表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平安貴族の侍従・竹丸の日記  作者: RiePnyoNaro


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

106/382

愛憎の方術(あいぞうのほうじゅつ) その2

 次に若殿(わかとの)と組んだのは計恵(かずえ)という姫だった。


計恵(かずえ)は宮中で内侍司(ないしのつかさ)に勤めに出ている女官(キャリアウーマン)で、将来は尚侍(ないしのかみ)かとも噂されるぐらいのやり手。


もちろん貴族の娘で、くっきりとした目鼻立ちで肌つやのいい、姉御肌(あねごはだ)な感じ。


目力があって、見つめられて命令されようもんならハイっ!と何でも言いなりになりそう。


お題『紅葉』について若殿(わかとの)にハキハキと話しかけ、自分の詠んだ和歌(うた)の長所を(とう)々と力説しているが、若殿(わかとの)生気(せいき)の抜けた顔で頷くばかり。


「あなたのその和歌(うた)でいきましょう。いい和歌(うた)です。」


と最後は投げやりに見えるほどあっさり了承したのを計恵(かずえ)は不服そうに見つめている。


めげずに若殿(わかとの)に何かと話しかける計恵(かずえ)の後ろで、私は計恵(かずえ)の侍女に話しかけた。


「あなたの(あるじ)は男性関係で困ってないんですか?」


侍女は計恵(かずえ)よりもおっとりとして、話し出す前にたっぷりと間を取る人だった。


(あるじ)はね~~、長い付き合いの平見習(たいらけんしゅう)様という恋人がいるの~~。(あるじ)が銭を工面して服装や必需品や参考書を立派にそろえてあげて、大金をつぎ込んでやっともう少しで蔵人(くろうど)というところまできたのよ~~。」


とゆっくり話す。


「だから、若殿(わかとの)には興味がないんですか?なぜ今日来たんです?」


侍女はう~~~んと上前方を目だけで見上げて


「でもぉ、(あるじ)はもう平見習(たいらけんしゅう)様に飽きたらしいのね~~。でもぉ~~過去に出した銭がもったいないから、別れるのをためらっているのよぉ~~。」


とスピードは遅いが端的(たんてき)核心(かくしん)を突く。


若殿(わかとの)がまたクルリと振り返り


「それは『埋没費用(サンクコスト)効果』という。これまでかけた費用がもったいなさすぎて、()めるよりも続けることを選び、より損失を増やしてしまう結果にもなる。」


それを聞いて計恵(かずえ)が驚いたように


「まぁ!まさしくそうですわ!でも(おっしゃ)るようにもう相手に興味を失ったのなら手を切るべきですわね?」


(つや)めいた微笑みを浮かべ横目で若殿(わかとの)を見つめる。


若殿(わかとの)が愛想笑いを浮かべ


「どうでしょう?結婚となると気心の知れた相手の方が何かとうまくいくんじゃないですか?」


計恵(かずえ)(かわ)されたと気づいたのかちょっとピリッとしたが、すぐにいっそう妖艶(ようえん)な笑みを浮かべ


「じゃあ、さっき是非恋人になってくれとせがまれた源傲一(みなもとごういち)様を選んだほうがいいと思いますか?」


と首を傾け(しな)をつくって若殿(わかとの)を見つめた。


若殿(わかとの)はよりいっそう口元だけの笑みを浮かべ


「それは、あなた次第でいいのでは?どちらとも上手くやるのであれば二人とも付き合えばいいでしょう。『もったいなく』て『損をしたくない』なら。」


と頷く。


まさしく『打っても響かない』とはこのことで、ここまで無関心な態度を取られたら、自尊心(プライド)のある女性ならそれ以上グイグイ来ることはない。


若殿(わかとの)は自分が関心を持てない人にはトコトン冷たい態度をとれるという特技がある。

(その3へつづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ