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そして彼は教育係から調教師になった

カイルとミルガルド達の出会いです。

「えっと、初めまして…何をしているのかな?」


そう、こわごわと少女に声をかけたのは若かりし頃の黒団幹部交渉役のカイルだった。


「これを食おうと思って、わなを仕掛けて捕ったんだ」


美しい少女は外見にそぐわぬ言葉づかいで彼に答えた。


何故、カイルが前王妃の娘として生まれたために、愛されず、この離宮に隠されて育てられた姫の元を訪れたかだが、没落貴族の為に家に力がない彼が姫の教育係兼後見人になることに決まったからだ。


政略の為に姫に教育をすることにした王だが、王位継承権を放棄させたとはいえ、血筋は問題がない姫に力を与えることは良しとはしなかった。そのために、カイルに白羽の矢が立ったのだ。

彼は貴族だが、身分を隠して民間で働いていたほどの貧乏ぶりだった。

いくら、カイルが優れていようと没落した家に生まれては上に行くのは難しかった。




「王から君に教育を頼まれて来たんだけれど…教育っていうレベルなのこれ?なにこの野生児…ウサギ生で丸かじりしようとする?えっ姫だよね?」


姫の驚きの答えに、思わず素に戻って話すカインだった。


「たしかにこの国の姫らしいが、生まれてから乳母とメイドのマリカと乳兄弟のセイしか見たことがない。あっ、この前、王に会った。なんだかよく分からんかったが、みんなに放棄しろと言われたらうなづけと言われていてな。そうした」


さらっと王位継承権の放棄の裏話を聞かされたカイルだった。


「言葉を教えたのは誰?」


この10年、何を教わっていたんだ?と頭を抱えながら姫に聞いた。


「乳母のユイファンだ。」


そんなカイルの様子に全く動じない姫は冷静に答えた。


「…あぁ!うわ!王様やってくれるわ。元女騎士の!礼儀が壊滅的で首になったのを憐れんだ元王妃様が側付にした…そうかあの人が教えてたんならしょうがない…っていくらなんでもウサギ丸かじりにするにしても焼くでしょ!」


伝説になったほどの男勝りの貴族の女性の名を挙げられて彼はパニックになったのだろう。背後から近づく影に全く気付いていなかった。


「ほう…貴殿が私をどういう目でみていたのかは、よく分かった」


そこには、剣を持った金色の髪に青い瞳の中性的な美しい女性がいた。


「げっ…」

 

「ユイ、これ焼いてくれるか?」


「わかった、でもお前が仕掛けた罠に新しい侍従がかかったから、それを外してからだ」


「侍従…食えるのか?」


「人は人を食ってはダメだ。もう竜じゃないんだからな」


そうカイルを無視して会話をする姫と乳母のユイファンだった。


「あの竜って?」


なんだろ、何かの暗喩かとカイルは彼女たちに問いかけた。


「ん?まだ言っていなかったのか?教育係は引き込むから言えって言っておいただろう」


意外そうにカイルを見てから姫に問いかけるユイファンだった。


「言う前にユイが来た。カイル、私には竜として500年ぐらい生きた記憶がある。人間の生活には疎いが、これからよろしく頼む。ユイは貴族のことをよく知らなくてな」


「ユイファン様…俺の家より上の出身ですよね」


姫の前世が竜という事より先にそこを気にするカイルだった。


「剣以外に興味は無い。しかし、先にそれを聞くか…面白い」


そうニヒルに笑うユイファンに赤い髪の少年が飛びついて来た。


「おふくろ、ミルがあっちの木にも仕掛けてた。なんか黒づくめの物体が絡まってる」


「ほう…カイル、子供たちを頼んだ。セイ、厨房にマリカがいるからそこにミル達を連れて行け」


そう、少年に命じて彼女は剣を握りしめた。


「わかった」


そう答えてミルの手を握りしめる少年。


「分かりました、気をつけてくださいね」


何が起きたのか理解したカイルは自分が彼らを守らなくてはと、剣の柄を握りしめた。


「なに、諜報の一人や二人…腕がなるわ!」


そう笑いながら去る彼女は貴族の女性にも乳母にも全く見えなかった…。


そして、厨房に無事にたどり着いた彼らはメイドのマリカとユイファンの帰りを待つことにした。


カイルは応援に行っても足手まといになるだけだから、ここにいろと皆から説得された。

3人の落ち着いた様子を見て、カイルも厨房に腰を落ち着けて先ほどの続きを話すことにした。



「さて、姫様、さっきの前世の話は本当ですか?」


絵空事を通り越して妄想の様な発言を彼は信じた。

そんな嘘を彼女たちがつく必要もない事は確かだが、何よりも彼は自分の直感を信じた。

彼女たちは信用できるという。


「あぁ」


ためらいもなく、うなづくミルガルド姫だった。


「私に望んでいるのは王族の教育だけですか?」


そんな姫をどこか満足そうに見ながら、カイルはそう問いかけた。


「いや、カイル。味方になってほしい。私にこの王家は小さすぎる。私はユイ達と広い世界で一緒に暮らしたい。その手助けをしてほしい」


そう願う姫にカイルはにこやかにうなづいた。


「わかりました。味方になりましょう!」


「ずいぶん簡単にうなづくんだな」


不信の目でカイルを見る姫の乳兄弟の赤髪の少年、セイだった。


「君はセイ君だったね。僕の家は貧乏だし名前だけの貴族なんだ。庶民にも馬鹿にされるぐらいね。初めて味方になってなんて言われたよ。我が家に力がないことを知っているユイファン様が僕を引き込む気でいたんだ。頼られるのがこんなに気持ちがいいなんて…それにね、セイ君。君には悪いけどユイファン様の教育がすっごく不安…」


そう、少年に素直に内心をこぼすカイルだった。


「あーおふくろな…てっとり早く乳母になる為だけに庶民と結婚して俺を産んだような、ぶっ飛んだ人だけど…いい母親だ。俺にミルっていう妹もくれたしな…」


母の教育が不安というのに深く納得したセイだった。


「私が姉だ!」


大人しく話を聞いていたミルがそこは黙ってはいられないとばかりに叫んだ。


「俺が兄だ!俺の方が1か月早く生まれてんだからな!」


「精神は私の方が500も年上だ!」


「そんなに子供っぽくって何、言ってんだ!」


そう子供らしく喧嘩する2人をアツアツの川魚料理が乗った皿を持った女性が仲裁した。


「はいはい、姫様もセイも喧嘩しない。はい、ごはんお食べ。お腹が減っているとカリカリするからね。

カイルさんだっけ?あんたもどうぞ」


そういってお皿を差し出す女性は妙に色気のあるメイドのマリカだった。


「ありがとうございます、おいしいです」


ナイフとフォークで上手に骨から身をほぐして、貴族らしく上品に食べるカイル。


「うめえ」


ナイフで頭と尻尾だけ落として後はそのままフォークを使って食べるのは貴族と庶民の子、セイ。


「旨いが、マリカ、私のウサギは?」


頭からそのまま手づかみで丸かじっている血筋正しい王族の姫、ミルガルド。


「血抜きしてから、夕飯に出しますよ。」


厨房で王族や貴族に庶民の食事を平然と食べさせるコック兼メイドのマリカ。


「おっ、旨そうだな。マリカ、私にも」


そう言って血染めのドレスのまま平然とテーブルに着く高位貴族出身の乳母兼護衛のユイファン。


そうして、彼らは出会ったのだ。


セイとユイファンとマリカとカイル、そしてミルガルド…黒団初期メンバーの出会いだった。






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