第17話:新人研修
本作は一話完結型、日曜日・水曜日の週2回更新です。
《依頼書》
依頼者:幽玄管理庁(UGA)交渉局
依頼内容:住宅内で発生している原因不明の精神不調事案の調査
現場:郊外住宅地・第二管理区画 戸建住宅
異常概要:滞在者が強い不安・恐怖を訴え、長時間滞在が困難となる事例が複数発生。明確な原因は未特定
制約:対象住宅の損壊禁止/外部機関への情報共有禁止/居住者不在状態維持
報酬:3000万円
⸻
「……精神不調、ですか」
若い女性の声が、わずかに裏返る。
「はい。今回は現場観測を優先します」
事務的な声が淡々と続く。
「交渉人の同行研修として参加してください」
紙がめくられる。
「なお、過去の調査員は三名。いずれも体調不良により途中離脱」
「原因は特定されていません」
⸻
住宅は周囲と同じ造りだ。
外壁も新しく、庭も整えられている。
ただ、窓がすべて閉じられている。
余白は門の前に立っている。
その隣で、女性が資料を握り直す。
「……橘です。交渉局研修員」
名乗る声は小さい。
視線は家ではなく、手元の紙に落ちている。
「その……よろしくお願いします」
門は開いている。
風はない。
だが、玄関の扉がわずかに揺れる。
閉まっている。
それでも、揺れている。
橘が足を止める。
「……今、動きましたよね」
玄関までの距離は数メートル。
その間に、影がない。
建物の影が、途中で切れている。
橘が息を止める。
「……日陰、変じゃないですか」
足元を見る。
自分の影が、途中で薄くなる。
そして、消える。
一歩踏み出すと、また現れる。
そのとき、玄関の中から音がする。
軽い足音。
一歩、止まる。
もう一歩、止まる。
橘の声がかすれる。
「……誰か、います?」
「橘さん、幽玄交渉人の余白です。よろしく」
橘は一瞬だけ肩を跳ねさせる。
声をかけられて、遅れて顔を上げる。
「……あ、はいっ」
慌てて姿勢を正し、軽く頭を下げる。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
手に持っていた資料を強く握りすぎて、紙がわずかに歪む。
「その……初めてで。こういう現場」
言いながら、視線が玄関へ戻る。
扉は閉じたままだ。
さっきの揺れは止まっている。
橘が小さく息を吐く。
「……気のせい、ですよね」
足元を見る。
影は、ちゃんとある。
だが、玄関の手前だけ、わずかに暗さが違う。
影ではない。
濃さだけが、そこにある。
橘が一歩近づく。
床が鳴る。
一度だけ。
遅れて、もう一度。
橘の動きが止まる。
「……また、二回」
玄関の内側から、音がする。
何かが、壁をなぞるような音。
ゆっくりと。
一定ではない速度で。
橘の声が小さくなる。
「……やっぱり、誰か……」
「そりゃいるでしょ。幽玄が」
橘の呼吸が一瞬だけ止まる。
言葉を理解してから、ゆっくりと顔を向ける。
「……え」
目がわずかに見開かれる。
「い、いる前提なんですか」
声が少しだけ上ずる。
玄関の扉が、内側から軽く叩かれる。
コン。
間を置いて、コン。
橘の肩が跳ねる。
「い、今の……」
扉は閉じたまま動かない。
だが、叩いた位置が少しずつ下に移動している。
コン。
コン。
床に近づいていく。
橘が一歩下がる。
「……低く、なってる」
音が止まる。
静寂。
次の瞬間、玄関のすぐ外――二人の背後で、同じ音が鳴る。
コン。
橘が振り向く。
誰もいない。
門の外も、道路も、空だ。
コン。
足元。
地面のすぐ下から、叩く音がする。
橘の声が震える。
「……下、から……?」
地面の一点が、わずかに沈む。
押し上げるように、膨らむ。
形になりかけて、止まる。
『――見つけた』
声が、足元から滲む。
低く、しかしはっきりとした音。
橘が息を飲む。
「……これ、何、ですか」
「見つかっちゃった。なんてね」
橘は一瞬、言葉の意味を処理できずに固まる。
そのあと、ゆっくりと顔を向ける。
「……冗談、ですよね」
声がわずかに震える。
足元の膨らみが、わずかに脈打つ。
形にならず、沈みもせず、ただそこにある。
『見てる。見つけた。見ている』
同じ言葉が、少しずつ違う間隔で重なる。
橘が後ずさる。
「……増えてませんか、声」
地面の膨らみが、もう一つ増える。
最初のものより、少しだけ遠い位置。
コン。
今度は玄関の内側から。
コン。
背後の地面から。
コン。
どこからか、もう一つ。
橘が思わず余白の袖を掴む。
「……あの、これ、囲まれてませんか」
玄関の扉が、わずかに開く。
中は暗い。
光が、途中で止まっている。
境目が、はっきりしている。
『入る?』
声は中から。
『見せるよ。もっと』
橘が息を詰める。
「……見せる、って……何を」
玄関の暗がりの奥で、何かが動く。
人の形に見える。
だが、関節の位置が合っていない。
立っているのに、立っていない。
こちらを向いているのに、視線が合わない。
『怖い?』
声が、はっきりと問いになる。
橘の指が強く食い込む。
「……っ、これ、普通に怖いです」
「お邪魔します」
玄関の扉が、余白の動きに合わせてゆっくりと開く。
軋む音は一度だけ鳴り、遅れて同じ音がもう一度鳴る。
中は暗い。
光は差し込んでいるのに、途中で止まっている。
床に影が落ちていない。
橘がその場で固まる。
「……入るんですか」
声は小さい。
足元の膨らみが、扉の内側へ滑るように消える。
外には何も残らない。
『来る』
声が、家の中全体から響く。
『来る来る来る』
同じ言葉が、少しずつ速さを変えて重なる。
橘が一歩踏み出す。
床が鳴る。
一回。
遅れて、もう一回。
橘が顔をしかめる。
「……これ、慣れます?」
廊下は真っ直ぐだ。
奥にリビングが見える。
だが、距離が一定しない。
一歩進むと遠くなり、
止まると近づく。
『見てる』
声が右から。
『見てる』
同じ声が左から。
橘がきょろきょろと視線を動かす。
「……どこにいるんですか」
壁の一部が、わずかに沈む。
内側から押されているように膨らむ。
人の顔のような輪郭が、浮かびかける。
だが、目の位置がずれている。
『見てる見てる見てる』
橘が息を荒くする。
「……あの、これ、全部見てるって言ってますよね」
奥のリビングから、何かが落ちる音がする。
乾いた音。
一度だけ。
遅れて、もう一度。
『もっと見せる』
声が近づく。
距離がわからない。
近いのか、遠いのか。
橘の声がかすれる。
「……これ、長くいたら、まずいやつじゃないですか」
「橘さん、お仕事お仕事」
橘は一瞬だけ固まる。
その言葉を聞いて、呼吸を整えようとする。
「……は、はい。仕事、ですね」
無理に姿勢を正す。
だが、視線は落ち着かない。
廊下の壁が、ゆっくりと内側へ膨らむ。
今度ははっきりと、人の上半身の形になる。
ただし、腕が長すぎる。
『見てる』
声が、耳元で囁く。
橘がびくりと肩を震わせる。
「……近い、近いです」
後ろを振り向く。
誰もいない。
だが、足音が一つだけ遅れてついてくる。
コツ。
一歩遅れて、コツ。
橘の呼吸が浅くなる。
「……ついてきてますよね」
リビングの方から、テレビのような音が漏れる。
ザー……というノイズ。
画面は見えない。
音だけが流れている。
『怖い?』
声が、はっきりと問いになる。
壁の輪郭が、こちらを向く。
『怖いと、見える』
ノイズが一瞬だけ強くなる。
『怖いと、増える』
橘の足が止まる。
「……増えるって、何が」
その瞬間、廊下の奥にもう一つ影が立つ。
さっきの“形”と同じ。
だが、少しだけ近い。
距離が縮んでいる。
『怖いと、残る』
声が重なる。
二つ。
三つ。
橘が思わず余白の方を見る。
「……あの、これ」
言葉が途切れる。
指が震えている。
「怖がってると、増えてませんか」
「そうみたいね」
橘は一瞬、言葉を失う。
肯定されたことで、逃げ道が消えたように見える。
「……やっぱり、そうですよね」
呼吸を整えようとして、うまくいかない。
リビングの入口が、わずかに歪む。
直線だったはずの枠が、内側へたわむ。
『増える』
声が一つ。
『増える増える』
二つに重なる。
奥の影が、もう一つ増える。
さっきと同じ形。
だが、今度は首が傾いている。
橘の視線が釘付けになる。
「……あれ、さっきと違います」
一歩下がる。
コツ。
遅れて、コツ。
足音が二つになる。
『怖い』
声が、橘のすぐ横から響く。
『怖いは、残る』
壁の膨らみが、もう一つ増える。
三つ。
四つ。
輪郭だけの人型が、廊下に並び始める。
『怖いは、形になる』
橘が思わず目を逸らす。
「……見たくない」
その瞬間、影が一つだけ近づく。
距離が縮まる。
『見ないと、増える』
声が、低くなる。
橘の肩が強く震える。
「……え、どっちでも増えるんですか」
「君、増やし過ぎると本体が薄まるよ」
橘の呼吸が一瞬だけ止まる。
言葉の意味を追うように、ゆっくりと周囲を見る。
「……本体」
影が一つ、わずかに揺れる。
『……薄く?』
声が、ほんの少しだけ遅れる。
廊下の奥の影が、にじむ。
輪郭が崩れ、形を保てなくなる。
『分散は、効率』
しかし声に迷いが混じる。
『だが……維持は』
壁の膨らみが一つ、ゆっくりと沈む。
橘がその変化に気づく。
「……減ってる?」
さっきまで四つあった輪郭が、三つになる。
『怖いは必要』
声が、少しだけ弱くなる。
『だが、過剰は……』
廊下の距離が安定する。
伸び縮みが止まる。
橘がゆっくりと息を吐く。
「……あの、今、ちょっと楽です」
影の一つが、完全に崩れる。
床に染みのように広がり、消える。
『……観測が変わった』
声が、はっきりと一つになる。
『怖いを、制御した?』
橘が余白を見る。
「……これ、効いてますよね」
「ほらホラー、ちゃんと本体を維持して」
橘は思わず二度、瞬きをする。
「……え、維持、ですか」
影の残りが、わずかに形を取り戻す。
『……必要量』
声が、低く整う。
『過剰は崩壊。不足は消失』
廊下の奥に、一つだけ影が残る。
『適正な恐怖を要求する』
橘がぎこちなく周囲を見る。
「……適正って、何ですかそれ」
影がゆっくりと動く。
近づきすぎず、遠ざかりもしない。
『強すぎる恐怖は分裂を招く』
『弱すぎる恐怖は観測を断つ』
壁がわずかに波打つ。
橘が小さく息を吐く。
「……さっきより、怖くないです」
影がわずかに揺れる。
『維持されている』
橘が戸惑ったまま呟く。
「……怖すぎてもダメで、怖くなさすぎてもダメって」
視線が余白に戻る。
「……これ、調整するんですか」
「橘さん、僕の“ほらホラー”を流すの?
これが最近の若者か……」
橘は一瞬、ぽかんとする。
「……え?」
遅れて反応する。
「い、いや今それ言うところですか!?」
声が少しだけ大きくなる。
「普通に怖い状況なんですけど!?」
影が一瞬だけ歪む。
『……変動』
声がわずかに揺れる。
『恐怖、減衰』
橘がはっとして口を押さえる。
「あ、え、今の……」
足元を見る。
影は増えていない。
壁の膨らみも戻っていない。
橘がゆっくりと息を吐く。
「……ちょっと、怖さ薄れました」
影が一歩だけ後ろに下がる。
『……維持、低下』
橘が余白を見る。
「……もしかしてこれ、怖がりすぎない方がいいやつですか」
「でも、怖いんでしょ?」
橘は言葉を止める。
「……怖いです」
小さく、しかしはっきりと言う。
影がわずかに輪郭を取り戻す。
『維持』
橘が喉を鳴らす。
「でも……さっきみたいに、無理です」
影が揺れる。
『過剰は不要』
『適正な恐怖を要求する』
橘が少しだけ眉を寄せる。
「……ちょうどいい怖さって、何ですか」
影が、ほんの少しだけ近づく。
一歩。
止まる。
『逃げない程度』
『見続ける程度』
橘の呼吸がゆっくりになる。
「……見てます」
声はまだ震えている。
だが、目は逸らしていない。
影の輪郭が安定する。
『維持』
空間が、静かに整う。
「幽玄がんばれ。“適正な恐怖”って何だよ……新人研修にならん」
橘は思わず吹き出しそうになって、慌てて口を押さえる。
「……いや、今それ言います?」
声はまだ震えているが、さっきより軽い。
影が一瞬だけ歪む。
『……不満』
『恐怖が不足している』
橘が目を見開く。
「……え、減ってません?」
『維持が困難』
声がわずかに途切れる。
橘が余白を見る。
「……これ、弱ってません?」
影がゆっくりと揺れる。
『恐怖を……要求する』
橘が困ったように言う。
「いや、でもこれ以上怖がれって言われても……」
一歩だけ後ろに下がる。
コツ。
遅れて、コツ。
だが音は一度しか続かない。
影がさらに薄くなる。
『……不足』
空気が、少しだけ軽くなる。
橘が小さく息を吐く。
「……なんか、ちょっとかわいそうになってきました」
「……幽玄、相談に乗るよ?」
影がわずかに揺れる。
『……相談?』
橘が一瞬だけ固まる。
「……相談って、するんですかこれ」
影が形を保とうとする。
『怖いが、必要』
『だが、強すぎると壊れる』
『弱いと、見えなくなる』
橘が小さく頷く。
「……さっき、薄くなってました」
影が少しだけ近づく。
『適切な恐怖を、知らない』
『人間は、すぐ壊れるか、すぐ慣れる』
橘が余白を見る。
「……確かに、どっちかでした」
『維持方法を、求める』
空間は静かだ。
「小出しな演出をして、雰囲気出した方がいいと思う」
影が、わずかに止まる。
『……小出し』
『一度に見せない?』
橘が少しだけ前に出る。
「……あ、それ、いいと思います」
「さっきみたいに一気に来ると、普通に無理ですけど……」
廊下の奥を指さす。
「ちょっとずつなら、見ていられるかも」
影がゆっくりと動く。
一歩だけ近づく。
止まる。
『段階的に、恐怖を提示する』
壁の一部が、わずかに沈む。
橘がそれを見る。
「……今くらいなら、大丈夫です」
影が安定する。
『維持』
『恐怖の密度を、制御する』
橘が小さく頷く。
「……さっきより、ちゃんと怖いです」
「でも、逃げなくて済みます」
影が、ほんの少しだけ濃くなる。
『……最適化』
コツ。
一度だけ。
「そうそう。“幽霊の正体見たり枯れ尾花”っていうから、正体は隠したまま維持」
影が静かに揺れる。
『……正体を、固定しない』
『理解されすぎると、弱まる』
橘がじっと見る。
「……今の、ちょうどいいです」
『曖昧さを維持する』
『確定しない恐怖』
橘が小さく頷く。
「……わかります」
「はっきり見えるより、今の方が怖いです」
影がわずかに濃くなる。
『維持』
コツ。
一度だけ。
静寂。
橘が余白を見る。
「……これ、研修としてはだいぶ高度じゃないですか」
「あと、大事なことを一つ」
影が揺れを止める。
橘も姿勢を正す。
「……なんですか」
『……条件の追加?』
橘が息を整える。
「……これ以上、何かあります?」
「君の“存在”は消えないから、怖がらせなくても大丈夫」
影が、ゆっくりと揺れる。
『……消えない?』
橘が目を瞬かせる。
「……え」
空間の重さが、少し抜ける。
影の輪郭が、ほどける。
『怖がらせなくても、維持できる?』
橘が小さく呟く。
「……じゃあ、今までの」
『維持のための手段』
『だが、唯一ではない』
『観測があれば、成立する』
橘が余白を見る。
「……見てれば、いいってことですか」
影が、ゆっくりと頷くように揺れる。
『認識され続ければ、消えない』
コツ。
一度だけ。
橘が息を吐く。
「……じゃあ、怖がらせなくても」
「“いる”って思われてればいいんですね」
影が、安定する。
『……更新』
『恐怖依存から、観測依存へ移行』
空間が、完全に落ち着く。
橘がゆっくりと頷く。
「……それなら、やれそうです」
「あと、干渉が過ぎると、封印局や玄策社みたいな怖い人たちが来るよ?」
影が、ぴたりと止まる。
『……強制介入』
『排除対象になる?』
橘が思わず背筋を伸ばす。
「……あ、あの人たちですか」
影がゆっくりと後退する。
『過剰干渉は、リスク』
『存在維持を優先する』
橘が息を吐く。
「……さっきより、全然落ち着いてます」
影が、ほんのわずかに揺れる。
『適度な観測、適度な存在』
コツ。
一度だけ。
橘が小さく笑う。
「……これなら、共存できそうです」
「この場を離れて、よくよく人間観察してみたら?もし、次に被害を出した時は……分かるよね」
影が、わずかに揺れる。
『……観察』
『人間の反応を、蓄積する』
廊下の奥の気配が、ゆっくりと薄くなる。
橘がその変化を見つめる。
「……離れていってます」
『過剰な場への固着は避ける』
『適切な介入を選択する』
空間の重さが抜ける。
橘が肩の力を抜く。
「……さっきまでと全然違います」
影はほとんど見えない。
だが、“何かがいる”感覚だけが残る。
『……理解した』
『次は、過剰にしない』
完全に消えないまま、広がる。
橘が息を吐く。
「……これで、終わり……ですよね」
「ごめん、研修にならなくて……でも、交渉人が何してるか分かったね」
橘は少しだけ呆けた顔をする。
「……いえ」
ゆっくりと首を振る。
「めちゃくちゃ研修でした」
「怖かったですけど……」
「怖いのをどうするか、じゃなくて」
視線が廊下の奥――もう何もいない場所に向く。
「どう“扱うか”なんだなって」
小さく息を吐く。
「……あと、ああいうのとも普通に会話するんですね」
余白の方を見る。
「しかも、説得というか……調整、みたいな」
玄関の方から、風が一度だけ通る。
開いていないはずの扉が、わずかに鳴る。
だが、それ以上は何も起きない。
橘が肩の力を抜く。
「……正直、もっとこう」
手で何かを押さえるような仕草をする。
「封じたり、追い払ったりするのかと思ってました」
一瞬だけ苦笑する。
「全然違いました」
視線が少し柔らかくなる。
「……でも、分かりました」
玄関へ向かって一歩踏み出す。
床は、一度だけ鳴る。
遅れはない。
「“無理にどうにかしない”ってことですよね」
振り返る。
「その代わり、ちゃんと見て、話す」
軽く頷く。
「……難しいですけど」
外の光が、普通に差し込んでいる。
影は、途切れていない。
⸻
《通知書》
事案名称:恐怖依存存在の観測維持移行
依頼者:幽玄管理庁(UGA)交渉局
担当交渉人:余白
同行者:橘(交渉局研修員)
結果:恐怖依存から観測依存への条件変更成立
状態:安定
報酬:3200万円
内訳:
・成功報酬:3200万円
・追加報酬:0円
・合計:3200万円
UGA評価:S
備考:過剰恐怖により分裂傾向あり/観測密度調整で安定化
ここまでお読み頂き、誠に有り難うございます。
もし、本作を“面白い”と感じて頂けましたら、
ブックマークやご評価(★)を戴けると、大変励みになります。
拙いながらもコツコツ投稿しておりますので、
「また読みたい」と思って頂ければ幸いに存じます。




