第35話:オブセルウァートル
部室の窓の外で、
誰かの影が一瞬だけ通り過ぎた。
「今の……!」
ひよりが窓へ駆け寄る。
しかし。
廊下には誰もいない。
「気のせい……?」
「いや」
智が静かに首を振る。
「俺も見た」
榊はすぐに部室の外へ出る。
「ここで待っていろ」
数分後。
榊が戻ってくる。
「誰もいなかった」
「そんなはずないだろ」
翔が言う。
「確かに人影だったぞ」
榊は小さく息を吐いた。
「……気配だけ残っていた」
「気配?」
「未来の時間移動の痕跡だ」
部室の空気が張り詰める。
澪が窓の外を見つめる。
「もうオブセルウァートルが動き始めたのかもしれない」
その言葉に、翼はさっき聞いた少女の声を思い出した。
『もう見つかった』
あの焦った声。
あれは自分のことではなかった。
A-01自身が、オブセルウァートルに見つかったのだ。
「榊」
翼が口を開く。
「オブセルウァートルって何なんだ」
榊は少し黙り、静かに答えた。
「時間管理機構に属する者たちだ」
「時間管理機構?」
「時間軸の異常を監視し、必要なら修正する組織」
「修正って……」
沙良が不安そうに呟く。
「場合によっては、人も消す」
その一言で、部室が静まり返った。
翔が信じられないという顔をする。
「人を……消す?」
「時間軸を守るためなら、例外はない」
榊の声は重かった。
翼は無意識にペンダントを握る。
もしA-01が観測者に追われているなら。
自分はまた彼女を失うのか。
その時だった。
ペンダントがもう一度、小さく光る。
今度は映像ではない。
翼の手の中に、一枚の小さな紙片が現れた。
「なっ!?」
翔が目を見開く。
「どこから出てきた!?」
翼は恐る恐る紙を開く。
そこには、手書きの文字が並んでいた。
『図書館の旧書庫』
『明日、17時』
『一人で来て』
最後に、小さく一言だけ書かれている。
『信じて』
その文字を見た瞬間。
翼の胸に温かい感覚が広がった。
見覚えのない字。
それなのに。
「この字を知っている」と思ってしまった。
澪が紙を見つめる。
「……未来の筆跡じゃない」
「じゃあ誰が」
智が尋ねる。
翼は紙を握りしめる。
「多分」
一度深呼吸し、静かに言った。
「A-01だ」
しかし、その直後。
部室の時計が突然止まった。
カチッ。
時刻は午後四時四十四分。
全員のスマホも同時に画面が暗転する。
そして、黒い画面に白い文字だけが浮かび上がった。
《観測開始》




