?先日この関白邸で舞を舞ったと聞いておりますが。」
若殿が怪訝な表情のまま
「そうですが、彼女が死んだんですか?」
巌谷は疑いの目つきで
「ええ。昨日彼女の屋敷で遺体が使用人によって発見されました。彼女が最後に書き残したと思われる文にあなたの名前が書いてあったのです。」
若殿が眉を上げ興味を示し
「ほぉ。どういう内容ですか?」
巌谷がイヤらしい下卑た笑いを浮かべ
「しらばっくれるつもりですか?恋人の一人でしょう?それはそれは熱烈な愛の言葉が記されてありましたよ。単刀直入に言わせてもらうと、痴情のもつれからあなたが善女龍王を殺害したと考えました!」
とキッパリと言い切った。
私は取り繕おうとして
「いいえっ!若殿と善女龍王は恋人じゃありません!若殿はキッパリと断り善女龍王を怒らせて帰してしまったんですからっ!」
とツバを飛ばすと巌谷が『はぁ?』という表情で私を見て
「竹丸とか言ったな。お前はその現場を見たのか?その場に一緒にいたのか?子供連れで・・・?一体どういう趣味でそーゆーことに・・・?頭中将殿?」
と理解できないという複雑な表情で若殿を見た。
若殿は焦って
「いえっ!深い意味はありませんっ!気にしないでください!とにかく、私は善女龍王と何の関係もありません。一度我が家で祈祷の舞を見せてもらっただけですっ!」
と『何かしらの異常な趣味の持ち主』と世間に認定されたくないのか必死で『善女龍王と無関係』を強調してた。
巌谷はまだ疑いを持ちつつもそれを信じたのか
「では・・・頭中将殿にやっぱり捜査の助言をいただきたい。善女龍王の屋敷で一通り調べてもらえますか?」
とすがる目つきで若殿を見て、若殿が快諾すると肩の荷を下ろしたように帰っていった。
巌谷から聞いた善女龍王の屋敷へ向かうことが決まって、私は善女龍王の屋敷にはxx古墳上部にある渦巻状の列石が再現してあると言ってたことを思い出し
「じゃあxx古墳にまつわる古文書の謎も解けるかもしれないですよね!実際見てみたら!」
とワクワクしながら若殿にお伴した。
(その7へつづく)