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史上最強の眠り姫  作者: 栗尾りお
第2章
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史上最強の眠り姫64

 振り返ったサーラの肩が一瞬上がる。その後崩れ去るように膝をついた。


 『サーラ⁈』


 幽体のままサーラのに駆け寄る。ゆっくりと顔を上げるサーラの表情は苦痛で歪み、定期的に青白い電流が全身に駆け巡っていた。


 体を駆け巡る電気。直撃する際に一瞬見えた針のような物も同じ色だった。間違いない。『雷針』だ。


 『雷針』。拘束時に使われる初級魔法魔法の一つで、食らった相手は痺れて、しばらくの間は動きが鈍くなる。攻撃としての威力はほとんどないが、速度と射程距離の長さは他より優れている。

 早く逃げ出そうと、痺れた体を強引に動かそうとするサーラ。そんなサーラの足元が今度は氷で覆われていく。


 慌てて周囲を確認する。でも、変わらず近くにはそれらしき姿はなかった。


 どこから発動しているのか。何の目的で攻撃しているのか。考えることは山ほどある。

 しかし、頭を働かせている間にも氷は成長し続ける。


 『ざ、斬風!』


 幽体離脱中に使える数少ない魔法。

 本来ならかなりの威力を持つ初心者向けの風魔法だけれど、今の私にはそれほど強い力を出せない。


 しかも、この国には魔法を発動しづらくする結界がある。それもあって私の斬風では氷にヒビを入れることしかできなかった。


 『ネムさん、充分です』


 そう言ってヒビの入った氷から自力で脱出するサーラ。

 痺れは少しマシにはなったかも知れない。けど、一瞬見せた顰めっ面。サーラが怪力だからと言って痛みに強いとは限らない。ましてや、ふくらはぎ辺りまで覆われた氷から抜け出すなんて。


 『ここは一旦別行動しましょう! まだ痺れで体が上手く動かせません! このままネムさんを抱えて逃げるのは無理かと』


 電気の痛みと姿の見えない相手の恐怖。この状況で冷静に指示をすることはどれだけ難しいことか。少しでも負担を減らして心に余裕を作らないと。

 その一心でテレパシーを送る。


 『大丈夫! 私、今は最強だから! サーラは自分のことだけ考えて』


 私には最強の魔女、カルネドからもらった能力がある。そのおかげで私は攻撃を喰らわない。しかも運のいいことに私には何の魔法攻撃はされていない。多分敵は私に気づいていないと思う。

 使える魔法も回数も限られている。だったら逃げつつ魔法で撹乱してサーラの逃げる隙を――


 「動かないでください」


 今いる場所から離れ、適当な場所へ魔法を連発する。すぐさま行動に移ろうとサーラから目を離した瞬間、後ろから冷たい声がした。

 痺れが残る体に鞭を打ち、一歩踏み出すサーラ。そんなサーラの額に剣が突きつけられる。


 さっきまで私たちの周りに人はいなかったはず。それなのにこの人は一瞬でサーラの目の前に現れた。いや、そんなことよりこの人……


 「許可なく魔法を使いましたね。この後まで連行します」


 白くて綺麗な肌に気品のある金色の髪。目はエメラルドのように鮮やかな緑色。ひと目見ただけでおとぎ話の中の王子様を連想させる好青年。


 間違いないルクスだ。


 「あの……私、サーラです。元特殊部隊のサーラです」


 「あなたが誰だろうと関係ありません」


 両手を上げることすら出来ない状況で弁明をする。しかしルクスの耳には届かず、冷酷にもう一度雷の針を放つ。


 「ぐっ!」


 さすがのサーラも2度目の攻撃魔法には耐えられなかったみたいだ。

 顔を歪ませながらその間に倒れ込む。痺れて動けないことを確認したルクスは剣を収める。そして拘束用のロープを取り出し、サーラを縛っていった。


 「……ルクス隊長。私です……覚えていませんか?」


 震える唇から必死に声を発する。だがルクスは反応すらない。ただ黙々とサーラを縛っていく。


 どうしよう。魔法を使ったのは私なのに。このままだとサーラが連れて行かれる。とりあえず今は少しでもこっちに意識を向けさせないと。


 「おい、コラ! そこのルクス! 下を見ろー!」


 起床魔法を使い、もとの体に戻る私。そしてその場で飛び跳ねながら、屋根の上のルクスに声をかける。


 すると、ようやく私の存在に気づいたのか冷たい目で一瞥する。しかしすぐに視線をサーラに戻した。


 多分サーラを連れていく準備でもしてるんだろう。

 人の話を聞かず自分の都合で物事を進めるこの感じ。やっぱりコイツは変わらない。


 このまま何もしなければ本当に連れて行かれる。もう、こうなったら恥ずかしいとか言ってられない!


 「あれー⁈ ルクス隊長のくせに犯人を間違えるのー⁈ 魔法を使ったのは私だよー! 捕まえるのは私じゃないのー?」


 真っ赤になりながらも、大声を出してルクスを煽る。

 すぐに黙らせに来ると思ったけど現実はそう甘くない。屋根から降りることなく淡々と自分の仕事をこなしていく。


 まずい。結構頑張ったのに……煽りがまだ足りないんだ。もっと、こう相手の弱みを突いていかないと。


 「あ、そっかー! ルクスって私に惨敗したんだっけ? 包帯でぐるぐる巻きにさてれたよねー! もしかして、まだ私にビビってるの? 恐れてるの? 恐怖で震え上がってるのー?」


 近所にはっきり聞こえるように煽り続ける。

 過去の話を持ち出されたのが癪に触ったのか、ようやく屋根から降りてきた。

 無駄に華麗な着地を決めた肩には、縄でぐるぐる巻きに縛ったサーラを乗せている。彼女の長く綺麗な足をこちらに向けたまま距離を詰めてきた。当然その顔は怒っていた。


 視線を逸らしたい。でもここで逃げると全部認めたことになってしまう。せめてサーラを解放するまではコイツに抗わないと。

 見下すように睨みつけるエメラルド色を負けじと見つめる。


 「この国では無許可で魔法を使うことは禁止されています。間違えて無関係の人間に魔法が当たれば、聖騎士団の信頼が落ちます。勝手な行動は控えるように」


 「その通りですねー。魔法を発動した相手を間違えて捕らえた人間の言うことは説得力がありますねー」


 「分かってもらえたなら良かったです。しかし私もまだまだですね。人間を客寄せの置き物と認識してしまいました。背の低さと丸みがそっくりでしたから」


 「……へー、女の子相手にそう言うこと言うんだ。デリカシーないですね」


 「おっと、つい心の声が漏れてしまいました」


 「……あ、あのー。もう止めませんか?」


 バチバチと火花が飛び散るなか、サーラが遠慮気味に声を出す。


 「ご、ごめん! 確かにサーラの言う通りだね」


 ルクスに対する苛立ちが強すぎてサーラに気を配ることを忘れていた。


 サーラは今ルクスに抱えられているから私の顔は見えない。おまけに縛られているから逃げることも耳を塞ぐことも出来ない。


 お尻を向けたまま醜い争いが収まるのを待っていた。でも私たちが幼稚すぎるあまり、その願いは叶うことはなかった。

 恥ずかしい姿を晒した状態で目立ちたい人なんているわけない。ましてや普段遠慮気味なサーラなら尚更だ。

 それでもサーラは自ら発言して争いを止めることを選んだ。


 ……ごめん。今度何かプレゼントするから。


 心の中で手を合わせて謝る。


 「サーラ?……あ、この人も元特殊部隊の方だったのですね」


 「あ、はい……え?」


 何かに気付いたように今更すぎる質問を私にしてくる。


 え、ルクスってサーラと会ったことない?

 ううん。フォーチュンフィッシュの時とかストーカーの相談しに来た時とか、何度か会ってるはず。それにさっきサーラも自分の名前言ってたじゃん。

 ……まさかコイツ、サーラのこと覚えてない? わざわざ言いたくないけど私たちルクスを魔王から救ったんだよ⁈ なのに、その3人しかいない隊員の1人を忘れるなんて。


 「これでメレアさん以外の隊員も揃いましたね。少々時間が押していますが仕方ありません」


 今揃ったみたいに言わないでよ! 最初から揃っていたし! 時間が押しているのもあんたのせいだし!


 大声でルクスに文句を言ってやりたかった。しかし考えなしでつっかかったら、またサーラに迷惑をかけてしまう。


 それに()()()()()()()()()もある。


 隠れ家でのやりとりが私を冷静にさせる。喉元まで来た文句を飲み込み、大きく深呼吸をした。

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