相即不離の色香(そうそくふりのいろか) その1
【あらすじ:婚約者が浮気してると疑う男性に浮気相手を突き止め、ついでに彼女の気持ちも確かめてほしいと頼まれた時平様は意気揚々と彼女の屋敷に乗り込むがどうやら雲行きは怪しい。自分に自信がないからって相手を疑うのはマナー違反。妙齢の女心には疎い時平様は今日も得意分野で勝負する!】
私の名前は竹丸。
平安の現在、宇多天皇の御代、日本で権勢随一を誇る関白太政大臣・藤原基経様の長男で蔵人頭・藤原時平様に仕える侍従である。
歳は十になったばかりだ。
私の直の主の若殿・時平様はというと、何やら、六歳ぐらいの小さな姫に夢中。
宇多帝の別宅に訳アリで、隠し育てられている姫を若殿は溺愛していて、周囲に気づかれていないと思っているが、使用人はじめ母君・大奥様にもバレバレ。
若殿いわく「妹として可愛がっている」。
でも姫が絡むと、はたから見てもみっともないくらい動揺する。
従者としては、たかが小さな女の子に振り回されてる姿はいかがなものか。
今回は感情が絡むと記憶し易いらしいですね!というお話(?)。
ある日、朝政から帰ってくるなり若殿が
「輔世王の屋敷を訪れるぞ。姫に話を聞くように頼まれたんだ。」
と言うので、色っぽい話かな~~~?と思いながら
「どういう経緯なんですか?」
若殿は別に何でもないという顔で
「今日、近衛府にたまたま行ってみたら右近将曹の藤原利仁に呼び止められてな・・・」
う~~ん、私の知識によると将曹とは近衛府の官人で『現場指揮官で将監の指揮のもと、配下の人数を直接指揮する』という武官。若殿はたしか右近衛権中将かつ蔵人頭なのでただしくは頭中将ではなく頭権中将。
近衛府の官人という意味では藤原利仁の上司だけど、こっちは有力貴族の嫡男が、こういっちゃなんだが『お飾り』で就く(?)官職なので実質の近衛府の仕事は藤原利仁のような武官が担ってると私は思ってる。
そもそも『近衛府(役人の官舎)にたまたま行ってみた』って、宮中の警衛が若殿の職務のはずなのに徐々に名誉職化しているのがもろバレ。
若殿にいたっては蔵人頭(蔵人および殿上人を指揮し、勅旨や上奏の伝達や、天皇身辺の世話等を取り仕切る)と言う役目すら朝政のときにちょこっと出仕して果たしているだけでは?と疑わしい。直にそんな事を言うと怒られそうだから何も聞かないが。
「おい!竹丸っ!聞いてるのか?!」
「えっ?ハイ?何ですって?藤原利仁がどうしたんですか?」
と完全脳内別次元トリップしてたのを誤魔化しきれなかった。
若殿は『聞いてなかったのか!』とめんどくさそうに舌打ちしながら
「だから、藤原利仁が輔世王の姫に文を送って、婚約したのはいいがその姫が別の男を通わせてる疑いがあるから、その男の身元を突き止めてほしいと言われたんだよ。ついでに姫の本当の気持ちも確かめてくれと。」
この朴念仁の生息子に恋愛相談だけは無駄だと思うけど、相談する方もどうかしてるが引き受ける若殿もちょっとズレてる。
思いを寄せるのが幼女であるだけならまだしもその幼女にいいようにあしらわれてるという事実に気付いているのかいないのか?世間にバレてないからまともな関白家の坊ちゃん貴族だと思われているようだが、蓋を開けてみると妙齢の女性とうまく付き合えるかどうかも疑わしい要注意人物だ。
・・・言い過ぎた。若殿ゴメンナサイ!恋心を抱いても行動しなければセーフだし、あと十年も待てば立派な女性になるからそれまでガンバレ!
私がまた別世界の空想にふけっているのを不思議そうな目で見ていた若殿が
「お~~~い!聞いてるか?面白そうだろ?」
私は疑問を抑えられず
「なぜ藤原利仁が直接姫に『浮気してるっしょ?』って聞かないんですか?そんで『ハイ』って言われれば結婚をやめれば済むじゃないですか?赤の他人を間に挟む意味が分かりません!」
(その2へつづく)