相即不離の色香(そうそくふりのいろか) その2
若殿は面白そうに眉を上げ
「お前みたいな子供に恋愛の機微なんてわからないだろうな~~!」
とフフンと鼻で笑うのでそのバカにした様子に『誰が何の優越感だ?若殿のくせにっ!』とイラっとし
「妙齢の女性の恋愛の機微なんてわかるんですか?そんな相手に恋したことないんでしょ?」
とド直球を投げると、一気に血の気が引きその直後に血液が逆流し血管が浮き上がるくらい顔を真っ赤にして激怒し
「お前っ!一体何の事を言ってるっ?!わ、私がいつ『妙齢じゃない』女性に恋したっていうんだっ!恋愛っていうのはちゃんとした、成熟した、大人の女性とするもんだぞっ!じゃなければいっ、異常者だろっ!!」
とツバを飛ばす。
あ~~~~めんどくさい。いちいち突っかからないでほしい。胸に手を当てて今の自分の反応をジックリと思い返して熟考してほしい。
それから若殿は、輔世王の姫の屋敷に行く途中ずっと何かを考えこみながらブツブツと独り言を言い青ざめたり赤くなったりを繰り返し最後は真っ白な顔つきで黙り込んでしまったのがちょっと可哀想に思った。
もうすぐ屋敷につくというとき若殿が急に立ち止まり何か思いついたのか上気した顔で勢いよく
「そうだ!私も妙齢の女性に恋したことがあったぞ!宮中のな、御帳(御座所の帳)を上げる奉仕をする宮女の中に『美しいなぁ』と思った女性がいたぞ!ちゃんと妙齢の女性だ!」
私がハッとひらめき意地悪くチラリと若殿を見て
「宇多帝の姫に似てたんでしょ?」
と言うとやっぱり青ざめた。
輔世王の姫の屋敷に到着し、面会を願い出居に通してもらうと、姫は御簾越しに
「輔子と申します。今日はどのようなご用件ですか?」
とオドオドした上ずった声で言うので『何かやましいことがあるのかなぁ?浮気確定?』と邪推した。
若殿はすっかり気持ちを切り替えたようでいつもの『この世にある全ての秘密は恥ずかしさに打ち震えながらその覆いを私に剥がされるのを待っている』という自信満々の態度に戻っていてジロッと御簾越しに輔子を見つめると
「あなたが藤原利仁と婚約したにもかかわらず、他に男を通わせているようだからその男の正体を突き止めろということと、あなたが結婚するつもりがあるかどうかを確かめるように藤原利仁に頼まれました。」
御簾越しだから輔子がどんな反応をしたのか正確には見えないが、ハッとして愕然としたように見えた。
輔子が絞り出すように
「ええと・・・、その・・・藤原利仁様が本当にそんな事を言ったんですか?」
とたっぷりと間をとって呟き、若殿が深刻そうな顔でウンと頷きながら
「失礼ですが、あなたが通わせている男とは誰ですか?」
と直接的に切り込んだ。
輔子がゴクリと息を飲み、言うかどうかを迷った挙句
「それが、その・・・・知らないのです。その方はいつも布袋でできた覆面を顔にかぶっており、目だけが見えた状態なのです。身元も、身分も、わからないのです。」
と言うので私は思わず
「えぇーーーーーーっ!気持ち悪っっ!嘘でしょ!誰だかわからないのに通わせたんですかっ?なぜ?変質者だったらどうするんですか?どーして断らないんですかっっ!」
と本音をダダ洩らした。
「逆らえない弱みをそいつに握られてたとか、恐怖のあまり逃げられなかったとか、借金のカタにだとかで無理やりそうされたとなると脅迫や強姦の『事件』ですけどっ?!」
若殿が私をギロっと睨み黙らせたが輔子に向き直り
「もしや、夜屋敷に忍び込んだ男に無理やり関係を迫られたんですか?それなら強姦罪で犯人を捕まえることができますが?」
(その3へつづく)