第38話:執行者
「——時間軸保全のため、これより対象を排除する。」
冷たい声が部室に響く。
誰も動けなかった。
白い仮面。
黒い長剣。
そして、その剣先は真っ直ぐ翼へ向けられている。
「排除……?」
ひよりが震える声を漏らす。
翔は反射的に翼の前へ出た。
「ふざけんな」
「翼には指一本触れさせねぇ」
仮面の男は翔を見ることすらない。
「対象外」
その一言だけ。
次の瞬間。
姿が消えた。
「っ!?」
全員が目を見開く。
どこへ——。
そう思った瞬間には、もう翼の目の前にいた。
黒い剣が振り下ろされる。
「翼!!」
沙良の叫び。
ガキィィン!!
金属が激しくぶつかる音が響いた。
翼は思わず目を閉じる。
しかし、痛みは来ない。
恐る恐る目を開くと。
自分の前に立っていたのは、観測者の青年だった。
青年の手には銀色の短剣。
その刃が、黒い長剣を受け止めていた。
「間に合ったか」
青年は小さく息を吐く。
「お前……」
執行者が初めて感情を見せる。
「観測者No.7」
「任務違反だ」
青年――No.7は静かに笑った。
「知ってる」
「でも今回は見過ごせない」
二人は同時に距離を取る。
部室の床には、剣がぶつかった衝撃で大きな亀裂が走っていた。
「全員、下がれ!」
榊が叫ぶ。
沙良はひよりの手を掴み、部屋の奥へ下がる。
智は翔の肩を引いた。
「今出ても足手まといだ」
「でも!」
「今は耐えろ」
翔は悔しそうに拳を握った。
翼だけは、その場から動けない。
「なんで……」
執行者を見る。
「俺を狙う」
仮面の奥から、感情のない声が返る。
「お前の存在が時間軸の特異点だからだ」
「特異点……」
「お前が記憶を取り戻せば」
一拍置いて。
「世界は再び崩壊を始める」
部室が静まり返る。
No.7は翼を振り返らずに言った。
「信じるな」
「……え?」
「執行者は事実しか話さない」
「だが、真実をすべて話すわけじゃない」
その言葉に執行者の剣先が僅かに揺れた。
「オブセルウォートル」
「余計な情報を与えるな」
「断る」
No.7は短剣を構える。
「今回だけは、お前の好きにはさせない」
その瞬間。
翼の胸元のペンダントが、これまでで最も強く輝いた。
青い光が部室全体を包み込む。
そして。
翼の頭の中に、少女の声が響く。
『翼』
優しい声。
『戦っちゃ駄目』
「……!」
『まだ、その時じゃない』
光の中で、一瞬だけ少女の姿が見えた。
涙を浮かべながら、それでも微笑んでいる。
『お願い』
『約束を守って』
次の瞬間。
青い光が弾けた。
No.7も、執行者も、思わず動きを止める。
二人は同時にペンダントを見た。
そして。
No.7が信じられないものを見るように呟く。
「……まさか」
執行者も初めて動揺した声を漏らす。
「その『鍵』が、まだ現存していたのか……。」
遅くなってしまい申し訳ございません。理由としましては、私生活の方で忙しかったからです。これから、徐々に更新していくつもりです。




