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最終話 さよなら茶霧智

ちなみに戦闘力にしたら100万以上は確実か byポロリの中の人


本当に意味はありません(`・ω・´)

最終話 さよなら茶霧智


 私が大学を卒業して、もう3年経った。25歳になった私は、実家に戻り地元の商社に勤めている。所謂OLをしていた。地元に戻ったのは理由があった。うちの父はそれなりの企業で部長をしていた為、就職難の現在でも簡単に良い仕事をみつけてくれたのだ。大学3年次から就職氷河期を味わっていた私は、その誘いに乗ってしまったのだ。実とは大学在学中も順調に交際を進めていたし、私としては傍に居たかったのだが、彼も大学院を北海道に決めてしまっていた。うちの大学から北大の大学院など快挙だ。どうしてもやりたいことがあると言っていた彼を、私は引き止められなかった。離れても心は繋がっていると、そう信じて地元に戻ったのだけど、やはり年月は全てを風化させるらしい。もう1年以上彼を見ていない。メールや電話もかなり回数が減ってきていた。実はもう院を出て、北海道の企業に就職しているのだけど、一向に私を呼び寄せる気配を見せないでいる。私を呼び寄せる、つまり結婚だ。25歳、そろそろ私は適齢期に入っているのだけど、彼はまだプロポーズはおろか、忙しい忙しいと会話すらしない日々が続いていた。


(何だろ・・・、このまま自然消滅なんてことないよね?)


私はまだ彼しか交際経験が無いので仕事仲間に相談したりするのだけど、皆が一概に「ヤバイ」と言っている。私が遠距離恋愛の真っ最中なのは社内でも知れ渡っていたけど、最近は男性からよく誘われるようになった。昔は男付きだと明言していた為に猛烈なアタックなんてされなかったのに、今は唯のガードが固い寂しい女と見られているのかもしれない。遠距離中の彼からはほとんど連絡が無くなっているのなんて同じ部署は勿論、他の部署にまで筒抜けのようだった。


(このままじゃいけないわ。今度会った時にハッキリさせよう・・・。)


私はもうじき、ある事で彼と再会することになっていた。その時に全てを決着つけようと、私は決意してその日を待ち焦がれていた。





 季節は秋になっていた。明日は一花の結婚式だ。場所は私がいる九州からかなり離れていたけれど、出席しないわけにはいかなかった。一花は地元に近い都市で旅行代理店に就職していたのだけど、そこをよく利用する男性と付き合うようになったと聞かされていた。彼は釣りが趣味で、よく地方へ釣り旅行をする人らしい。歳は私達より8歳も上だったけど、優しい笑顔の人だ。安心して彼女を任せられると思った。時折送られてくる写真に写る一花の笑顔が幸せですと物語っていたし、私は羨ましくさえあった。いつも好きな人と一緒にいられる一花が、とても羨ましかった。一花は大学で一番の親友、当然結婚式の通知を受けた時は快諾した。実も同じく快諾し、私達は久しぶりに会うことになった。ただ、結婚式の数日前、実から私宛の手紙が届いていた。いつもはメールや電話、そんな便利なツールで済ませるのに手紙が来たのだ。内容は短いものだったけど、とてもショッキングなことが書かれていて、私は思わず涙が頬を伝ってしまう。遂に来たかと思った。


【手紙】


茶霧智へ


今回、手紙にしたのは言いにくかったからだ。


俺は茶霧智にさよならしたいと思う。詳しい話は会って話そう。


一花の結婚式は笑顔で出席するようにしたいしな。


                          秋庭実


【手紙了】





 今日は一花の晴れ舞台。涙は禁物だ。これから一生を伴侶として旅立つ2人にとても失礼だと思う。それでも私は、浮かぬ気分で朝を迎える。当然だ。今日は朝から実と会うのだ。きっと別れ話が待っていると思うと、逃げ出したくなった。結局、数多の遠距離恋愛のカップルと同じく私達も例外にはなれなかったのだ。必然的な別れが待っている。距離は全てを朧にして薄れさせる物らしい。普通は女性側が寂しさに絶えられずに崩れるケースが多いと言うが、私は北の大地で頑張る恋人を想って耐え抜いた。話せない、触れ合えないのは辛いけど、それでも一生懸命に他の男性の誘いを蹴飛ばして彼だけを想った。私達は異色の結ばれ方はしたものの、うまくやれていたと思う。何がいけなかったのか全く見当が付かない。彼が向こうに私よりも素敵な女性を見つけてしまったのか?それとも私に愛想が尽きたのか?疑問は次々に浮かぶけど、どれも違う気がした。


(あの手紙は別れを告げる物だった。はっきりとさよならと書かれていたし。でも私は納得できない。今日は実の真意をちゃんと確認しなきゃいけない。私達の将来のためにも・・・。)


私はある種の決心をようやく固めて、朝一番の便で到着する実を待った。新千歳を7時30分発の便は8時30分には最寄の空港に着くはずで、私は9時30分にホテルロビーで待ち合わせている。朝っぱらから重い話だと思ったけど、一花の結婚式には笑顔で出ようと思っていた。15時の披露宴には気持ちの整理も済ませたい。一花の人生最良の日が私の人生最悪の日とならないことをただ祈っていた。





 ホテルのロビーで待つこと20分、ソファに埋もれるように腰掛けていた私の目に、懐かしい人影が写った。秋庭実その人だ。礼服に身を包み、手には土産物が入った袋と重そうな鞄を持っている。ゴロゴロと引き摺るように鞄を運んでいたが、私を見つけて手を上げた。


「遅いっ!20分も遅刻だよっ!」


怒る私に、特に悪気も無さそうな目を向ける。相変わらずの長身だ。仕事を始めて、学生時代の雰囲気がまるで無くなっていた。良い意味でだけど、男の顔をしていると思った。


「飛行機が朝一から遅延したんだよ。これでも急いだんだ。」


飄々とそう言う実に私はまだキツイ視線を送る。この5年間、私達は付き合いながら関係が変わっていた。昔は実が私にベタ惚れしていたために、私のほうが我侭したい放題だった。でも今じゃ、私のほうが彼を必要としているのは明白で実も私の不機嫌にわざわざ付き合うことはしなくなっていた。またかと言う顔で私の怒りを簡単に受け流す。当然ご機嫌を取ろうとする気配は無い。


「全然反省してないでしょ?」


「反省する要素が無い。悪いのは遅延させた方だし、俺は最短で最速のルートを選んだ。ここまでタクシーだぞ?」


「何よっ!飄々としちゃって腹立つわね・・・。」


「相変わらず怒ってるな?でもらしいよ智。」


「うるさいっ!で、話とやらを聞こうじゃない。その為にわざわざ朝早くから待ってたんだから。」


「ああいいよ。今からチェックインするから、部屋で話そう。」


そう言うと、実はホテルのカウンターに向かう。そこでチェックインして部屋の鍵を受け取ると、私について来いと促した。私は黙って彼の後ろを歩く。彼は久しぶりに会った私に何か掛ける言葉の一つも無いのだろうか。私達は黙ってエレベーターに2人並んで立った。





 部屋に着くと、実は荷物を適当な場所に置いて私にベッドに座るよう指差した。自分も荷物をゴソゴソやったあと、小さなバッグを出して備え付けのテーブルにポンと投げ出すと私の横に座った。そして、小さな声で話し始めた。


「ずっと放っておいて悪かったな。元気にしてたか?」


「私はいつも元気だよ。お陰様でね。」


「そうか、それは良かった。仕事も順調?」


「うん、もう一人前だって課長からお墨付きも出たわ。」


「へぇ、頑張ってるんだな。お前って会社の話全くしないから心配してたんだよ。」


「実に心配されるなんて、私もまだまだね。」


1年以上も会っていない恋人にしては他人行儀な余所余所しい会話が続く。私の事を本当に想ってくれているなら、キスの1つでもして欲しいと思った。付き合っている時は毎日キスしてくれていたのに、離れてからはそれも出来ていない。たまに会っても、土産話に花を咲かせて帰っていく。離れた3年間は、本当に数えるくらいしかキスをしていなかった事実に私はハッとした。もうその頃からサインが出ていたのを、私が見逃していただけなのかもしれない。ただ振られる私を不憫に思って、彼は恋人の振りをしていてくれていたんじゃないだろうかと思ってしまう。それで今回、決心して私に別れ話をしにきたのかもしれない。


「そんなのヤダ・・・。」


横でまだ口を閉じない実の話など、すでに聞こえていなかった。悪い想像が頭の中で膨らみ、愛しい声も歪んで遠くに聞こえる。きっと別れ話を切り出すと思って覚悟は決めてきたけど、捨てられる現実は私が想像していたよりもずっとずっと重かった。リアルにその恐怖で胸が一杯になり、張り裂けそうになる。胸が、痛い。本当に痛い。


「智?」


「ヤダよぅ・・・。」


「おい?どうした智?」


急に話を無視して呟きだした私を、実が怪訝な顔で覗き込んでいる。いきなりブツブツ言い出したら誰だって恐いだろうけど、私はそれどころでは無くなっていた。胸を押さえて俯いてしまう。


「おい、具合悪いのか?どうした?おい、智っ!」


ただ事ではないと察した実は私の肩をユサユサと揺らす。その衝撃で、私はやっと口を開いた。


「・・・実、どうして私を置いていったの?私のこと嫌いになった?私ってうざかった?ねぇ、どうして?」


「は?お前何を言ってるんだ?急にどうした?」


目を見開いて私の豹変ぶりに驚く実。私はもう想いと一緒に言葉と涙が溢れた。


「だって、あんな手紙じゃなくてももっとちゃんと私に言う機会はあったでしょっ!?わざわざ一花の結婚式の日にこんな事言わなくてもいいじゃないっ!なんで?どうして?どうして今日なの?」


「えっと?だって今日は一花の結婚式だろ?今日じゃないと俺もその決心と言うか、言い出せなかったんだ・・・。」


「だからどうして今日なのよっ!私あなたに会いたくなかったっ!もうあなた無しじゃ人生楽しくもないものっ!せっかくの一花の晴れの日に、涙しか見せられない・・・。ヤダよぅ・・・。私を捨てないで・・・。」


私の言葉に驚いたような目をした実は、やっと理解したようだ。


「ああ、そういうことか。困ったな。ちょっとした悪戯のつもりだったんだが、そう受け取ったか・・・。」


実はそう言ってばつの悪そうな顔をする。私はもう泣くしか出来ない。覚悟は決めていた。だけど、もう泣くしか出来ない。女って弱いなと思う。黙って肩を震えさせるだけだった私を、実はゆっくりと抱きしめてくれた。同情のつもりなのだろうか。同情はいらない。だけど、もっときつく抱いて欲しかった。今はこの手の中に包まれていたい。例え最後だとしても。でも実は、そんな私に優しく囁いた。


「智、悪かったな。かなり不安にさせちまったみたいだ。俺はお前を捨てたりしないよ。」


「・・・本当?」


「ああ、これは意趣返しだったんだ。ほら、俺がお前に告白した日、お前がやったことに仕返しをしたかったつうか・・・。」


「私何したっけ・・・?」


「ひっぱたくって言ってキスしたじゃないか。」


「あ・・・、そうだったわね・・・。」


「だからそのお返し、ちょっと不安にさせようと悪戯したかっただけなんだ。」


「でもさよならって・・・。あんな風に書かれたら誰だって別れ話と思うわよっ!」


「ハハハ・・・、だよな。我ながらやりすぎたと思うよ。」


「馬鹿ッ!本当に最低・・・。私がどれだけ苦しんだか・・・。」


「手紙の本当の意味を教えてやるよ。目を閉じてくれるか?」


「・・・うん。」


私は待ち望んだキスが来ると思い、素直に目を閉じる。でも実は、私から離れると先ほどの小さな鞄をゴソゴソやり始めた。お預けのつもりなのだろうか?私は待ちきれずに目を開ける。


「あっ!馬鹿、目閉じてろってっ!!ああ・・・、もう格好つかねえなぁ。」


そう言って彼は小さな箱を手にして私の前に跪いた。私は意味も分からず、キョトンとした視線を彼に向ける。


「智、手を出してくれ。」


私は無意識に実の言葉に従う。実はその手を取ると、箱から小さな銀色のリングを出して私の左の薬指に嵌めた。


「・・・何?」


「今さらだな。あの手紙の意味はこう言う事だ。」


「へ?あ・・・、ええええええええええええっ!!!プロポーズだったのアレッ!!?」


「ああ・・・、俺と結婚してくれ。」


「ええええええええええええええええええええっ!!!!」


「あの手紙の意味はな、さようなら茶霧智、そして今後は秋庭智になって欲しいって意味だったんだ・・・。」


「意味分かんないんですけどっ!本当に私でいいのっ!?」


「ああ、もっとちゃんとすればよかったよ。かっこ悪いプロポーズになっちまった。」


「本当よっ!最低のプロポーズッ!」


「あのさ、プロポーズ、受けてくれるか?」


「やり直しっ!!!」


「これもう1回やるのかっ!?」


「違うわよ。もっとちゃんとプロポーズして・・・。ほら、まだだし・・・。」


私はそう言って、目を閉じた。





 披露宴は素晴らしかった。一花は純白のウェディングドレスに身を包み、旦那様の腕にしっかりとしがみ付きながら各テーブルを回る。今はキャンドルサービスの真っ最中だ。私と実の座る席に近付いてきて、笑顔でキャンドルに火を灯す。私達も笑顔でそれに応えた。


「ねぇ、智。ブーケ欲しい?狙って投げてあげようか?」


「一花・・・。そういうのは不正するもんじゃないわよ。」


「だってみのりん、まだプロポーズしてくれないんでしょう?ブーケ見せて脅迫しちゃえっ!」


「そうねぇ、ブーケがあればちゃんとしたプロポーズしてくれるかな?」


私は悪戯っぽい笑みを浮かべて実を見る。実は困ったような顔で一花に苦笑を向けた。


「もう勘弁してくれよ・・・。智、一花にちゃんと教えてやれ。」


「そうね、フフフ。一花、次は私の式に来てねっ!」


そう言って私は左手の薬指に光るリングを一花に見せる。私達の会話を聞いていた周りの席からは歓声とどよめきが溢れた。


「ああああああああっ!智やったねっ!!!」


「ありがとうっ!そしておめでとう一花っ!!!」


「ありがとうっ!そしておめでとう智っ!!!」


そう言って私と一花はお互いの相手もそっちのけで泣きながら抱き合った。実も一花の旦那様も呆れたように見ていただけだったけど、これからも長い付き合いになるようにお互いに握手を交わしてくれた。そう、これからも私達は親友で、そして一生お互いに泣き笑いしながら生きていくんだ。当然、実も一緒にね。抱き合う新婦とその友人に、いつまでも拍手は鳴り止まなかった。


智も一花も幸せになれたと思います。これからも彼らは人生を共に歩んでいきますよ。でもそれはここで語る必要は無いと思います。


本当にこれで終わりです。お付き合い頂きありがとうございました。



追記

チャム(猫)に関して全く触れていませんでしたね。チャムは実が北海道に行く前に一花が引き取りました。引き取ったというよりは、チャムとの別れを泣いて嫌がった一花に、ちゃんと世話をすると言う条件で里子に出した感じです。当然、現在は一花の家でのんびりと暮らしていますよ(ㅎωㅎ*)

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