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芥川の人鬼(あくたがわのじんき) その6

帝は少し驚きの表情を浮かべ、扇を開いたり閉じたりした後、口元を抑えやっと押し殺した低い声で

「・・・あやつを排除せねば朕は永遠に(まつりごと)を自由にできん。だがお前がそう言うなら、フン、どうせ証拠も握っておるのだろう?許してやってもいいが、この件をどうやって収めるつもりだ?誰を犯人にする?」

非時(ときじく)が一人の考えで帝暗殺を(くわだ)て、後悔して服毒(ふくどく)したことに致します。」

「フン。まぁそれがよかろう。・・・それしかないしな。なぜ皇太后ではないと分かった?」

「皇太后さまは文を送る相手によって使う紙をお変えになるそうで、下賤(げせん)のものにあのような上質の紙はお使いにならないそうです。」

「ハハハ。朕への返事は最上質の紙を使うから間違えたのだな!気づかなんだわ!手抜かったわ!」

と帝は楽しそうに笑った。

う~~~ん。まだチンプンカンプンの私は『後でゆっくり聞くしかないかぁ』とあきらめた。

その後、いっさいその話には触れずに談笑した後、帝は内裏にお帰りになり、宇多帝の別邸を辞すときになって

『やっと話を聞ける!』

とワクワクした私は、名残惜しそうに姫と見つめ合っていた若殿(わかとの)を引っぺがすように屋敷から連れ出し帰途についた。

「結局、帝暗殺未遂と非時(ときじく)を殺したのは誰だったんですか?」

若殿(わかとの)は寂しそうに微笑み

「帝は父上を排除なさろうとし全てを計画された。

まず、従者・鷲丸(わしまる)を父上の元へ送り、自分の恋人を奪われるように仕組み、橘広相(たちばなひろみ)様の従者で父上を恨んでいる非時(ときじく)を引き抜き典薬寮(てんやくりょう)に配属させた。鷲丸(わしまる)が父上の信頼を得ると貴族・紀何香(きのなにか)が通りがかるときを調べさせその時間に父上がxx大路に居合わせるように誘い出し、非時(ときじく)と口論させた。鷲丸(わしまる)にいかがわしい幼女強姦の投書もさせ、父上が完全に世間に疑われる状況を作り、私の反感も煽り父上に味方しないようにする離間策とした。こうして準備を整えると非時(ときじく)には毒入りひじき団子と毒なしひじき団子を作らせ、毒なしを帝の御膳に忍び込ませるように指示し、自分は毒入りを食べて死ぬように命じた。もちろんわざと残した皇太后を疑わせる高級紙の文以外は焼き捨てるように指示した。しかし、団子の材料である小麦粉と乾燥ひじきはそのままだったがな。毒草は典薬寮(てんやくりょう)の貯蔵からくすねたんだろう。」

「ひじきの行商で藤原邸に行ったのも非時(ときじく)ですか?」

「そうだ。もし幼女強姦の投書を信じ父上と反目しあっていれば、私は父上をかばわず、弾正台(だんじょうだい)は父上が幼女強姦したと公表して世論が父上に反感を持つ空気を醸成(じょうせいし)し、ひじきが購入され藤原邸にあったこと、非時(ときじく)と口論したことを証拠として非時(ときじく)を使った帝暗殺計画とその後の口封じを父上が企んだとして糾弾したかもしれない。」

「またはそういう噂を流すレベルでも大殿(おおとの)の評判はガタ落ちになりますよね~~。阿衡事件(あこうじけん)で帝とうまくいってないことはバレてますし。でも帝がひじき藻とか鬼とか芥川や高級紙で皇太后が企んだと見せかけたのはなぜですか?」

「私が父上の無実を信じ詳しく調べたときに、帝と敵対している皇太后という結論にすぐに飛びつくと思ったんだろう。陽成帝の退位に父上と共謀して関わったと思われている帝は皇太后に敵視されているからな。実際、皇太后が下賤のものにも高級紙を使っていたら皇太后が犯人だと思ったかもしれない。しかしのその場合、帝の食べ残しのひじき団子に全くと言っていいほど毒が入ってないことがおかしいから結局は帝にたどり着いたかもしれない。」

「帝は自分の分にはやっぱり毒を入れたくなかったんですねぇ。ほんの少しは入れたかもですかねぇ?」

「それはわからんがな。もし帝が自分の団子にも毒をちゃんと入れさせ本当に『玉体を賭して』いたなら、別に犯人を捜したがなぁ」

・・・じゃあ皮肉なの?難しいなぁ。

帝は自作自演を疑う不届きな臣下はいないと踏んで自分の団子には毒を盛らせなくてもバレないと思ったんだろうなぁ・・・実際はいたけど。

大殿(おおとの)非時(ときじく)の口論の内容はどうでもよかったんですか?」

「そうだろうな。口論を見物人に見せる目的だったんだろう」

鷲丸(わしまる)をクビにしなかったのは後で捕まえるためですか?」

うんと頷く若殿がなぜか寂しそうだった。

ちょうど二条大路の大内裏の入り口にある朱雀(すざく)門に差し掛かると、曇天(どんてん)の寒空の中、物言わぬ重厚な幾百年をすごしたような威厳に満ちた佇まいの門の、朱と白と灰の色の対比が、皇族や貴族といったこの国の揺るがぬ権力構造を表しているような気がして、その柱の(あけ)は赤黒い血によって塗り固められているという夢想が突然頭に浮かんだ。

まだ難しい顔で朱雀(すざく)門を見つめる若殿に

「すべてが解決したのに嬉しくないんですか?」

と聞くと

「兄とも慕うお方が、父に『人鬼』とまでの汚名を着せて排除しようとしたとなると、喜ぶことなんて到底できないだろ?」

と呟いた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

『伊勢物語』って習った覚えないですけど、地域差?年齢差?

時平と浄見の物語は「少女・浄見 (しょうじょ・きよみ)」に書いております。

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