表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
138/369

芥川の人鬼(あくたがわのじんき) その4

若殿(わかとの)(ほたる)に聞きなおし、それが『遊びたい』だと分かるまで少し手間取った。

『恥ずかしがるのは二十代までにしてほしい・・・』と思ったが口に出すと使用人仲間の間での私の地位が脅かされそうな、もしくは給金に影響しそうな気がするので言わないが。

・・・影の実力者には反感を持たれないに越したことはない。

非時(ときじく)と口論した原因についてそばにいた鷲丸(わしまる)が何か話していたか?」

(ほたる) は『いいえ』と答えたがこれは後で聞いたどの使用人も同じだった。

なぜかひじきについて若殿(わかとの)が唐突に質問したのに使用人たちは少し考えるとすぐに思い出し

「そうです!三か月ほど前にひじきを売りに来た行商がいました!愛想が良くて面白い話をいっぱいしゃべって中々腰を上げないので相手をしていた料理人頭はちょっと辟易(へきえき)していました。結局ひじきは少し購入したようです。夕餉(ゆうげ)に出たことがあったでしょう?」

と言った。

 いよいよ非時(ときじく)とも幼女強姦事件とも関係がありそうな従者・鷲丸(わしまる)を呼び出した。

鷲丸(わしまる)は鼻と頬が前にでて顎が引っ込んだ鳥のような顔つきのおでこが広くて首が長いところまで鳥そっくりの風貌で目だけがギラギラとひかり、鷲や(はやぶさ)のような猛禽類(もうきんるい)を思い出させた。

若殿(わかとの)は嫌悪感を隠しきれないように口角を痙攣(けいれん)させながら

「お前が父上に女性をあてがった(アテンドした)際に、若すぎる例えば八つに満たないような少女をあてがったことはあるか?」

と早口で聞くと鷲丸(わしまる)はフフフと笑い

「いいえ!大殿(おおとの)の好みは色気のある大人の女性です。幼女を相手にしたことなど一度もありません。そんな異常なご趣味はありませんよ。どうして太郎様はそんなことをお聞きなさるのですか?」

と少しバカにしたように笑った・・・ように見えただけ?

若殿は眉をピクつかせ真面目な顔で

「では非時(ときじく)と父上が口論した内容は?」

鷲丸(わしまる)は少し思い出そうとし

「確か、非時(ときじく)が私の田畑を返せ!と言ってました。開墾(かいこん)した荘園を大殿(おおとの)の息のかかった富豪農民に利子として取られたようでした。」

あれ?非時(ときじく)典薬寮(てんやくりょう)の役人で、その前は橘広相(たちばなひろみ)様の従者で農民ではないはず?

若殿(わかとの)も違和感を覚えたようで

「それは確かに非時(ときじく)か?お前は非時(ときじく)を知っているのか?」

鷲丸(わしまる)は首を横に振り

「いいえ。知りませんが、大殿(おおとの)が数日前口論してたのは私が知る限りその時だけですから。」

「ではこの紙に『私、鷲丸(わしまる)が関白と非時(ときじく)の口論を目撃した』と証言を書いてくれ。必要になるから。」

と私に文机から紙と筆と墨を取らせ鷲丸(わしまる)に書かせた。

若殿(わかとの)が袖の中から取り出した紙と見比べると眉にまた痙攣(けいれん)が走りギロっと鷲丸(わしまる)を睨み付けると

「なぜ父上を不名誉な罪で(おとし)めようとした!この筆跡はお前だろっ!自ら幼女など相手にしていないと言いながら、なぜ弾正台(だんじょうだい)には幼女強姦したと投書したんだ!」

と投書を投げつけ怒鳴りつけた。

鷲丸(わしまる)はビクッと身を震わせうつむいたが、観念したように

「そ、それは・・・大殿(おおとの)に、恋人を寝取られたからです。女性を紹介しろと命令されいろいろなところへ案内しましたが、そこの女主人ではなく、侍女である私の恋人を見染め夜伽(よとぎ)をさせたのです!その復讐(ふくしゅう)として何とかして大殿(おおとの)の名を(おとし)めたかったんです!あぁ今すべてが明るみになり、こうなってはここにいられません。今すぐクビにしてください!」

と涙をこぼしながら土下座した。

・・・やっぱり大殿(おおとの)は自分の手癖の悪さで自分の首を絞めてるなぁ。

若殿(わかとの)鷲丸(わしまる)を解雇するどころかニコリと微笑み肩にポンと手を置き

「すまなかったな。父上を許してくれ。このままお前がいなくなれば父上が寂しがるだろうからこれからもここで働いてくれ」

となぜか下手(したて)にでてたけど?なぜ?

さっきまであんなに怒り狂ってたのに?と不思議。

その夜、若殿(わかとの)(たい)()でまだ解決していない非時(ときじく)の死と帝の暗殺未遂の犯人について

非時(ときじく)と帝はひじき団子を食って被害を受けたということは、ひじき団子を送ったやつが犯人ですよね?藤原邸にもひじきの行商は来たし、もしかして非時(ときじく)は帝の御膳にひじき団子を忍ばせた実行犯で、その非時(ときじく)を口封じに殺したのが大殿(おおとの)と考えられませんか?例えば非時(ときじく)に『帝の大好物だが訳あって帝の御膳には上がらないからこれを御膳に紛れ込ませるように』と、『お前にはそのお裾分けで余った分を食べていい』と命じておいたとか?目撃者の前で口論したのは実は仲間だと疑われないためとかじゃないですか?」

とキレッキレの推理を披露したが、もし真実なら明るみになる前に次の勤め先を探し始めないと!

若殿(わかとの)はムッと睨んで

「という間違った推理を弾正台(だんじょうだい)にさせたい誰かが企んだんだろう。誰だ?集めた手掛かりの中で役に立ちそうなものはこの非時(ときじく)にあてた文だ」

と見たこともない優しい肌合いのきめの細かい紙に見たこともないキラキラとした紫色っぽい墨で

『xx大路で関白と口論するところを見物人に見せろ。すべては「芥川の人鬼」を懲らしめるため。』

と書いてあった。

『芥川の人鬼』って何?それをやっつけるため?になぜ大殿(おおとの)()めたの?

(その5へつづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ