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無道の呪物(むどうのじゅぶつ) その2

『また和歌(うた)かぁ~~~』と謎めいた和歌(うた)が苦手なのでウンザリしてると若殿(わかとの)がハッと顔を上げキョロキョロして

「帝に()いてみなければ!帝はどちらにおわす!?」

と乳母やに聞くので『そりゃぁ内裏(だいり)でしょう~~ふつーに!』と心の中でつっこんだ。

乳母やが泣きはらした目で若殿を見つめ鼻をすすりながら答えた。

「ズッウッ・・・もうすぐこちらへお越しになるとの文を頂きました。」

来るんか~~~いっ!(フットワーク)軽すぎっ!

主殿で帝を待つ間、若殿(わかとの)の後ろに座って伺候(しこう)しつつ和歌(うた)の意味をきいてみると

「おそらく帝に十年間仕えたが捨てられた恋人がいるんじゃないか?」

ということは

『打ち捨てし 十年を人は 去り行けど 我が思う君は ただ一人なり』

と言う意味か、へぇ~~~と感心した。

「その恋人が帝を恨んで宇多帝の姫を息女(むすめ)だと思ってさらったということですか?」

若殿(わかとの)は難しい顔で頷いた。


十年来(じゅうねんらい)の恋人?ということは朕が十一・二のときからということか・・・。」

宇多帝は一見柔和(にゅうわ)でにこやかな笑みを浮かべているようでいて目は笑ってないタイプの威圧感がある言わずと知れた今上帝。

十一歳って私の一つ上?その時から恋人を(かこ)ってるって早熟!だけど、このお方ならやりかねないと思わせる底知れない器量と強い意志を感じる。

別邸(ここ)においでになるときはいつもお忍びなので、普通の貴族が着るような狩衣姿に身をやつしていらっしゃる。

脇息(きょうそく)にもたれかかり、扇を開いたり閉じたりして、ジッと若殿(わかとの)を見つめながら苦虫を噛み潰して味わってるような表情。

その帝がフフフと含み笑いをして

「そのころから恋焦がれているといえば思い当たるのは浄見の母親だけだが、もちろんあのお方は斎院(さいいん)であったし、朕とは七年以上会っておらん。その文は別の意味ではないのか?そもそも誘拐と関係あるものか?」

若殿(わかとの)も眉根を寄せ考え込み

「十年、捨てた、何かという事ですか。ただ一人とは誰を想っているのでしょう?」

と言ったきり黙り込んだが、帝が

「平次。お前に捜索の指揮を任せる。内舎人(うちとねり)の中で口の堅い腕の立つものを連れていけ。(みやこ)内外の怪しい子供連れや身元の分からない車を全て確認して徹底的に探せ!朕の密勅(みっちょく)を与える。」

密勅(みっちょく)!ってそんな大事(おおごと)にすればかえって宇多帝の姫の存在がバレちゃうんじゃないの?いいのかなぁ。

それに夜中にさらわれたなら今頃都の外に出てるのでは?追跡する手立てもないなぁ。

・・・ふと、もう一つ考えるべきことがあるんじゃないの?と思ったが口に出すのを少しためらった、が結局

「あの~~もしかして姫がイタズラのつもりでこの屋敷のどこかに隠れてるかもしれませんよ。探してみなくていいんですか?」

とそれとなく匂わせた。

若殿(わかとの)も帝も少しピリッとした空気になり、若殿(わかとの)が小さな抑揚のない声で

「使用人にこの屋敷をもう一回くまなく探すように命じてくれ。・・・床下までな。」

とボソリと私に命じた。

この騒がしい気配をどこかに隠れて聞いているなら、バツが悪くてもソロソロ出てこないほど宇多帝の姫は空気の読めない子供じゃない。

自分から隠れて出れなくなっているならまだいいが、誰かに襲われ隠されていて出てこれないとなると・・・答えは一つ。

若殿(わかとの)はそれを思いつかなかったのか考えたくなかったのか。

最悪のことも考えて探すようにと使用人たちに伝えて私も屋敷内の捜索に加わった。

濁って枯れ葉の浮いた池の中や蜘蛛の巣だらけの床下、かび臭い塗籠(ぬりごめ)内、大きな(ひつ)、苔むして恐怖(ホラー)な井戸の中、子供が入れる空間のある場所全てを探し回ったが姫の姿はなかった。

とりあえず最悪の事態は今のところ(まぬか)れたという安心でホッとして若殿(わかとの)を見ると、色々考えすぎて疲れたのか石みたいな無表情になっていた。

北の(たい)の床下を捜索した下人が

「こんなものをみつけました!」

とあるものを若殿(わかとの)に渡した。

それは(わら)を束にして手足や顔のかたちに括り、人の形にしたものだった。

胸には縫い針が数本刺されていた。

若殿(わかとの)がそれをひっくり返したり(わら)の中に指を突っ込んだりして(わら)人形の腹の中から小さい紙片を取り出した。

私が横から(のぞ)きこんでその紙片に書いてある文字を読むと、難しい漢字が縦に並んでいて読み取れたのは『早良親王(さわらしんのう)』と『帝』と『怨』と言う文字だけだった。

・・・う~~ん、それって『呪物』だよね?確か呪詛(じゅそ)は罪になり準備をしただけで強制労働、呪物を設置し呪詛行為をして標的が死亡した場合は死刑になるらしいので犯人は、もし今ここにいるなら焦ってるはず!とキョロキョロ辺りを見回すが怪しい反応は見られない。

若殿(わかとの)が眉をひそめ

「帝を呪っているということか。『早良親王(さわらしんのう)』が何の関係があるんだろう?」

『帝』『怨』は宇多帝が怨敵(おんてき)ってこと?

早良親王(さわらしんのう)と言えば『延暦4年(785年)、造長岡宮使(ぞうながおかぐうし)藤原種継(ふじわらたねつぐ)の暗殺事件に連座して廃され、乙訓寺に幽閉された。無実を訴えるため絶食し10余日、淡路国に配流される途中に河内国高瀬橋付近(*作者注:現・大阪府守口市の高瀬神社付近)で憤死したとする。』という人。

百年も前の人が姫の誘拐に何か関係があるの?

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