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神域の疫病石(しんいきのえやみいし) その2

若殿(わかとの)鬼美丸(きびまる)をジロジロと値踏みするように見つめ口の端に笑みを浮かべ

「お前は従者だろ?(あるじ)に命令するとは僭越(せんえつ)だと思わないのか?」

と内容に似合わず口調は面白がっていた。

伴只行(とものただゆき)若殿(わかとの)に向かって両手を振り

「いいのです!私が生意気(なまいき)を許しているのです。お気になさらないでください。鬼美丸(きびまる)、私はここへ『この』相談をしに来たんだ。お前は黙っていろ」

鬼美丸(きびまる)を見て口早に命じ、若殿(わかとの)には

「実は、大きい声では言えないのですが、弓なりになって死んだ巫女とその儀式の前日に、その、・・・・・あの・・・・」

若殿(わかとの)がめんどくさそうに扇で顎を叩き

「何ですか?はっきり言ってください。関係を持ったんですか?」

伴只行(とものただゆき)は真っ赤になってウンウンと何度も頷き

「そ、そうなんです。み、巫女は本来乙女でないとダメですよね?そんなことは承知ですが、彼女が二百文(にひゃくもん)で体を許すというので、私は、その、霊的な信心も深いものですからつい、好奇心に負けて、巫女とはその、・・・どんなものかと・・・試してみたくて・・・・つい」

・・・う~~ん、禁忌(タブー)を犯したくなる気持ちはわからなくもないけど、この人って禁忌(タブー)に反しているという興奮を得るためだけに『霊的信仰心がある』なんて自称してるんじゃないのかしら?単なる趣味嗜好(フェチ)でしょ?巫女の衣装好き!(フェチ)とかの。ほんとうに信心深いなら神様の(ばち)を恐れてそんなことしないでしょ。それに銭を提示して交渉する巫女さんも常習でしょ?いまさら(バチ)があたるかね?と疑問。

「すると、そのあと唇がはれ上がり(かゆ)くてたまらなくなり、掻くと今度は痛くてたまらなくなったのです!これは神罰でしょうか?それに彼女が弓なりになって死んだのも私のせいで純潔を失ったからでしょうか?」

若殿(わかとの)が横目でチラッと見て

「例え神罰でも(かゆ)みぐらいなら大したことないでしょう?死んだ巫女の事を考えれば、マシじゃないですか?」

伴只行(とものただゆき)が焦って首を横に振り

「いいえ!それだけではないのです!それ以来、私が女子(おなご)と関係を持つとかならず唇がはれ上がり、痛痒(いたがゆ)くなりたまらなくなるのです!神罰がずっと続いてるのです!どうすればいいと思いますか?」

と必死の形相で訴える。

鬼美丸(きびまる)がまた口を開き

「殿、それを聞いて頭中将(とうのちゅうじょう)様に何ができるというんですか?恥ずかしい。自分の恥を目上の方に申し上げてどうするおつもりですか?色狂(いろぐる)いを改めればいいことでしょう?あちこちの女子(おなご)にすぐ手を付ける悪癖(あくへき)をお控えになればたちまち治るのではないですか?」

伴只行(とものただゆき)を睨み付け苛立ったように言い放った。

若殿(わかとの)は興味を示し少し前のめりになって

「それはいつから始まったのですか?」

「その神事がちょうど二か月前ですから、その時以来続いております。」

「何回ぐらい?」

「十五回にはなるかと・・・」

「全部違う女性ですか?」

「いいえ!半分は本命の女子(おなご)で半分は遊びですから、数でいうと七人ぐらいですかねぇ~~」

見た目は清潔感のカケラも無く、むさくるしい、顔の造作(ぞうさ)もフツーのこの人がこんなに女性と関係を持てるなんて貴族というのはよっぽど魅力的な身分なの?この人でこんなにモテるなら鬼美丸(きびまる)ならとんでもないんじゃないの?とチラリと鬼美丸(きびまる)を見ると、鬼の形相で伴只行(とものただゆき)を睨み付けていた。

う~~ん。伴只行(とものただゆき)の遊んだ女性の中に鬼美丸(きびまる)の本命でもいたのかな?というくらい恨みがこもった三白眼(さんぱくがん)で見つめていた。

紅を引いた女性のかと見紛(みまご)うほど紅い唇には何を塗ったのか艶があり、唇からのぞく小さな白い歯は怒って歯ぎしりでもすればひびが入るんじゃないかというくらい可憐に見えた。

観音菩薩(かんのんぼさつ)は男女両方の姿をとるというから、丸石の神域(しんいき)かどこかの神様が人の姿を借りて現世に現れたんじゃないかな?天を渡る白鷺(しらさぎ)が羽を休めに水辺に降りた途端人の姿になったとしたらこんな感じ?と夢想した。

美形の人は鬼の形相でも絵になるなぁとか思いながら鬼美丸(きびまる)を盗み見していると、若殿(わかとの)

「症状は全部同じ強さですか?段々強まったり弱まったりしていませんか?急に息苦しくなったり、全身に発疹(ほっしん)ができ(かゆ)くなったりしていませんか?」

伴只行(とものただゆき)は少し思案し首を横に振り

「いいえ。唇が痛痒(いたがゆ)い以外に症状はありませんし、強度も大体同じですねぇ。えぇと最近は慣れてきたせいかはじめよりは気にならなくはなりましたが。」

「どの拍子(タイミング)で症状が出るんですか?同じものを食べたとか、同じ布で顔を拭いたとか。場所は唇だけ?」

若殿(わかとの)は何らかの過敏症(アレルギー)を疑ってるみたい。

「朝起きたときです!女の元から家へ帰り寝て起きると唇が腫れているのです。そうです唇だけです。」

若殿(わかとの)は少しためらい

「そのぉ~~女性に触れたほかの部分は何もないんですね?」

伴只行(とものただゆき)は顔を赤らめ

「はい。もちろん大丈夫です。そうなったら本当に女遊びをやめるでしょうから、ハハハハ!」

空笑(そらわら)いした。

この瞬間、鬼美丸(きびまる)がピクリと耳をそばだてたように見えた。

(その3へつづく)

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