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#18 「先生」

 



 俺はコラボ配信の準備と並行して義母が経営するライブハウスのホームページを作成していた。なぜ作成できるかということに関しては昔取った杵柄としか言えない。

 インターネット自体まだまだ一般に広まっていないアンダーグラウンド寄りの存在であるためか細かい部分では古臭く見えてしまうものの限りなく2020年代によく使われているスマートなデザインを採用している。


「今度天羽さんに相談してみるか」


 天羽さんとメールや電話でやりとりしていくうちにすっかり仲良くなった。

 聞く話だと彼女は様々なものを作り出しいくつか特許まで取得しているらしい。更にジャンルを問わず挑戦していくというチャレンジャー精神まで持ち合わせている。これでまで二十歳というのだから驚きだ。

 ホームページの作成についても彼女には話をしており「実はこういう新規格の……」といった具合でインターネットページに関してもなにやら造詣が深い様子だった。


「ライブハウス側のパソコンのセッティングもしないとなあ」


 先日注文したパソコンが届いたとの連絡があった。連絡をしてきた芦田さんのテンションが妙に高かったのをよく覚えている。


「動画編集は直接教えるのと……復習は投稿済み講座動画を見てもらうほうが早いか」


 マウスとキーボードを操作する手を止めずに独り言を呟く。前世よりも遥かに優秀な頭脳のおかげで並列思考が無理なくできるのは最大の利点と言えよう。


 ある程度ホームページの骨組みが出来上がったところで保存し、次にコラボ配信用のデスクトップパソコンで2Dアバターのテストを行う。

 いつも使用しているパソコンとの操作感の違いにマウスカーソルの狙いが定まりにくいがじきに慣れるはずだ。


「表情テスト――おぉ、精度が高い。これ何種類あるんだ」


 様々な表情を専用のカメラへ向けてとってみると想像以上に反応速度が速く、かつ実際にとっている表情とあまり変わらないくらい精度が高い。


「俺のいた時代と同等かそれ以上なんじゃないかこれ」


 カチカチとツール内の機能を触っていく。

 途中、天羽さんが初配信時に見せた口角が無限に上がっていく機能もしっかり搭載されていてくすりと笑ってしまった。


 それから30分ほど経過し「そろそろだ」と呟く。

 パソコンの電源を落として外出用の服装に着替える。


「在処ぁーそろそろって、準備バッチリ可愛いじゃない!」

「はいはいお世辞はいいからいくよ」

「お世辞じゃないよぉ~」


 頬を膨らませる義母の背中を軽く押して部屋から出る。


「シートベルトはOK?」

「オーケー」

「ほいじゃ、しゅっぱぁーつ!」





 *****……






 ライブハウス"Remain"。

 義母が経営しているライブハウスである。

 時間的にお客さんはまだ入ってきていないが出勤しているスタッフの話し声で雰囲気は明るい。


「天使かな? 天使だね。在処ちゃん可愛い~」


 佳代さんが外向きの服装をしている俺を見て頬に手をあてている。


「どうっすか、あたしのコーディネートは!」

「あら、ゆうきちゃんが? センスあるわね」


 ふふん、と胸を張ってドヤ顔を見せつける芦田さんの頭をなでる佳代さん。「えらいわね~」「そ、そっすか。えへへ」といいようにされてしまっているところから察するに平常運転なのだろう。


「……こんにちは」


 頭の上から挨拶が降ってくる。俺は驚いて振り向く。


「秋乃さん、こんにちは。背後からはちょっとびっくりしますよ」

「む、気をつける」


 雨宮 秋乃(あめみや あきの)さん。

 いつ見ても綺麗で艶のある長い黒髪が特徴的なとびきりの美人さん。これは世の男性が放っておかないのではと思っているが恋人はいないらしいとの義母談。


 雑談もいいところで切り上げてパソコンのセッティングに入る。ここで使うのはデスクトップパソコンなのでまずは置く場所を決めなければならない。


「従業員用の休憩室に置きましょ。ケーブル関係もそこ通してるから」


 義母の指示通りに芦田さんが運び込む。


「けっこう重いっすねえ」


 と言いつつひょいっと簡単そうに持ち上げているあたり力持ちなのだろう。佳代さんから「あの子毎日筋トレしてるの」と耳打ちされ納得がいった。


 運び込まれたパソコンの配線をテキパキと終わらせ、ぐちゃぐちゃにならないよう一部は結束バンドで留める。


「……よし」


 パソコンを起動させて問題ないことを確認。

 早速各種ソフトをインストールしていく。動画編集は元々デフォルトでインストールされていたものを使っていたが動画サイトの発展に伴い優秀なフリーソフトが登場したため今はそっちを使っている。


「で、動画編集技術の習得したい人は「私」……秋乃さんが?」

「時代の最先端、トレンド……私がやりたい」


 いつもは表情の少ない顔の秋乃さんだが今は子どものように瞳をキラキラさせている。これは決まりかなあ。


「決まりだね。じゃ、在処よろしく!」


 義母は俺と秋乃さんの肩にぽんと手を置いてから去っていく。続いて芦田さんと佳代さんも受付やステージの方へ。

 芦田さんはいいのかなと去る前に一言聞いてみたが、そこまで急いでいないから秋乃さんから先にとにこやかに去っていった。


「……よろしくお願いします。先生」

「うぇ? あ、はい。こちらこそ」


 こうして秋乃さんとの交流が始まった。







読んでいただきありがとうございます。

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