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神域の疫病石(しんいきのえやみいし) その4

ふと若殿(わかとの)鬼美丸(きびまる)に向かって

「何を使ったんですか?ウルシですか?イラクサ?ウマノアシガタ?センニンソウ?」

鬼美丸(きびまる)はギクッと身を震わせゆっくりと顔を上げ若殿(わかとの)を見つめた。

鬼美丸(きびまる)の筆で引いたようなくっきりと美しい目の輪郭とそこから生える長い睫毛が、(せわ)しない(まばた)きのたびにバサバサと動いてきらめく瞳を強調し、怒りのこもった表情なのに私はついボンヤリと見入ってしまった。

怒り狂っていてもいつまでも見ていられるってやっぱり美形は特殊な人々。

鬼美丸(きびまる)若殿(わかとの)を睨み付けたまま

「何ですかそれは?草ですか?虫ですか?そんな難しいものは知りません。ただのサトイモを皮ごとゆでた汁を煮詰めたもの(シュウ酸カルシウムの針状結晶)ですよ。」

と言い捨てた。

伴只行(とものただゆき)はビックリして鬼美丸(きびまる)若殿(わかとの)を交互に見て『こいつら何を言ってるんだ?』と狐につままれた表情を浮かべてた。

私も狐の爪ぐらいは触れていたが、思考が追い付いて

「つまり鬼美丸(きびまる)伴只行(とものただゆき)の唇にサトイモの煮汁を煮詰めて塗ったんですか?それで痛痒(いたがゆ)くなったんですか?なぜそんなことをしたんですか?!恋人を伴只行(とものただゆき)に寝取られたんですか?!」

どうみても鬼美丸(きびまる)の方が女性からモテそうだし、よりによって身分はあるが容姿は『?』の伴只行(とものただゆき)に寝取られるなんて男として屈辱過ぎて鬼美丸(きびまる)はそんなことをしたのかな?それなら納得。ウン。

鬼美丸(きびまる)はフフフと軽く笑って

「違うよ。『恋人の伴只行(とものただゆき)を』女たちに寝取られたからムカついて唇にサトイモの煮汁を塗ってやったんだ!これ以上悪いことをしないようにね。何ならあそこに塗ってやればよかった!そしたら一生女遊びをやめるだろうなっ!ボク以外のしかも女を抱くなんて気味の悪いことは金輪際(こんりんざい)させたくなかったんだっ!」

え・・・?!と軽くパニックになったのは今度は私の方だった。

つ、つまり・・・鬼美丸(きびまる)伴只行(とものただゆき)という恋人?の浮気を防ぐために女と関係を持った後、(バツ)として唇が痛くなるようにサトイモの汁を塗ったということ?‥‥あの美青年が?・・・・あのむさくるしいもみあげ髭面(ひげづら)男の恋人?!え~~~~っ!!!

なぜ???もったいない!!!せめて美青年を相手にしてっ!と思いっきり腐った女子(おなご)のような偏見マミレの要望を口に出しかけた。

私が目を白黒(しろくろ)させて黙り込んだのを見て若殿(わかとの)がため息をついて伴只行(とものただゆき)

「あなたはそもそも女性の方が好きなんでしょう?なぜ鬼美丸(きびまる)をその気にさせたんですか?」

伴只行(とものただゆき)は真っ青になり両手をバタバタと横に振り

「いえっ!そのっ!鬼美丸(きびまる)が誘ってきて、思わず、つい・・・。ほらっどう見ても美しい女子(おなご)にしか見えないときがあるんですよぉ~~!」

鬼美丸(きびまる)は妖艶な笑みを浮かべ伴只行(とものただゆき)の腕に手を添え首をかしげて(しな)を作り

「ボクはあなたにあの地獄の寺から救い出されたときからあなただけを愛しているんですよ。わかっているでしょう?あの寺で稚児(ちご)であるボクがどんな目に遭っていたか?あなたが従者として引き取ってくれなかったらボクは一生あのいやらしい貪欲(どんよく)な僧侶たちにこき使われ慰み者にされ、その上女の客を取らされるところでした。奴らは銭のためならどんなことでもしたんです。ボクの美貌を利用しつくし自分たちの欲望を満たすことだけを考えていたんです。それにくらべてあなたはボクに何も求めず、従者以上のことを命じなかった。あなたにならすべてをささげてもいいのに・・・命も生涯も。」

と陶酔した表情で伴只行(とものただゆき)を見つめる。

私は『はぁ~~~~?!キャスティングミスッ!ダメダメッ!そういうのは美形同士じゃないとっ!』と思いつつ、『あれだけの美人なら女性でなくても結構羨ましい』と思ってしまった。・・・自分でも気づいてなかったけどそっちもアリ?かも。あれだけ男臭(おとこくさ)伴只行(とものただゆき)でもイイなら私だって鬼美丸(きびまる)ぐらいの美形にモテる可能性も捨てきれない!人生捨てたもんじゃないな!とほくそ笑んだ。

若殿(わかとの)が薄目で冷た~~~い視線を私たちに向け

「盛り上がってるところ悪いが、愛するあまり唇を痛めつけた鬼美丸(きびまる)を許せるのか?」

と聞くと鬼美丸(きびまる)に腕に腕を絡められ、肩に頭を持たせかけられてる伴只行(とものただゆき)は照れて頭を掻き

「いやぁ~~、そうとわかれば帰って、理解(わかっ)てくれるまで話し合います。何とか納得できる合意点を見つけ出します。私も鬼美丸(きびまる)を嫌いなわけじゃないですから。へへへ」

とまんざらでもなさそう。何だか嫉妬しちゃうっ!でも浮気したらすぐ痛めつけるという発想と実行力は怖いのでやっぱり鬼美丸(きびまる)にはモテたくない!

 そんなこんなで伴只行(とものただゆき)鬼美丸(きびまる)が帰った後、若殿(わかとの)

「結局、丸石の神域(しんいき)にまつわる神罰なんて何もなかったんですよね~~?」

と言うと若殿(わかとの)は少し眉をひそめ

「例え本当の神罰であっても、起こる条件を整理して記憶し仮説を立て次に同じことが起こった時にその過去の事例を思い出してあてはめ仮説の正否を検証すれば防げる『神罰』もあるはずだ。」

と言った。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

『白石の神域』が山が御神体の大神(おおみわ)神社(三輪山は禁足地)付近の山中にあるようですが、そこも本来禁足地なのでは?と思ってしまいました。

ハイキングで見ることができるようですが、ちょっと行くのは怖い気もします。

時平と浄見の物語は「少女・浄見 (しょうじょ・きよみ)」に書いております。

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