表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/369

脆弱の紅瑪瑙(ぜいじゃくのあかめのう) その3

 私が大奥様の侍女を指さすと思いっきり怪訝(けげん)な顔で

「はぁ~~~~っ?」

と言われ、(あき)れたように肩をすくめ

「私が盗むとしたら三人が帰った後で大奥様に見つからないように、かつ使用人の誰もが疑わしい状況の中で盗みます。自分が三人の次に疑われるようなこんな状況で盗むわけないでしょ!」

と普段から考え抜いているのかと思うほど的確な答えを出された。

えぇ~~~?!と(ひる)んだがよしっ!それならこれだっ!と意気込み

「では、犯人は青磁屋(せいじや)です!なぜなら・・」

「古い火鉢(ひばち)の灰を別の壺に移して調べたが中には何もなかったぞ。」

私はギョッとして

「いっ!いつの間に調べたんですか?!」

「さっきお前が用足しに行ってる最中にな。」

若殿(わかとの)がニヤニヤしながら私をいたぶる。

じゃあもうこれしかないっ!と

「お、大奥様が(そで)に隠したんだ!じゃなければ誰かが飲み込んで今頃腹の中だ!腹を切って開かないとわからないぞぉ!この~~ずる賢い犯人めぇ!白状しろっ」

と自暴自棄になって頭を掻きむしりながら滅茶苦茶を叫んだ。

・・・だって思いっきりカッコつけたのに間違ってるって恥ずかしすぎる!

若殿(わかとの)がおもむろに

「じゃあ私の番だな。母上、今日は蜂蜜を何匙(なんさじ)食べましたか?」

大奥様は思い出すように上を見て

「確か、私と殿(との)の分が五匙(ごさじ)分ずつと、侍女に二匙(ふたさじ)分を(うつわ)にとっていただいただけでまだ食べていないわ。」

若殿(わかとの)はニヤリとして

「では壺には蜂蜜がなみなみと上まで入ってるわけはありませんね?」

家蜂屋(いえばちや)を見た。

はぁ~~~?まさか瑪瑙(めのう)を十三個も蜂蜜の中に入れたとでも?それが見た目で気づかないとでもぉ~~!と不満タラタラだったが、家蜂屋(いえばちや)の顔を見るとブルブル震えて青ざめている。

「ねぇもう一度見せてくださいよぉ!本当に蜂蜜の中に石を隠したんですか?」

と肘でつつくと家蜂屋(いえばちや)はキッと怒った表情で若殿(わかとの)に向き直り

「いいでしょう。見せて上げますが、中を調べるとなると一壺全部買い取ってもらわないといけませんよっ!こっちは売り物ですから、いじくられて悪くなっちゃいけないんでねぇ。」

と一気に吐き捨てた。

家蜂屋(いえばちや)が蓋を開けて見せてくれたがやっぱり

「蜂蜜が入ってるようにしか見えませんよ~~~本当にこの中に瑪瑙(めのう)が入ってるんですかぁ?一壺買い取るんですか?それは何だかよさそうな話ですけどっ!あっそーだ!ぜひそうしましょう!ねぇっ!」

と買い取れば蜂蜜のおこぼれが回ってきそうな予感にテンションが上がった。

若殿(わかとの)が眉一つ動かさず

「光の通り具合(屈折率)が同じものを中に入れると外から見ても区別がつかなくなるんだ。偶然だろうが、蜂蜜と半透明の瑪瑙(めのう)の光の通り具合(屈折率)が同じだったんだろう。」

家蜂屋(いえばちや)をギロっと睨んで

「素直に認めて瑪瑙(めのう)を返せば弾正台(だんじょうだい)には黙っておきましょう。蜂蜜を私が買い取ってあなたが泥棒だと判明すれば弾正台(だんじょうだい)に突き出しますが本当にいいですか?」

家蜂屋(いえばちや)はガクッと頭を垂れ

「申し訳ありませんでした!」

と土下座した。

若殿(わかとの)家蜂屋(いえばちや)になぜ瑪瑙(めのう)を盗んだのかを尋ねると

「実は養蜂(ようほう)の技術を購入すれば誰でも(かせ)げるというので借金をしてまで養蜂(ようほう)の技術を習得したのはいいんですが、それが法外(ほうがい)な値段なのでとても蜂蜜売りだけでは返せないと思いまして・・・」

とボソボソと言った。

若殿(わかとの)上奏(じょうそう)して悪徳養蜂技術(ノウハウ)販売業者を取り締まると約束していた。

長い()(さじ)(ねば)々した蜂蜜の中から十三個の瑪瑙(めのう)を取り出すと、皿にのせた瑪瑙(めのう)に琥珀色の甘~~い匂いの蜂蜜がべっとりとまとわりついて、ど~~~~~みても美味しそうなので思わず

「もったいないので、瑪瑙(めのう)についた蜂蜜を私が()めますね!あとで水で洗えばいいでしょう?」

十三個も()めればお腹がいっぱいになるなぁ~~!と人生最高の幸せに(ひた)りながら一つを摘まんで口に入れレロレロと()め続けていると、若殿(わかとの)も一つつまんで口に入れたので『私の分が減るじゃないか!』とムッとした私は石をコロコロしながら

「・・もぅ!卑しいですねぇ!カラッ、天下の関白殿の太郎君が石についた蜂蜜を()めとるなんて!コロッ、親が聞いたら悲しみますよぉ~~モゴッ」

と毒づきながら大奥様の顔を見ると大奥様も何だか(うらや)ましそうにみてる。

そうやって『甘いなぁ~~~幸せだなぁ~~~出来ればずっとこのままでいたいなぁ~~』と思いながらレロレロコロコロをしばらくしていると、ハッと気づいたらいつの間にか瑪瑙(めのう)が口の中から消えてしまっていた。

「えぇ~~~っ!!!!」

と今度は人生最大の驚きの叫び声をあげ若殿(わかとの)(すが)りつき

「ど、どうしたらいいんでしょう!い、石を食べてしまいました!飲み込んだんでしょうか?あんな大きいものを知らないうちに!?私の口はどうなってるんでしょうか!私は大丈夫でしょうかっ?病気になるでしょうか!」

と青ざめながら不安でいっぱいになり(のど)やお腹を触ってみたが硬い石の感触はない。

(その4へつづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ