東下の讖緯(あづまくだりのしんい) その4
藤原庸がゴクリと喉を鳴らして息をのみ風水師の顔をじっと見て頷くと風水師はゆっくりと語りはじめた。
「あなたは幼いころから周囲の人の注目を引いて人気者になりたい、友人と一緒に過ごしたいと思いながらも、自分ひとりの時間も大事にしたい性格ですね。仕事には熱心に打ち込むのに気が散りやすく間違いが多いので自分が思うより評価されていません。そして自信を失っていますね?父親に劣等感を持ちもっと認めてほしいと思っているが自由にしてほしいとも思っている。母親には厳しくも優しく見守られ期待を裏切りたくないけれど重荷だと思っていますね?」
とここまで聞いて藤原庸はビックリしたように目を見開き口をポカンと全開にして
「すげぇ~~~~っっ!全部当たってますっ!どうしてわかったんですかぁ!そうなんです。上司は私の能力を認めてくれないんですよぉ~~~!こんなに日々努力してるのにぃ~~~!バカばっかりなんですかねぇ上司はぁ~~!それとも社会ってこーゆーもんですか?親の権力が強いモンばっかりが出世するようなぁ~~~!」
とチラッと若殿を横目で睨み付けるが、オイオイ!同じぐらいから始まったって言ってたじゃん!と突っ込む。
風水師は続けて
「このままではあなたは一生出世しません!あなたがまずすべきは・・・・」
絶対『片づけ』って言う!ってゆーか『片づけ』って言えっ!
「鬼門つまり北東に植物の鉢を置くことです!」
あ~~っ!ハズれたぁ~~っ!てかそれか?すべきことって?
風水師は平然と
「鬼門は鬼が入ってくる場所ですから、その場所には水回りつまり厨や厠を避けるのは常識です。これはあなたの屋敷でも問題ありません。しかしより良い方法は魔除けの意味をこめて、ヒイラギ、ナンテン、オモトの鉢や猿の置物を鬼門に置くことです。わたくしの作ったそれらの品々を『特別に今だけ』お安くお分けしてもよろしいですが、どうします?」
藤原庸は目がキラキラして
「はいっ!ではよろしくお願いいたします!おいくらですか?」
とすっかり爆買いする気のようだ。
若殿の袖を引っ張り
「いいんですか?このまま悪徳風水師の言うままに商品を買わせて?友人?親戚なんでしょ?」
と囁くと『確かに』と納得した若殿が藤原庸に向かって
「お前がすべきはまず屋敷中の片付けだっ!物をこれ以上増やすことじゃないっ!」
とビシッと顔を指さし厳しく諭したが、藤原庸は『何言ってんの?』という表情で
「はぁっ?!そんなめんどくさいことしなくても植物と猿の置物を置けばいいって先生がおっしゃってるんだからいいだろっ!先生が見事に性格を言い当てたのを見てただろっ!こっちはお前より先生を信用してんだっ!それに我が家は十分片付いてるんだっ!これ以上何をどう片付けろっつーんだっ!」
とブチ切れた。
風水師は誰にでも当てはまるようなことしか言ってないし、『出世したいからその方法を教えて』と言ってることから自分が思ってるより評価されてないんだろうなぁと想像はつくし、有名人と自分を同一化したがってるところからもチヤホヤされたい人なんだなぁとも想像がつく。
ただ本当のことつまり『片付けしたほうがいいよ』だけにはなぜか逆鱗に触れたみたいに怒り出す。のはきっと自分でも薄々『何とかしたい!しなければ!』と思ってるからでは?
若殿もそこまで藤原庸の心中に踏み込むつもりはないらしく肩をすくめてこれ以上の説得をあきらめたようだ。
結局この風水師が神秘的な超能力を持ってる事はありえ無い!と判明し、民部卿の謀反を予言したというよりも誰かに買収されて民部卿の冤罪を作り上げるのに加担したという方が正しそう。
その陰謀を企てた首謀者として一番怪しいのは、民部卿が調べていたという明るみにされては困る無登録荘園の持ち主だが、宇多帝が典薬寮の役人・非時を使った自作自演という真相を知る人?少なくとも関白家に非時がひじき売りの行商人として出入りしたことを知ってる人物・・・・関白家の誰か?か帝に近い人?
(その5へつづく)