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史上最強の眠り姫  作者: 栗尾りお
第2章
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史上最強の眠り姫83

 林を抜けた先にそれはあった。


 腰下くらいまで生い茂る草むら。その向こうに巨大なくぼみが出来ていた。


 青々しい草原の中で乾いた土肌が一層白く見える。傾斜の下には少し水が溜まっている。中型の魔物ならすっぽり入ってしまいそうな。大きさと深さ。

 ただ、驚くべき場所はそこじゃない。


 離れた場所からでも視認出来るこのくぼみ。その異様さは形だった。


 測量して掘られたのかと思うほど綺麗な四角錐。流れ込む雨水で削られなければ、もっと精巧な形だったに違いない。


 2人して穴の底を見つめる。あまりにの大きさと正確さに思わず黙ってしまう。


 「……何これ?」


 「情報によると、ルルフが作った穴らしいです。大きな穴とは聞いていましたが、これ程とは」


 「そういえばルルフって聖騎士団から逃げ出したみたいな話聞いたんだけど。何で作ったかは分からないけど、これだけの力持ってるのに逃げ出すって変じゃない?」


 「確かにそうですね。それは本人に聞くのがいいかと」


 いつも通りの口調で優しく話すサーラ。しかし、その顔には緊張が走っている。

 不思議そうに見つめていると、サーラは自分の左腕を指差して合図を送る。


 そうだった。私たちの会話は全部ダリ隊長に聞こえている。眠っていて聞いていない可能性もあるけど、今まで聞こえてきた寝言も全部演技の可能性もある。


 サーラにいたっては幽体離脱からの魔法攻撃どころか、睡眠魔法の使用すらやめた方がいいのではと伝えてきた。


 私には魔法の才能はない。ただ幽体離脱からの魔法攻撃は初見殺しだし、私へのリスクもない。

 この魔法陣に監視の能力があった場合、睡眠魔法の連発は自ら奥の手を晒しにいっているようなものだ。能力の対策をされてしまったら、いよいよ私の価値はなくなる。


 本人はサボっているだけなのに、存在するだけで精神面が削られる。まったく、面倒な魔法陣だ。


 あー、ムカつく! こんな広大な場所、幽体離脱を使えば簡単に見つけられるのに。最初の方は自分の足で探していたけど、さすがに限界だ。

 見つかる保証はないし、これで見つからなければ何日もかけて遠くまで歩いただけの人になる。


 「とりあえず、探しますか」


 「そうだね。その前に背の高い草多いから、斬風で切っていい?」


 「1回なら。ここに魔物がいないとも限りませんし」


 「了解!」


 お礼を言いつつ魔法陣を展開する。


 目の前に広がる草原。私たちが小さくなったかと思うほど高く元気な草たちに、これ以上やる気を吸い取られたくない。


 少しくらい魔力を使いすぎても、ルルフを探しているうちに回復するはず。そんな思考が頭の片隅にあったせいか、展開された魔法陣はいつもより大きかった。


 「ネ、ネムさん?」


 心配するサーラを無視するように魔法を発動する。

 私たちの前だけ見晴らしが良くなる草原。まるで海を割ったような景色だった。


 「……ふぅ」


 大量の魔力を消費した反動は大きい。膝をついてしまいそうな疲労が襲いかかる。それでも、私の気分は爽快だった。


 「ネムさん、私の話を聞いていましたか?」


 「もちろん! だから1回しか放ってないでしょ?」


 「ネムさん?」


 「ご、ごめんなさい! つい力が入り過ぎちゃって。駄目なのは分かってたんだよ。でも見て! 凄い景色でしょ⁈」


 「それはそうですけど――」


 呆れた顔で目の前の光景を見つめるサーラの目が大きく見開いた。つられるように草原を見ると、切り裂かれた草の影に妙な子供が立っていた。


 艶のある白い髪。前髪は眉毛の辺りで真っ直ぐに切られ、他は肩につかないくらいの長さに切り揃えられていた。

 服も特徴敵でゆとりのある灰色の上着を前で重ね合わせるようにしている。ボタンとかは付いている様子はなく、脇の少し下についている紐ではだけるのを止めているみたいだ。


 見たことのない特徴的な格好。それだけでも充分興味を引かれる。ただ、それよりも興味を引く特徴がその子供にはあった。


 「……あれ、亜人だよね」

 

 顔の横ではなく頭の上から生えた2本の耳。もちろん人間の物じゃなく、狼や犬のような獣の物だった。


 「サーラ?」


 返事がないことに違和感を感じ、さっきより大きめの声で呼びかける。それでも反応はない。


 どうしたんだろう? 亜人が存在することに驚いているのかな。私も本の中でしか見たことないから分からなくはないけど。


 「サーラ。サーラ!」


 「あっ! す、すみませんっ!」


 甲冑をノックしながら再度呼んでみる。するとようやく反応してくれた。


 「そうだ! 報告を!」


 サーラは脳が正常に動いていない状態で私の左腕を掴む。そして魔方陣を口元まで持っていった。


 「ダリ隊長! サーラです! ルルフを視認しました!」


 え、あれがルルフなの? だったら早く捕まえないと。


 そう思い亜人がいた場所を見る。しかし、すでにそこに亜人の姿はなかった。


 ヤバっ! 私が目を離した隙に! どこ行ったんだろう? せっかく見つけたのに。


 「ネムさん、左手の甲冑は遠くに捨ててください! あとは、いつも通りの作戦で!」


 慌てる私にサーラは引きつった表情で端的に指示を出す。


 「捨て……え? ダリ隊長からの指示は? それに今回は使わないんじゃ」


 「状況が状況です! 早く!」


 「は、はいっ!」


 いろいろ聞きたいことはあった。でもサーラの焦った声と真剣な表情に何も聞けなくなる。

 言われるがまま甲冑を取り、くぼみの中に捨てる頃には、サーラは草むらの中に消えていた。


 このままだとサーラが危ない。


 根拠もないのに不安が湧き水のように溢れてくるのを感じる。

 必死に頭を働かせ、私に出来る最善策を模索する。


 「やっぱり、これしかないか……睡眠魔法」


 不安を抱きながらも、手を胸に当て静かに魔法陣を展開した。

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