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史上最強の眠り姫  作者: 栗尾りお
第2章
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史上最強の眠り姫75

 飛び出した幽体を無数の弾丸が襲う。しかし、今の私には当たらない。全てが体をすり抜け、後ろの幹に着弾した。


 ドサッ


 着弾する音に混ざり甲冑を纏った本体が地面に倒れ込む。眠った私に攻撃は効かない。打ち込まれても、それを上回る再生力で回復していく。甲冑を貫通した種は吐き戻すように、同じ穴から地面に落ちた。


 もちろんプンプたちは私の能力を知らない。自分たちが優勢と勘違いした彼らは畳み掛けるように砲撃を繰り返す。次第に私の周りが種で埋め尽くされていった。


 正直甲冑の強度が低すぎたのは想定外だ。でも作戦に狂いはない。

 私が囮になって敵の注意を引く。その隙にサーラが攻撃を仕掛ける。特訓で何度も試した私たちの連携。隠れ家での努力がようやく実を結んだ。


 「これで終わりです」


 腰に差していた剣を逆手で持つサーラ。そのまま大きく振りかぶり、女王個体に向け放った。









 「……すみません」


 プンプがいなくなったネストの道の真ん中で正座するサーラ。


 「私が当てていれば……」


 「大丈夫! 大丈夫だから!」


 眉毛を一層ハの字にして目を潤ませるサーラ。今にも頭を地面に付けそうなサーラを必死に宥める。いつの間にか私もサーラに向き合うように正座してしまっていた。


 その隣にはは先が少し溶けた剣が置かれている。


 睡眠魔法を発動し、全ての砲撃を私に向ける。プンプの注目が集まりサーラへの警戒が薄れた。サーラの視界の真ん中には一歩後ろで見守る赤紫色の女王が写っていたはず。


 完璧なタイミングに完璧な位置どり。女王個体への攻撃としてはこれ以上ないほどだった。


 しかし、根が絡み合って出来た凸凹道のせいか、離す直前に僅かに軸足がぶれてしまう。

 その結果、剣は女王個体の少し横に刺さってしまった。それに危機を感じ逃げ出すプンプ。慌てて引っこ抜くも、ネストに含まれる水分のせいで剣先が溶けつつあった。


 「あ、あんまり自分を責めないでよ。他の個体より小さいから当てにくいのは当然だよ。それに、私の能力で軌道がズレたってこともあり得るし」


 「ですが……」


 足りない頭で必死にフォローするも、なかなか納得してくれない。

 確かに、あの一投を決めていたらプンプの討伐の難易度は下がったかもしれない。でも厄介なのはネストもだし、サーラがいなかったら私の体は通気性抜群になっていた。


 あの感じだとプンプの砲撃が止む瞬間は存在する。無敵状態で耐えれば、反撃のチャンスはいくらでもある。


 ただ、それは入り組んだこの場所でなければだけど。


 色んなところに隙間があるから、どこからでも発射できる。打ったら奥に隠れたらいいし、弾丸になる種だっていっぱいあるんだろう。

 それに怖いのは、何体いるか私たちからは見えないことだ。

 砲撃が止んでも、待機している奴がいるかもしれない。


 いつ、どこから、どれだけの攻撃が来るのか怯えながら戦う。今回の任務は実力もそうだけど、精神面も試されている気がする。


 「まずネストを何とかしないと……今回はプンプが宿主だったから良かったけど。これがフォーチュンフィッシュみたい強敵だったら、大変なことになってたね」


 「それはないです」


 サーラは正座したまま、はっきりと私の言葉を否定した。背筋がピンと伸びた美しい正座のせいか、サーラの言葉に謎の圧があった。

 まるで学校の先生に怒られる時のような。あの独特のヒヤリとした物を感じ。


 「ど、どうして?」


 動揺を精一杯隠して尋ねる。


 「ネストの宿主になれるのは小さくて弱い魔物限定です。それにネストが芽を出して10日以内に取り込まれる必要があります」


 「ん? 取り込まれる? 待って。もう少し細かく説明して」


 淡々と話を進めるサーラを両手で制する。

 やばい。情報量が多すぎて頭がおかしくなりそう。何で、たかが魔物1体にこんな情報があるの? 私が知らないだけ?


 「ネストが宿主に適した成長を遂げるには、苗木の時点で宿主の情報を得ることが必要になります。そのため10日間だけ触手を伸ばし、近くの魔物を取り込もうとします。無事取り込めたら学習を開始し、成長し始めます」


 「取り込んで学習する……特性だから仕方ないかもしれないけど、ちょっと気持ち悪いね。その取り込まれた魔物はどうなるの?」


 「核となるので死ぬことはありません。ただ、本当に死んでいないだけです」


 死んでないだけ。ここまで特性を活かした成長をするのに、リスクゼロなんて都合のいい話はない。それでも、少しかわいそうに思えてくる。


 「核を壊すのも作戦ですが、全体像が分からないので。それに見つけても攻撃が通らないかと」


 先の溶けた剣を横目にサーラはため息をつく。


 確かに植物相手なら棺で殴るより、剣で切った方が効果はある。けれど刺さっただけで、こうなるんじゃ……私の短剣も意味はなさそうだ。

 それに『核』って言うくらいなら、きっと頑丈に守られているはず。効果の薄い武器だけじゃ勝機なんて……あ! あの魔法なら!


 「サーラ! 私の魔ほっ――」


 名案を思いつき勢いよく立ち上がる。

 しかし、長時間正座していた足は痺れ、中途半端な体勢でバランスを崩す。

 おまけに少し盛り上がった木の根が、甲冑のわずかな隙間を潜り抜け、脇腹に直撃。


 「ぬおっ!」


 人に聞かれたくないほど汚いうめき声と共にのたうち回る。


 「ネムさん……その……大丈夫ですか?」


 痺れることなく立ち上がったサーラが慌てて私の元に駆け寄る。

 目を開けると、心配そうに覗き込むサーラの顔がそこにあった。


 差し出された手に捕まり、フラフラしながら立ち上がる。


 最悪。せっかく名案を思いついたのに。これじゃ、どんな顔して言ったらいいの……


 「え、えっと……わ、私とお揃いですねー!」


 「……」


 サーラなりのフォローだったんだろう。でも、その優しさが逆に辛かった。木に囲まれた空間に逃げ出したくなるような静寂が流れる。


 「……すみません。冗談です」


 「う、うん」


 どうしよう。ようやく現状を抜け出す光が見えたのに今度は別の地獄が。こうなったら今すぐ作戦を話そう。それで作戦に移って、速攻終わらせる。


 きっと討伐が終わる頃には、この空気も解決出来ているはず。多分だけど。今はそう信じるしかない。

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