石龍の花嫁(せきりゅうのはなよめ) その4
若殿はウンと頷き善女龍王に向かって
「あのぉ龍を体内に宿した証拠というのを持ってらっしゃると聞きましたが、不躾ながら見せていただけませんか?」
と微笑むと善女龍王は首を傾げながら品を作って若殿にニッコリと微笑み
「頭中将様ですわね?お歳は二十ぐらいでらっしゃるようね?あなたは女子と枕を交わしたことがおありになる?」
若殿の顔を横でマジマジと見てると面白いぐらいみるみるうちに真っ赤になり口ごもりながら
「そ、それが今何か関係があるのですかっ?」
善女龍王がまた首を逆方向に傾げ人さし指を立て自分の唇に当て誘うように笑い
「わたくしが龍を宿した証拠はわたくしと同衾した者にしか見せられませんわ!」
と恥じらうように言ったが、私にはろうたけた女性が初心な生息子をその気にさせる技術の一種のように見えて仕方がなかった。
そして大きな白蛇が真っ裸の若殿を足から丸のみにする想像が頭に浮かびブルっと身震いした。
龍を宿した証拠を見てみたい!が若殿が白蛇に呑まれでもしたら大変!でも同衾って一緒の衾(掛け布団)で寝ればいいんでしょ?じゃあ私でもいいのでは?と思い
「若殿っ!私が同衾しまっ・・・!」
と勢いよく言うと若殿が私の口を慌てて手でふさいだ。
口を押えた若殿の手をグイッとはがし
「いいじゃないですか!龍の証拠が見たいですっ!一緒に寝るだけなら簡単でしょっ!」
と言い切ると善女龍王が袖で口元を隠してクスクスと笑いだし
「いいですわ!では三人で共寝致しましょう。朝になれば証拠をお見せします。」
『どうだ!私のおかげだ!』と威張って若殿を見るとなぜか蒼白な顔で冷や汗をかいてた。
う~~ん、つまり善女龍王と共寝すれば私も若殿も生息子ではなくなるということ?と少し不安。
三人で同衾!という決定に大殿は面白そうに膝を叩いてガハガハと笑い、大奥様は心配そうに扇越しに若殿の様子をチラチラと伺い、善女龍王の従者は慣れているのか真面目な顔つきで成り行きを見守っていた。
さっそく東の対の屋に畳と褥が用意され三人が並んで横たわれる寝所として整えられた。
私はすぐにでも寝たかったが若殿も善女龍王も寝ようとはせず、灯台の灯の中ボソボソと話し続けた。
その内容は善女龍王の生い立ちや今に至った経緯で、それによると善女龍王は元は内裏で女官をしていたらしいが、ある日、室生寺に参拝に行き龍が身体に入ったことはさっき聞いた通り。
室生寺から帰る途中の大和国、巻向の地で僧侶・白陀と出会い、ある古文書の研究を手伝っているとのこと。
その研究対象は大和国・巻向の地にその昔、多数築造された古墳の一つ『xx古墳』について書かれた竹簡から写したという古文書だった。
白陀はその古文書に書かれている『xx古墳』の謎に魅せられて僧侶の務めを捨て古文書の謎を解くために、今は善女龍王と都で銭を稼ぎ暮らしているらしい。
私は謎が気になったので素直に
「『xx古墳』の謎とは何ですか?」
と聞くと善女龍王は
「xx古墳に眠る皇女は龍の花嫁となったとその土地の伝承にあるの。そして白陀が見つけたという竹簡にはその古墳が築造された当時の様子が描かれているのよ。その古墳が築造された当初、古墳上部には多数の様々な形の石が渦巻状に並べられていたり独楽の形の石が置かれていたらしく、その意味を知りたいと思い屋敷の庭に再現してみたの。」
へぇ~~!そこまでやるのかぁ!と感心し、それで?その後は?!と気になって
「で結局、渦巻状に並べた石の意味がわかったんですか?」
とワクワクして尋ねた。
(その5へつづく)