表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
136/370

芥川の人鬼(あくたがわのじんき) その2

私が助け舟をだそ(フォローしよ)うとして

大殿(おおとの)(おとし)めようとする根も葉もない讒言(ざんげん)じゃないんですか?大殿(おおとの)は女遊びは激しくても少女を無理やりなんてことはするはずありません!そもそも好みは色っぽい女性ですよ!・・・あんまり知らないけど。幼女好きなんて、そんな・・・そんな変質者じゃありませんっ!」

と滑らせた口をアッ!と開けたまま若殿(わかとの)を見ると冷や汗をかいてまだ硬直してるので聞いてないみたい。

セーーーーーフっ!!

巌谷(いわや)若殿(わかとの)の態度を息子として親の恥部(ちぶ)曝露(さら)されたことに衝撃を受けていると解釈したらしく続けて

「そのことについても、関白家内で調査し、内密(ないみつ)に被害者の救済などに当たっていただければ弾正台(だんじょうだい)としては(おおやけ)にしませんので。関白家の醜聞(しゅうぶん)は決して!決して外部に漏らしません!」

と血走った目で切腹でもしそうな勢いで忠誠(ちゅうせい)を誓った。

う~~~~ん。自分を忠実な飼い犬とでも言いたげな、自分だけの夢想の境地に入り込んで(えつ)にいってる。

自己犠牲とか被虐(ひぎゃく)的な妄想は雪だるま式に膨らんで、まるで悲劇の主人公になったような破滅的悲痛の感覚はある意味はクセになる。

・・・これがマゾヒズムかしら?

つられて

「それは是非守ってもらわないとっ!大殿(おおとの)が今までに築いた信用と面目がガタ崩れだっ!」

と私も鼻息を荒くした。

若殿(わかとの)は青い顔で一点を見つめたまま強張(こわば)った体を折り曲げ

「・・・ありがとうございます。」

と今までのどんな時の巌谷(いわや)よりもコチコチになって深々(ふかぶか)と頭を下げた。


 大殿(おおとの)が帰宅するや否や若殿(わかとの)はズカズカと主殿に乗り込み苛立った口調で

「父上、お聞きしたいことがあります。人払(ひとばら)いを」

と言い放ち使用人が立ち去ったのを見計(みはか)らってドカッと座り込んだのを見て、いつもの親を立てる謙虚(けんきょ)な態度とあまりにも違うのを見た大殿(おおとの)が少しムッとして

「太郎、えらくなったもんだな。わしにその態度とは。」

若殿(わかとの)はキッと睨み付け

「尊敬に値する父かどうかはこれから判断します。数日前父上と激しい口論をしていたのを見られた非時(ときじく)という典薬寮(てんやくりょう)の役人に何かしましたか?」

大殿(おおとの)はゆっくりと対面して座り扇で顎を掻きながら思い出すようにして

「はて、・・・非時(ときじく)というのは誰だ?確かに数日前牛車を止められ『牛が足を怪我したからこれ以上動けないので歩いてくれ』と言われ車を降りたところ男に『お前のせいで土地を失い一文無しになった!どうしてくれるんだ!』と因縁(いんねん)をつけられた。従者の鷲丸(わしまる)がその男をなだめてくれるまで一方的に(ののし)られたな。それを周囲に見られておったかもしれんがそれがどうした?」

「その非時(ときじく)が今朝死体で発見されました。毒物を飲まされたようでした。」

それを聞いて大殿(おおとの)は顔色一つ変えず

「それがどうした?わしがやったとでも言うのか?馬鹿馬鹿しい。そんなことで殺していたら都に人は誰もおらんようになるわ!」

と吐き捨てたが、自分の数々の悪行をよ~~~~~く自覚してらっしゃるお言葉。そのへんは(エラ)い!といつも思う。

「では、もう一つ、」

若殿(わかとの)はグッと奥歯をかみしめ

年端(としは)も行かぬ少女に夜伽(よとぎ)をさせたということはございませんでしたか?」

と目の奥まで視線で射抜き、息の根を止めようとするように鋭く大殿(おおとの)を睨み付けた。

大殿(おおとの)は微動だにせず重そうにゆっくりと(まぶた)を閉じては開き若殿(わかとの)を見つめ返すと

「それは何の冗談だ?わしが?幼女を手籠(てご)めにしたというのか?それこそ根も葉もない言いがかりだ。誰が言った?そいつに何の下心があるんじゃ?わしを(おとし)めて何を企んでいる?お前にはそれが分からんとでも言うのかっ!」

と最後は語気を荒げた。

若殿(わかとの)は一歩も引かず強い口調で

弾正台(だんじょうだい)に複数の投書が寄せられたそうです。被害者との交渉は内々(ないない)にするようにと言われました。父上が認めて被害者の名を明かしていただかないと、弾正台(だんじょうだい)(おおやけ)にすれば、それこそ今までの父上の業績や面目に泥を塗られます。」

大殿(おおとの)は鼻の横に皺をよせ心底(しんそこ)軽蔑したように

「お前を見損(みそこ)なったぞ。わしが本当にそんなことをするとでも思っているのか?今まで一体わしの何を見てきたんだ?その投書をした奴を見つけ出し問いただせ!何を企んでいるのか突き止めて罰しろっ!」

と怒鳴った。

その剣幕(けんまく)若殿(わかとの)は少しひるみ大殿(おおとの)の無実を少し信じ始めたように

「では、弾正台(だんじょうだい)に行って投書の(ぬし)を付きとめます。非時(ときじく)の死に関しても幼女の強姦に関しても事実無根ということですね?」

と念を押すと大殿(おおとの)は眉根を寄せ険しい表情で頷き

「そうだ。誰かがわしを()めようとしているに違いない。」

と低くつぶやいた。

 大殿(おおとの)()めようという人間はごまんといるが、若殿(わかとの)のデリケートな部分をついてくるなんていったい誰の仕業なの?

(その3へつづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ