石龍の花嫁(せきりゅうのはなよめ) その1
【あらすじ:都に現れた『龍を体内に宿した女性』にその証拠を見せてもらおうと屋敷に招いた時平様は私のゴリ押しで彼女と仲良くなろうとするがあとちょっとのところで我慢できずに彼女を怒らせた。新奇なものが大好きな私は彼女が研究する古墳の謎にも興味津々だが、どうやって解くのか皆目見当がつかない。春一番には龍も時平様も天に昇る!】
私の名前は竹丸。
平安の現在、宇多天皇の御代、日本で権勢随一を誇る関白太政大臣・藤原基経様の長男で蔵人頭・藤原時平様に仕える侍従である。
歳は十になったばかりだ。
私の直の主の若殿・時平様はというと、何やら、六歳ぐらいの小さな姫に夢中。
宇多帝の別宅に訳アリで、隠し育てられている姫を若殿は溺愛していて、周囲に気づかれていないと思っているが、使用人はじめ母君・大奥様にもバレバレ。
若殿いわく「妹として可愛がっている」。
でも姫が絡むと、はたから見てもみっともないくらい動揺する。
従者としては、たかが小さな女の子に振り回されてる姿はいかがなものか。
今回は『石龍』も『蜥蜴』も『トカゲ』なんですってね!というお話(?)。
ある日、従者仲間から面白い噂を入手した私は朝政を終えた若殿を捕まえ
「知ってますかっ?京の都に白昼堂々、龍王が身体に乗り移り化身となった女性が姿を現したらしいんですっっ!!」
と興奮気味に唾を飛ばした。
若殿はちょっと目を丸くして驚いた表情を浮かべたがすぐに呆れ顔になり、ため息まじりに
「お前はまたしょーもないウソに騙されてよく懲りないし厭きないなぁ・・・・」
と呟いた。
初めっから嘘と決めつけるゴーマンな態度にイラっとした私は
「どーして嘘ってわかるんですかっ!会ってみないと分からないでしょっっ!龍がこの世にいないとでもいうんですかっ!偉~~い人たちが何度も龍に遭遇るでしょっ!あれも全部嘘ですかっ!」
と鼻息を荒げた。
私の偏見では、行者とか僧侶とかが神社や寺を建てたい場所で『ここで龍を見た!』って言えば『建立していいよ!』って許してくれる雰囲気があるのか『天からの啓示を受けて龍を見た!』って言いがち。
あと自分に超能力があると信じてる人や自分の師匠が超常的にすごい人だって主張したい弟子たちが物語を捏造して神格化しようとした結果、龍とか天狗とか超自然生物を見がち?
ほとんどの人が妄想かもしれないけど、本物の龍を見た人がいる可能性も無いワケでも無い。
若殿は意地悪そうに口元をニヤリとゆがめて
「ではその龍王の化身という女性が本物だという判断はどこから来たんだ?」
私はフフンと鼻で笑い
「従者仲間が言うにはその女性は龍王を体内に宿したという証拠を持っていて、女性と親しくなった人だけが見ることができるらしいです!私が思うに体に鱗があるとか、口から珠を吐き出すとか、喉元に逆さに鱗があるとか、雨を降らせたり止ませたりするとか何かがあるんですよ!指が鈎爪だとかかもしれません!」
と絵巻物で見た龍の姿を思い浮かべて言い張った。
若殿は少し興味を惹かれたように眉を上げ
「その女性の名は?知ってるか?」
私は得意げに
「善女龍王というそうです!」
若殿が何かを思い出したように
「善女龍王と言えば確か、『824年(天長元年)、干ばつがあり、天皇の命により空海が神泉苑において多数の高僧と共に請雨経の法を執り行った。祈祷が7日間に及んだ時、祭壇の上に五尺(150cm)ほどの蛇が出現したが、その蛇は頭に五寸(15cm)ほどの金色の蛇を載せており、すぐに池に入っていった。空海の他は4人の高僧だけがこの蛇を見た。空海は彼らに、天竺の阿耨達池にいる善女龍王が請雨経の法の霊力を顕すために現れたと説いた。まもなく空が曇って雨となり、国中が潤った』という伝説があるな。」
と言った後、不思議そうな顔で
「その善女龍王が干ばつでもないのに、なぜ都に姿を現したんだ?」
(その2へつづく)