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史上最強の眠り姫  作者: 栗尾りお
第2章
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史上最強の眠り姫79

 枯れたネストが遠くからゆっくりと若草色に変わっていく。どの方向を見てもその光景は変わらない。

 本来ならもっと早く移動できるはず。あえて速度を落としているのは勝利を確信しているからなのか、恐怖を味わせたいからなのか。

 どっちにしろ、私たちを取り囲むように回り道したとしても時間がかかり過ぎている。ほぼ確実に全プンプの体内に種が装填されていると思って良さそうだ。


 「ネムさん、そろそろ準備を」


 「う、うん」


 立て掛けられた棺に歩み寄る。時間の猶予はない。それは分かっているはずのに、不安と足取りが重くさせる。


 「あの作戦でいくんだよね」


 棺の影に立つサーラに確かめる。意外にもサーラの表情はいつも通りだった。


 「ええ。私としてはクサリガマの方でも良いのですか」


 「絶っ対、嫌! あんなのうまくいくはずがないじゃん!」


 「そうですか? 私としては名案だと思ったのですが」


 「……」


 頭が痛い。メレアと話してる気分になってきた。早く棺に入って寝よう。


 少しだけ軽くなった足取りで棺の中に入る。背中に感じる緩衝材。蓋は空いているのに音や空気の流れが明らかに減る。

 この戦い方は何度もやったはずだ。それでも胸に当てた手はまだ冷たい。


 「そうでした。ネムさん、短剣をお借りしてもよろしいですか?」


 棺を覗き込み顔を強張らせる私に声をかける。


 「いいよ……でも無茶しないで」


 「分かりました」


 「あとケーキ! 城に戻ったらケーキ食べたいから作って」


 「分りました。果物をたくさん乗せたものを作ります。では、そろそろ蓋を閉めますね」


 「うん」


 視界が壁に遮られる。隙間から差し込んでいた光も徐々に減っていき、ついには消えてしまった。

 圧迫感と呼吸する音しかない。動きが制限された狭い空間で私は静かに魔方陣を展開した。

 自由になった体で棺を抜け出し、上から周囲を見渡す。枯れた灰色の大地に若草色の輪が少しずつ狭まってくる。

 近づくにつれて幅の厚みが増していく。基礎魔法程度の火力じゃ穴を開けることすらできないんだろう。


 『ふんっ! あー、ダメだ』


 ありったけの魔力を右手にこめる。しかし、展開されたテレパシーの魔法陣は途中で消えてしまった。


 万全の状態なら、私もテレパシー魔法で少しくらいは援護出来たはず。ただ残り魔力も心もとない現状では、孤独な戦いを見守るだけで精一杯だった。


 「ネムさんのテレパシーは……ないですね。おおかた魔力切れでしょう」


 漂うことしか出来ない私の心を正確に読まれた。さすが訓練を共にしてきただけのことはある。

 見えないと分かりつつも、サーラの近くへと降り立ち手を合わせた。


 「正直、可能性としては充分ありました。ネストはネムさん1人で倒しましたし、これで仲良く半分こです」


 余裕そうな表情でプンプたちを見渡す。そしてパンパンに膨らんだポーチから藍色の布を取り出した。

 小さく折り畳まれたそれを丁寧に開いていくと、丸い石のような物が10個ほど包まれていた。親指の爪程度の大きさの物体を適当に掴み、再び折り畳んでいく。


 また砲撃が届く距離ではない。しかしその安心も着実に削られていく。


 「……まだ…まだです」


 迫るプンプを見つめ、言い聞かせるように静かにつぶやく。瞳孔は開かれ、直立した重心はぶれない。極限まで集中したその姿は不気味にすら感じた。


 静かな時間が流れる。しかし、その終わりは唐突に来た。


 「今です!」


 足を開き大きく振りかぶる。サーラの手から放たれた白い球体は高く上り、吸い込まれるようにプンプたちの元へと落下していく。


 彼らには精一杯の悪あがきしか見えなかったんだろう。しかし、落下した球体が割れた瞬間周囲に雷鳴が轟いた。








 「魔道具?」


 クサリガマの作戦を却下した私にさらなる作戦が告げられた。


 「はい。プンプたちは数の利を生かして攻めてくると思います。そこを魔道具を連発して討伐します」


 「でも魔道具なんて高級品、私持ってないよ」


 「私が持っています。昨日手に入れました」


 そういえば佐原はまだ買うものがあるとか言ってあの後どこかへ行った。何を買ったかなんて気にしていなかったけれど、まさか魔道具を買っていたなんて。


 「すごいね! ファインプレーじゃん!」


 「いえ、ほんと偶然ですよ。それに魔道具はギラルさんからいただいたのですよ」


 「ギラルさん?」


 「なにやらフォーチュンフィッシュの鱗を魔道具化したらしく。試作品があるから使ってみないかと」


 と言って右腰につけたポーチから藍色の布の包みを取り出す。ためらいもなく広げていくサーラからとっさに距離をとった。


 「どうかしましたか?」


 「どうかしましたか?』ってそれフォーチュンフィッシュの鱗だよね⁈」


 「はい。多少加工はされていますが」


 「割れたらどうするの⁈」


 フォーチュンフィッシュの鱗は割れた瞬間にトラップ魔法が発動する。規模も属性も割れるまでは分からず、対策はほぼ出来ない。実際に討伐した私たちだからこそ、その脅威を嫌というほど知っている。


 「とにかく片付けて! あと出来るだけポーチに触らないで!」


 必死すぎる私の反応にサーラは渋々布を畳みポーチに戻す。さっきまで景色の一部となっていたポーチの存在感が急に増す。いつ爆破するか分からない魔道具のせいで、しばらくサーラの腰から視線を外せなかった。








 轟音と共に若草色の円の一部が黒く染まる。動揺のせいか順調に狭まっていた陣形が僅かに崩れた。


 「そこですね」


 女王個体を守ろうとしたんだろう。均等な幅で迫っていた円の一部が大きく膨らむ。


 密度の増した場所にあたりをつけたサーラは、その他の方向に魔道具を投げた。周囲で発生した大氷塊や爆発や腐食。魔法が混沌とした灰色の大地でサーラは棺を構えた。


 進行方向を見つめ、重心を落とす。動きを止めたサーラの姿が次の瞬間消えた。


 乾いた木がめり込んだ足跡。目にも止まらぬ速さで距離を詰めるサーラにプンプたちの対応は遅れた。

 不完全な陣形のまま砲撃が開始される。時に避け、時に棺で防ぎながら確実に距離を詰めていく。群れの中に入っても、その速度は落ちることはなく、立ちはだかる軍勢をなぎ倒しながら進んでいった。


 弾丸を持っているプンプはまだいる。しかし、照準が合わなければ意味はない。明後日の方向に弾丸が飛び交うなか、遂に最深部へと辿り着いた。


 不自然に盛り上がったプンプの山。自身の間合いに入ったサーラは勢いよく棺を振り下ろした。


 緑色の汁と共に灰色の地面がめり込む。


 肩で息をするサーラ。プンプたちは動きを止め、振り下ろされた棺の場所をじっと見つめる。

 息遣いだけが聞こえる世界で乾いた風がサーラの髪をなびかせた。


 『……終わった?』


 そう呟いた時だった。僅かな隙間から赤紫色の体が這い出る。動きは遅い。それでも確実にサーラから距離を取り始めた。

 すかさず、もう一撃を加えようとしたサーラ。しかし固まっていたプンプたちも一斉に動き出し足や棺に絡みついてくる。


 女王を逃すには攻撃するより足止めをした方がいい。その思考は正しく、徐々に埋まっていく体では女王を追いかけることはできない。

 脱出を試みたサーラも動くことを諦め、棺から手を離す。


 「ごめんなさい」


 俯いたサーラの目がツタのような髪で隠れる。

 作戦に不備はなかった。やれることはやった。しかしこれだけの物量差をそう簡単に覆すことは出来ない。

 哀愁漂う彼女の姿がそれを物語っていた――ように感じた。


 「()()()()()()()()


 前髪に隠れた目が光に照らされる。

 私の短剣を逆手に持ち、勢いよく投げつける。安定した体勢から放たれた短剣は女王の体を貫いた。

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