表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
152/370

秘密集会の帷(ひみつしゅうえのとばり) その5

次に若殿(わかとの)が対面したのは藤原色錠(ふじわらしきじょう)の相手役を務めた女性で、既に単衣(ひとえ)をちゃんと着付け普通の女房のような装いだった。

「あなたは藤原色錠(ふじわらしきじょう)と知り合いですか?それとも今日初めて会った?あのこと以前の藤原色錠(ふじわらしきじょう)の様子に異常はなかったですか?」

女性は口に指をあて少し考え

「ええと、まず、藤原色錠(ふじわらしきじょう)とは初対面でした。あれをする半刻(1時間)ほど前打ち合わせにここで会ったのが初めてでした。見た限りは普通の健康そうな五十代の男性で、そういう事がお好きな、身分のある方だろうと思いました。打ち合わせと言っても大まかなことで、その・・・私のその、好きな部分とか、してほしいこととかの要望をお伝えしただけですわ。」

若殿(わかとの)が驚いたように目を見開き、冷や汗をかき少し青ざめ口ごもりながら

「ああっと詳しいことは結構です。藤原色錠(ふじわらしきじょう)はそのとき何かを口にしましたか?香の匂いに異常はありませんでしたか?」

女性が若殿(わかとの)のその初々し(おぼこ)い反応に『可愛らしい』という笑みを頬に浮かべ目が優しくなり

「そういえば、その時、持参したヒョウタンから何かを飲んでらっしゃったようですわ。最後まで一気に随分な量を飲み干してらしたわ!」

ふむふむ。その中に毒を入れられたのかも。

続く従業員たちには藤原色錠(ふじわらしきじょう)のヒョウタンを見たかどうかを尋ねても誰もその存在すら知らないと答え、藤原色錠(ふじわらしきじょう)の知り合いでもなく前回の客だったかも会ったことすらあまり覚えていないようだったが、今日出した酒と肴には一切手を付けてなかったのを不思議に思ったとそばに(はべ)った女性が証言した。

最後に泉丸(せんまる)と対面して話を聞くことにした。

泉丸(せんまる)は居心地が悪そうに正座した足をムズムズと動かし、自分の腿をこすったり腕をこすったり、視線は若殿(わかとの)に会わせずうつむいたまま横をチラチラと見つめ何とか自分を落ち着かせようとしてるみたい。

若殿(わかとの)は落ち着いた静かな声で

「前回の料理には確か『人魚の肉』がでたんですね?どこから仕入れたんですか?」

泉丸(せんまる)はハッと驚きの表情で顔を上げ若殿(わかとの)を見つめウ~~ンと唸ると絞り出すように

「・・・勿吉(もっきつ)が話しましたか?私がこの集会の本当の主催者だと。そうです。あいつは私が雇った渤海(ぼっかい)人に見えるただの日本人です。こんなときにあいつが矢面に立ってくれて役に立つと思ったんですが、やっぱり決断力のない鈍い男には無理でしたね。ええと、前回の人魚の肉ですか?あれは蝦夷(えみし)が交易に来た際仕入れたものです。蝦夷(えみし)たちは『トゥカㇻ』と呼んでいました。海に住む人に似た生き物なら人魚と言って差し支えないでしょ?実際は何だっていいんです。客は退屈して刺激を求めにここに来るんです。見たこともない生き物、不思議な形の生物、食べた事のない味、感じたことのない興奮、そういうものは大好きでしょう?」

と私を見つめながら瞳をキラめかせ片目をつぶり(ウインクし)ながら艶っぽく微笑むので

「はい~~~!」

と思わずウットリと見つめながら返事した。

泉丸(せんまる)は私に向かって上半身を乗り出して勢い込んで

「きみはまだ元服前の(わらわ)だろ?今日のあの几帳を隔てた男女の睦み合いの影芝居を見たのか?どうだった?面白かったか?」

「ゥオホンッッ!」

若殿(わかとの)が大きく咳払いして

(わらわ)だと分かってあの過激な影芝居を見せたなら風紀を乱したとして弾正台(だんじょうだい)に突き出してもいいんだぞ。」

泉丸(せんまる)に凄むと泉丸(せんまる)は両手を前でヒラヒラと横に振り

「あくまで芝居ですよ!本当にさせたわけじゃありません!少なくとも私はフリでいいと言いました。本当にしたかどうかは二人しか知りませんよ!それに直接見せたわけじゃなく几帳越しで影ですし、風紀は乱さないでしょう!」

と悪戯が見つかった少年のように焦って言いつのった。

「前回の人魚の肉は藤原色錠(ふじわらしきじょう)も食べたんですか?今回の(ぜん)には手をつけなかったようですが?」

「そうですね。今回は持参したヒョウタンの薬の効果が無くなるのを心配してると言ってました。薬師にそう言われたそうです。」

私はあんまり気になったので我慢できず

「その薬は何だったんですか?それに毒を盛られたんじゃないですか?」

と口出しすると泉丸(せんまる)は意地悪そうに口をゆがめて

(わらわ)は元服してからそういう事を聞くんだよ!今は教えてあげない!」

勿体(もったい)ぶる。

若殿(わかとの)が何でもないという風に

「『イカリソウ』でしょう?大量に煎じれば効果があると聞きました。」

泉丸(せんまる)は肩をすくめ

「何か具体的には知りません。年をとるっていやですねぇ、あんなもんに頼らなくっちゃならないなんて。」

とバカにしたように呟き、

「で、死因は結局なんですか?頭中将(とうのちゅうじょう)のお見立ては?」

(その6へつづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ