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史上最強の眠り姫  作者: 栗尾りお
第2章
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史上最強の眠り姫66

 地面に座り込み、落ちた荷物を整理する。背後から痛いほど視線が送られているのを感じた。

 地面に置いた荷物をまとめ、渡すだけの短時間で作業のはず。それなのに背後からは、つま先をトントンと地面に叩きつける音が聞こえて来る。


 「言い忘れていましたが、少し遠回りして行きますよ」


 思い出したかのようにルクスが口を開く。苛立ちを感じていた、つま先の音がようやく止まった。

 振り返るとルクスは腕を組み私たちを見下ろしていた。

 

 「……どうしてですか?」


 小石を投げつけたい衝動を質問に変える。


 「フォーチュンフィッシュが運び込まれているからですよ。正門の前は住民の方で溢れかえっていると思います。ですから裏門から入るようにと言付けされています」


 そういえば確かにフォーチュンフィッシュが運ばれていたな。さっき走って行った男の人たちは、あれが目的だったんだ。でも、あのなの見てどうするんだろう?


 「あの、質問いいですか?」


 不思議そうにする私の代わりに荷物を背負ったサーラが小さく手を挙げる。まだ少しだけ顔は赤かったけど、ほとんど通常運転のサーラに戻っていた。


 「フォーチュンフィッシュは以前私たちも討伐したことがあります。ですがその時は人が集まるなんてことはなかったような……」


 「ええ、最近になってですよ。フォーチュンフィッシュの肉には若返りの効果があるという噂が国中に広がりのまして。一儲けをしようと冒険者が討伐に行くのですが倒せるはずもなく被害は増えるばかり。そこで聖騎士団が率先して討伐し、住民に安価で売ることになったのですよ」


 なるほど。あの爆音と空に描かれた煙。あれはフォーチュンフィッシュのお肉が届いたことの合図だったんだ。それに気付いた街中の奥さんたちは、旦那さんに買いに行かせる。あの光景はそういうことだったんだ。


 けど、何でこんな時にやるのかな? 私たちの隠れ家の場所は分かっていた。なら到着する日ぐらい予測できたはず。まるで私たちの到着に合わせてフォーチュンフィッシュを届けたみたいな……

 多分ルクスと会わなくても、正門に辿り着いた時に裏門から入るように言われたんだろう。


 イベントで人が集まるのであれば、その他の場所の人通りは減る。仮に大きな物音がしても「イベントをやってるから」と思い込む。


 「……そっか」


 こんなに大変な思いをして、あともうちょっとで城に着くって信じてたのに。神様は不公平だ。

 

 ……もういい。期待するのはやめよう。結局辛つらい思いをするのは私だ。


 「()()()()()()()()()()


 ずっと意識しないようにしていた私の希望。それを壊しにいくのは今なのかもしれない。


 「そうですね。本来なら城に着いてからでしたけど、この場所の方が条件が良さそうです」


 最低限の荷物だけを持ち立ち上がる。そしてルクスから2歩、3歩と後退りした。

 不可解な行動をとる私たちにルクスは困惑と苛立ちが混ざったような表情を浮かべた。


 「ルクスさん。私からも質問です」


 「何でもいいから早くしてください。あなたたちと遊んでいる時間なんて私には――」


 「()()()()()()()()()()


 遮るように発した私の言葉。その言葉でルクスの表情が固くなるのを私は見逃さなかった。








 遡ること少し前。


 あれはメレアが聖騎士団長を隠れ家に連れてきた次の日だった。

 私が朝食を食べ終わった途端、サーラは話を切り出した。


 いつものサーラなら朝食を手早く済ませ、準備運動と称し岩とか丸太とかを持って走りに行く。それなのに、この日のサーラは食べ終わっても席を立とうとはしなかった。


 思い詰めたような硬い表情を不思議に思いつつも朝食を食べ進める。そして私も食べ終わり食器を持って行こうとしたその時、サーラが口を開いた。


 「ネムさん、ちょっといいですか?」


 「どうしたの?」


 少し浮いた腰を下ろし、いつも通りの私を装う。


 「その……うまく言えないのですが、いろいろ変かと思いまして」


 「変?」


 「はい。今さらになって手のひらを返したことや、メレアさんだけが聖騎士団長に連れて行かれたことなど」


 「時期に関しては言ってたじゃん。『最近になって情報の改ざんがされていたことが判明した』って。分かったのが最近だし、手続きに時間がかかったみたいだから仕方ないじゃん」


 「それは……ではメレアさんが転移魔法で一緒に帰った理由は? 私たちは3人1組なのでは?」


 「でもメレア自分から国に行って聖騎士団長連れてきたんだよ? あの子が狂っているのはいつもだけど、敵の大将に隠れ家を教えないでしょ」


 「脅されている可能性は?」


 サーラの不安をかき消すようにテンポ良く否定していた私の言葉が止まる。


 メレアは隠し事が上手だ。いつも1人で抱え込んで、私がメレアの悩みに気づく時には、全部解決済みになっている。

 サーラもここでの生活で何となく気付いたんだろう。だから、こうして必死に考えてくれたんだと思う。


 少しだけ温かい気持ちで心が満たされる。


 「心配してくれてありがとね。でも、それはないと思う」


 「どうしてですか?」


 「だってメレア、床に手をつく聖騎士団長をデッサンしてたし」


 「……ん?」


 「隣で見てたけど凄く真剣に描いててさー。しかも途中テレパシーで『これは団員に売れる』とか『次世代のお金稼ぎ』とか永遠にテレパシーで言ってきてて。とても脅されているようには見えなかったよ」


 「……そうですか」


 私の証言を聞いても表情は硬いままだ。

 ちょっとは笑ってくれるかなと思って明るく言ったけど逆効果みたいだった。間違えたな。


 「そ、それにメレアの部屋見たけど荷物なかったよ。脅されて行動を制限されているなら私物は絶対運ばせないでしょ。中に爆弾入ってましたーってなったら問題だし」


 「その荷物ですが、私が寝る前までは部屋にありましたよ」


 「あれ? さっき見た時は無かったような。私の見間違いかな?」


 「いいえ。確かに荷物はありませんでした」


 聖騎士団長が来たのが昼過ぎ。その時メレアは何も持たずに転移魔法で帰って行った。最初にここを出た時も荷物はほとんど持って行かなかった。


 だったらいつ荷物を運んだの?

 タイミング的には聖騎士団長が転移魔法を使った時だけど、それじゃメレアの証言と合わない。そもそも転移魔法は魔法陣内の物しか転移できないし。あと考えられるとすれば……


 「夜中にこっそり持って行ったとか?」


 考えた末に出た仮説。もう、これくらいしか思いつかない。でも――


 「メレアさんが私たちに声をかけずに行きますか?」


 「そうだよね。絶対にあり得ないよね」


 普通の人なら気を遣ってこっそり出て行く。ただメレアはそんなことしない。


 少なくとも私には何かしらの怠絡みをしてくるはず。それが今回に限ってなかった。


 違和感がメレアの行動だけならサーラも気にしなかったかも知れない。でも今回は違和感が重なり過ぎてる。疑心暗鬼になるサーラの気持ちもよく分かる。それでも


 「考えすぎじゃない? メレアだっていつもぶっ飛んでるわけじゃないし。それより、やっと国に戻れるんだよ! 部屋は綺麗だし、頑張らなくてもご飯は食べられるし、掃除もしなくていいし。サーラだってそっちの方が嬉しいでしょ?」


 「全部、罠という可能性もあるのでは?」


 「そんなわけないじゃん。もっと前向きに考えようよー。前向きにさ」


 「淡い期待が自分を苦しめることだってあるのですよ」


 悲しげに呟くその言葉に意識して作った笑顔が崩れる。


 「すみません。朝の訓練に行ってきます」


 少しうつむき加減でサーラは食器を重ね席を立つ。


 サーラの不安を取り除こうとしただけなのに、結果的に微妙な空気になってしまった。もっといい方法があったのかな。

 そんなことを思いながら、呆然と空になった食器を見つめる。


 「……場合によっては城の敷地内での戦闘もあり得ますので。その時は戦わず全力で逃げてください。私も即座に逃げますので」


 顔を上げると食器を持ったまま立ち尽くすサーラの姿はあった。体も顔も私の方を向いていない。


 「待って、メレアは⁈ 助けないの⁈」


 「そのメレアさんが()()()()()()()()場合です」


 無表情のまま話すサーラ。その声がわずかに震えていたのを凄く覚えている。

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