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秘密集会の帷(ひみつしゅうえのとばり) その3

ところどころの客の横には泉丸(せんまる)と同じ恰好の若い男性、色違いで薄い桃色の衣装の若い女性がはべり酒を注ぎ(しな)を作って会話していた。

弾んだ声で私が

「ねぇねぇ!どんな料理が来るんでしょうね~~!楽しみですね~~!」

とソワソワと若殿(わかとの)に話しかけると、泉丸(せんまる)が二人分の(ぜん)を両手に持ち運んできて私たちの目の前に並べた。

魚の(ひしお)焼き、アワビと大根の酒蒸し、根菜の煮物(いえつも)、酒などいつもの若殿(わかとの)の酒の肴と変わらないなぁ~~そして甘いものがないじゃん!と思っていると、影が映った几帳の前に勿吉(もっきつ)が出てきて挨拶を始めた。

「え~~~今回は特別なお客様方をお迎えし大変光栄に存じます。ですから、いつもの余興より数倍楽しんでいただきたいと思いまして、趣向を凝らした催しを準備いたしました!もってきてくれっ!」

と大声を出すと、入り口の(とばり)がぱっと開き、口径が四尺(1.2m)もあろうかというくらい大きな水瓶を男二人に運ばせながら泉丸(せんまる)が入ってきた。

水面が揺れる度にチャプチャプと波だち少し水をこぼしながら二人の男が必死で勿吉(もっきつ)の元まで水瓶を運んで行った。

勿吉(もっきつ)が両手を揉み合わせたあとピンと背筋を伸ばしかしこまってオホンッ!と咳払いし

「え~~~お待たせいたしました!では、本邦初公開、世にも珍しい『人魚の赤子』をお見せしましょうっ!」

と高らかに話すと、私は思わず立ち上がって

「えぇぇーーーーーーーーーっっ!人魚の赤子ぉっ!す、凄いっ!凄いですっ!はっ早く見せてくださいっ!」

とその場でピョンピョン飛び上がり水瓶の中を覗こうとした。

若殿(わかとの)が隣で袖をつかんで下に引っ張り低い声で

「座れっ!落ち着けっ!お前がここに場違いなことがバレるっ!大人しくしろ!」

と叱られた。

後ろの客からの舌打ちも聞こえた気がする。

渋々心を落ち着けて座ると、勿吉(もっきつ)がこっちに向かって愛想笑いを浮かべてもう一度仕切り直しというように

「では、皆さまお待ちかねでしょうから、お見せしましょう!・・・とその前に、この人魚の赤子がどこで捕獲されたかをお話しましょう!」

と長々と人魚の赤子の来歴を話し始めた。

勿吉(もっきつ)によると、伊賀の山岳信仰の聖地で牛に乗った赤い目の不動明王がいる(?)、修験者が修行する滝(赤目四十八滝(あかめしじゅうはちたき))近くの川で捕まえた。捕獲するために猟師は身を清め精進潔斎し、陰陽師に何日も祈祷させ山の神に供物をささげたとのこと。

要するにどっかの山奥の川にいたのね、ぐらいの理解度でウズウズしながら見せてくれるのを大人しく待ってる。

いよいよ!と勿吉(もっきつ)が二人の男に目配せすると、袖をたすき掛けしてジャマにならないようにしていた腕を水瓶にドップリと漬け、腕をかき回して水中の何かを掴もうと追いかけている。

二人が目を合わせて息をそろえて掴んだものを引き上げるとその手には四尺(1.2m)ぐらいの大きさの、黒っぽく(まだら)がある肌がヌメヌメした細長くて平べったい体に小さい手足がついたヤモリのようでいて首がなくて丸い顔の半分が口になっているような生き物があった。

体の側面は少しビラビラしたものがついてて、丸い顔の前半分が裂けたような大きな口にくらべてつぶらなコメ粒ほどの小さな目が可愛らしいけど、尻尾も顔みたいに丸く平べったくなっていて、とにかく大きくてヌメヌメと黒光りした得体のしれない雰囲気にギョッとした。

確かに人間の赤子のように抱きかかえれば赤子に似てると言えなくもない・・・けど、どうみても水に棲むヤモリの仲間でしょっっ!(*作者注:両生類なので本当はイモリの仲間)

変わってるのは異常に大きいことぐらいだけど、それでも充分『こんな生き物が山奥の川にはいるんだ~~~!探せばもっと面白い生物がいるんだろうなぁ~~』と驚いて感動した。人魚ではないけど多分。

「オオサンショウウオだな。食えば山椒の味がするらしい。」

若殿(わかとの)が隣でボソリと呟き『へぇ~~~!オオサンショウウオと言うのかぁ!いいもの見れたぁ!来てよかったなぁ~~!』と嬉しくなった。

・・・でも美味しくはなさそう。

勿吉(もっきつ)は客の驚きと感嘆のざわめきにご満悦に『ウンウンそうでしょう』という感じに頷き

「では、これを食すのは次回といたしますので、またのご参加をお待ちしております。」

と宣言したが、私はこれを食いたいわけではなかったので食わずにすんでどちらかと言うとホッと安心した。

水瓶を運び出した二人を見送った後、勿吉(もっきつ)がまた声の高さを一段上げて大きさも増し

「ではっ!今宵の余興はこのような見世物だけではありませんっ!今の世の禁忌(タブー)に挑もうという我々の試みに、どれだけの人々が賛同していただけるか、次回があるかどうかは今夜の皆様の反応にかかっております!私はたとえこの身が禁忌(タブー)に触れ、弾正台(だんじょうだい)からおとがめを受け風紀取り締まりに捕らえられようと、皆さまの切望する熱い熱い期待にっ!答えないわけにはまいりませんっ!!」

と顔を紅潮させ(こぶし)を振り回し一人で悦に入ってる。

盛り上がってきましたねぇ~~~と冷ややかに見てると勿吉(もっきつ)はうつむき目頭を押さえ

「今日のこの日をどれだけ楽しみにしていたでしょう!私は世の中の常識を打ち破りたいのですっ!例え幾千の人々から白い目で見られようともこの意志はっ・・・」

「早くしろーーーーっ!」

「そうだそうだーーーっ!」

と心無いヤジが飛び交う。

(その4へつづく)

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