表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/370

脆弱の紅瑪瑙(ぜいじゃくのあかめのう) その1

【あらすじ:時平様の買い物好きの母君は高価な石を購入したのにすぐに紛失してしまった。売主を含め三人の商人はそのチャンスがあったが一体誰が盗んだの?めずらしく色々思いついた私は名探偵バリにしゃしゃり出るが結果は如何に?時平様は今日も憂鬱に父の背中を見て育つ。】

私の名前は竹丸。

平安の現在、宇多天皇の御代、日本で権勢随一を誇る関白太政大臣・藤原基経(ふじわらもとつね)様の長男で蔵人頭・藤原時平(ふじわらときひら)様に仕える侍従である。

歳は十になったばかりだ。

 私の直の(あるじ)若殿(わかとの)・時平様はというと、何やら、六歳ぐらいの小さな姫に夢中。

宇多帝の別宅に訳アリで、隠し育てられている姫を若殿(わかとの)は溺愛していて、周囲に気づかれていないと思っているが、使用人はじめ母君・大奥様にもバレバレ。

若殿(わかとの)いわく「妹として可愛がっている」。

でも姫が(から)むと、はたから見てもみっともないくらい動揺する。

従者としては、たかが小さな女の子に振り回されてる姿はいかがなものか。

今回はサトウキビって昔は手に入らなかったんですねぇというお話(?)。

 ある日、いつものように私と若殿(わかとの)が出かけようとすると、大奥様の侍女が駆け寄ってきて

「今すぐ太郎様にお越しになっていただくようにと大奥様が(おっしゃ)っています。」

と言うので我々は東の(たい)()に向かった。

御簾を押して中に入ると、大奥様と対面して座る三人の男がいた。

それぞれの男のそばには四角い箱を包んだ風呂敷包みがありその大きさは様々だったが、どれも中には貴重なものが入ってそうなシッカリと丈夫(じょうぶ)な布地だった。

大奥様は若殿(わかとの)の顔を見てホッとした表情を浮かべ

「ああ!太郎来てくれたのね!よかったわ!ええと、紹介するわね、右から蜂蜜売りの家蜂屋(いえばちや)、宝石売りの七宝屋(しちほうや)(うつわ)売りの青磁屋(せいじや)よ。」

というとそれぞれの男が若殿(わかとの)にペコリと頭を下げた。

家蜂屋(いえばちや)は痩せて日焼けし、(しわ)の多い顔をした五十ぐらいの男性で萎烏帽子(なええぼし)筒袖(つつそで)括袴(くくりばかま)と庶民の恰好だが、青磁屋(せいじや)は水干に組みひもの菊綴(きくとじ)(衣服の縫い目のほころびを防ぐ為のもので、生糸を束ねて開げるとその形が菊のように見える)、七宝屋(しちほうや)は水干の(そで)と胸に真珠と枝であしらった()けものと呼ばれる飾りをつけたりして身だしなみに気を配っていた。

特に七宝屋(しちほうや)の『枝に真珠の花が咲いたような飾り』は高級感まる出しで、どこかに当たってこすれた拍子(ひょうし)に真珠を落とせばいいのに・・・と思った。拾って売れば干し柿がいくらでも買えるなぁ・・・ジュルっ!

七宝屋(しちほうや)はまん丸い(しわ)も伸び切った顔のムチムチと太った五十ぐらいの男性で顔は(あぶら)のせいかツルッとしていたし、青磁屋(せいじや)は口ひげまで白髪の混じった穏やかそうな六十ぐらいの男性で、どちらも『お腹が減る前に次の食事をしてそうな』人たち。

大奥様が困ったという口調で

「実はね、さっき殿(との)石帯(せきたい)(正装である束帯(そくたい)に締める帯)の丸鞆(まるとも)(丸い石飾り)にしようと思って七宝屋(しちほうや)から瑪瑙(めのう)を十三個ほど買うお約束をしてね、それが入った巾着を私の右横に置いて、青磁屋(せいじや)(うつわ)を見せてもらっている間にね、中身の瑪瑙(めのう)が全て無くなってしまったの!」

と空になった巾着を若殿(わかとの)に渡しオロオロと目を見る。

「母上が(うつわ)を見ている間、誰も巾着のそばには近寄らなかったんですね?」

大奥様は『もちろん!』と何度も頷き

(うつわ)をあれこれ見せてもらって夢中になってたとはいえ、すぐそばに人が近づけば気づくし、この三人もそばに控えていた侍女もこの部屋に入ってきた人はいないと言ってるし・・・」

商人(しょうにん)三人を横目でチラリと見つめながらつぶやく。

『な~~んだ!簡単じゃないか!』と思って私は大奥様に声をひそめて

「じゃあ、この三人の中に瑪瑙(めのう)をくすねた犯人がいるんですね?」

大奥様はウンと頷き

「でも証拠もなく疑えないし、まだ支払っていないとはいえ七宝屋(しちほうや)は代金を請求しそうな雰囲気だし、あなたに見つけてもらえれば丸く収まると思ったのよ。」

とため息をついた。

若殿(わかとの)はコクリと頷き三人に向かって

瑪瑙(めのう)が紛失したことはご存じですね?失礼ですが、身体を調べさせてもらっても構いませんか?」

三人は困惑した顔をしていたが若殿(わかとの)七宝屋(しちほうや)に向かって

「あなたから購入した瑪瑙(めのう)とはどのようなものでしたか?」

「直径三寸(9cm)の丸い平たい、赤土色で半透明な綺麗な石でした。あれだけ透明度が高いものは珍しく貴重なものですので是非関白様に使用していただきたく思いましてお持ちしましたのに残念です。」

と眉をひそめて悲しそうに言う。

若殿(わかとの)

「もちろん支払いは・・・・」

七宝屋(しちほうや)は信じられないという風に首を横に振りながら

「いいえ!そのような!支払いはいつでも結構でございます。関白様という不動の確固たる信用が世間におありになるお方にいつまでに支払えなどと要求は一切致しません!手前どもはいつまでもお待ちいたしておりますので、奥方様にはご安心くださいますよう!」

要するにいつになってもいいから支払うものは支払えということね。

「紛失はこっちの責任にするつもりですね」

と大奥様に(ささや)くと、大奥様は苛立った表情で頷いた。

若殿(わかとの)

「よしっ!ではまず失礼して、身体を(さわ)ることをお許し願って、調べさせてもらおう」

と早速一人ずつ身体検査(ボディチェック)を始めた。

三人とも迷惑そうな表情だが(あきな)いに(さわ)らぬようにか不満を口には出さずにされるがままにしていた。

水干の胸(直垂(ひたたれ))、(そで)(はかま)(すそ)烏帽子(えぼし)(しとうず)を履いてる七宝屋(しちほうや)はその中も確認し、私もパタパタと両手で触って身体検査(ボディチェック)を手伝ったがそれらしいものはなかった。

「では次は持ち物を調べさせてもらおう」

と若殿が言い、三人の持ち物を調べることになった。

(その2へつづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ