29 本当に私を好きなのか?②
意地悪ばかりしてきたレオナールは、私を好きという裏返しだったのなのかしら。まさかね。
そんな風に考えていると、この先の身の振り方が定まらず、何だかもやもやと見えなくなってしまう。
悩ましい感情のまま、兄に本音が漏れた。
「私、いつまで記憶喪失のふりをしていればいいのか、だんだん分からなくなってきたわ。なんだか嘘をついているのが申し訳なくて」
「ってことは、エメリーもレオナール様のことを好きだと、意識するようになってきたんだな」
「そんなことないわよ。私は簡単に騙されないからね。所詮本性を隠したままのレオナールに違いないもの」
「まだ言ってるのか」
「だって──」
彼が私を本当に好きなら、私はどうしたらいいんだろうか。
レオナールのことを好きなのかも分からないし、以前の私は、彼に言い返してばかりだったのに、急に甘えた態度に変えるのもどうかと思うし……。
レオナールだってどうなるか……分からない。
「これまでのデートを思い出して、『レオナール、好き♡』とでも言ってみたら、そんな気がするはずだ。さあ、言ってみろ」
「お兄様ってば何を言っているのかしら。レオナールを好きになるなんて、それはあり得ないわ。どうせ記憶が戻ったって言ったら、すぐに性悪レオナールが出てくるんだから」
「まあ、『記憶が戻った』と伝えても、エメリーが一緒にいたいと言えば、レオナール様の気持ちは何ら変わらないだろう」
「そうかしら」
「それより、記憶喪失のふりは、うまくできているのか?」
「最近、お父様とお母様を騙すのがしんどくなってきて。そろそろ記憶喪失のふりも限界かもしれない」
「エメリーのような行き当たりばったりに演じる記憶喪失のふりは、そろそろ限界だろうな。そんな調子のエメリーでは、レオナール様と社交場に行けば、あっという間にボロが出るだろうさ」
そう言われると否定できない私は、何もないテーブルをぼんやりと見ながら、少しの間、考え込む。
そして、一つも答えを導き出した。
「近々タイミングを見計らって、記憶が戻ったことにするわ。私の記憶が戻った瞬間に、彼がどんな反応をするのかも、見てみたいし」
「タイミングを見るって、どうするつもりだ?」
「レオナールの屋敷に呼ばれたときが、絶好のチャンスだわ。彼の屋敷には行ったことがあるもの」
「俺にはチャンスの意味が分からんが……やはりレオナール様の部屋へ忍び込んでいた令嬢は、エメリーだったのか?」
「だから違うから! 彼の部屋なんか入ったことないわよ」
「分かっているって。もしもエメリーが彼の部屋に忍び込めば、翌日には責任を取ると結婚を申し出てきただろうな。エメリーは、すでに公爵家の人間になっていたさ」
そう言った兄が、くつくつと笑う。
ムッとしてしまうけれど、兄の言動をいちいち気にしていられない。
兄のペースに巻き込まれていては、話にならないため、平常心で話を続ける。
「だってレオナールってば、『今までと同じ経験をすると思い出すかもしれない』って言う癖に、二人で行ったこともない場所にしか私を連れ出さないのよ」
「ははっ。それならレオナール様は、エメリーの記憶が戻って欲しくないんだろうさ」
「私は本当に記憶喪失かもしれないわねって、逆の錯覚に陥るくらい、ありもしないデートの想い出を聞かされたわ」
「それは、レオナール様に愛されているという惚気だろうか?」
「そんなわけないでしょう。もう記憶喪失のふりも潮時に思えるから、婚約パーティーの日に行った彼の屋敷を見て、思い出した演技でもしてみるわ」
「そんな計画を立てる時点で、嘘くさい演技になる気配が漂っているぞ」
「もう! 失礼ね。前回だって、レオナールの大豪邸に驚いて立ち止まったのよ。次に行ったときだって、普通に驚愕するはずだから、一番自然だと思うわ」
「せいぜい棒読みにならないように頑張れよ」
「大丈夫よ。そこのタイミングなら自信があるもの」
心配そうな顔で見つめてくる兄へ、にっと笑顔を向ける。
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