石龍の花嫁(せきりゅうのはなよめ) その2
私も不思議に思ったけど詳しく知らなかったので
「さぁ?それは知りませんが、大和国にある室生寺の僧侶がある貴族に祈祷を頼まれ善女龍王を紹介したらしいです。善女龍王は室生寺で修行したことがあるそうで、その時に龍王を宿したらしいです。祈祷してもらった貴族やその従者が噂を広めて人々が次々と祈祷を頼んだらしいです。」
若殿が思い出そうとし
「確か、室生寺といえば『奥の室生川の上流に位置する洞穴は竜穴、すなわち龍神の住み家として信仰を集めていて、祈雨や止雨の霊地である』らしいな。龍は水を統治する聖獣だから善女龍王が室生寺で修行した尼僧ならその祈祷は水に関係があるのか?」
私も噂の詳細を思い出そうと記憶を引っ張り出し
「祈祷に水を使うわけではなく、舞いを舞うところを友人従者は見たそうで、それがまた見事だ!とか言ってた気がします。」
このへんで疑い深い私は『めったに見れない美人の尼さんの舞が美しかったから好色貴族がハマっただけでは?』と霊能力や龍王の証拠とやらに疑念が湧いた。
それにしても・・・とワクワクして
「龍の住み家が室生寺にあるんですかっ!そこへ行けば龍に会えるんですかっ?!でもさっきの空海の伝説では雨ごいの祈祷中に頭に金色の蛇を載せた五尺ほどの蛇が現れたって言ってましたよね?ということは善女龍王はこの世では蛇ってことですか?室生寺の龍の住み家には頭に金色の子蛇を載せた蛇がいるってことですかっ?」
龍は見たいけど蛇ならそんなに見たくはないかも。
頭に金色の子蛇を載せた蛇はちょっと見てみたい。
脱皮の抜け殻が頭についてただけ?とかじゃないよねぇ、まさか。
どちらにしても善女龍王も舞も見てみたかったので若殿に
「従者仲間に善女龍王の舞を見た貴族の名前を聞いて、ウチでも舞ってもらえるようにその貴族に頼んでみましょうよっ!若殿が頼めば断れないでしょっ!権力のゴリ押しでっ!銭をいくらでも積めばいいじゃないですかっ!親しくなれば龍王を宿した証拠も見せてくれるハズですしっ!!龍の化身ですよっ!面白そうですっ!今しかないですよっ!」
と龍の化身をこの目で見れるという興奮ですっかりテンションが上がって若殿の腕を掴んでグイグイと揺さぶった。
若殿が口角を下げた嫌悪の表情で
「あのなぁ・・・嘘だと分かっている詐欺に引っかかりに行く利点は・・・」
と言いかけて顎に指をあてて少し考えこみ
「そうだな。詐欺行為が目に余るようなら弾正台に訴えないといけないしな。祈祷を頼んでみるか。お前の友人に関白が見たがっていると話をしておけ。」
とアッサリ了承した。
美人尼僧の舞を見たかったんだよね?本音は?堅物ぶったって健全な青少年だし。
さっそく友人従者に話をつけ『龍を宿した美女尼僧の妖艶な舞』が楽しみすぎて気もそぞろになった私は沓が左右バラバラのまま若殿に履かせ恥をかかせたり、大殿の大事な文を届ける相手を間違え政治的な根回しが敵対相手にバレてワヤクチャになったりと『小さな』やらかしを多数重ねてるうちにその日がやってきた。
(その3へつづく)