28 本当に私を好きなのか?①
意外な程、湖へのお出かけを満喫してしまった私は、心地よい疲れと共に小さな我が家へと戻ってきた。
次回のレオナールとの約束は、観劇に決まってしまった。
これまで劇場に行ったことはないし、楽しみではある。
偽装婚約者との恋人ごっこを楽しんでどうするのよと、己に突っ込みを入れてしまうが、レオナールが嫌な所をちっとも見せてこないんだもの、仕方ない。
いつ彼が本性を出して、捨てられるのだろうかと考えると、不思議と胸が苦しくなる。
リビングでボケッとして座っていると、テンションの高い兄が入ってきた。
「おー、可愛いふりを次期公爵のレオナール様に、ぶっ込んでいる妹じゃないか。今日のデートは楽しかったか?」
「残念ながら楽しかったわよ。どういう訳か、レオナールが別人のキャラのままなんだもの」
「今の態度が本来の姿だろう。レオナール様はエメリーのことが大好きなんだって。いい加減に気づけよ」
「そんなわけないでしょう。だったら今まで何年も続いていた、暴言の数々は何だったのかしら? 説明がつかないでしょう」
「それは繊細な男心だ」
「は? ふてぶてしいレオナールが繊細だなんて、意味が分からないわ」
これ以上、頭の中を混乱させるのは勘弁してくれと、フイッと顔を背ける。
そこへお父様が「おや? 二人ともいたのか」と言いながらリビングに入ってきたため、お兄様とのコソコソ話は強制的に終了した。
◇◇◇
湖のデートから三日が過ぎた頃──。
リビングのソファーに座っていると、兄からポンと平べったい大きな箱を無言で渡された。
この箱は「きっとレオナールからの贈り物だわ」と思う私は、今度は何かしらとそわそわする気持ちで箱を開けた。
そうすると、目が覚めるような深紅が目に飛び込んでくる。
その上に、封筒もある。きっと中には手紙も入っているのだろう。
ドレスよりも先に、その封筒に手をやれば、今度はどんな嘘をぶっ込んでいるのかしらと、にやけてしまう。
ふっと冷静になれば、彼のつく嘘に内心喜んでいる自分もいることに驚いてしまう。
だけど騙されないわよと思う私は、綻んでしまった口元に今一度きゅっと力を入れ、手紙を開封した。
【親愛なるエメリーへ 四日後の十四時に演劇の席を予約したから、間に合うように屋敷まで迎えに行くね。ドレスコードのある演劇なので、今回届けたドレスを着て欲しい。着ているのを見たことがない色合いだから、今からエメリーに会えるのが待ち切れない。愛しているよ。~レオナールより~】
メッセージを二回ほど読み返してから、折り目に合わせてそっと閉じた。
どうやらその演劇のドレスコードが赤で、その色がテーマになっている舞台らしい。
観衆も、ネクタイやリボンの小物でもいいから赤色を身に着けるようにと、前振りがあるみたいだ。
それならリボンで十分だろうと思のだが、レオナールはそう考えないらしい。
ご丁寧に、赤いドレスを贈ってきたのだから。
毎回毎回まめな彼は、本当に私のことが好きなのではないか?
そう思えてならない。
彼は王城で文官の仕事もしている。決して暇ではない。
私と会う時間を作るため、相当無理をしている気がするのだ。
いくら偽装婚約者が欲しいからといって、嫌いな相手のためにそこまでするだろうか?
そんな疑問も、ここ最近、心の中を占めている。
私にここまでの手間をかけるのなら、本当の恋人や奥様に気を遣うのと何ら変わらない。
黄色い声を上げる令嬢を避ける目的に、『何の気配りも必要ない私』だからこそ、偽装婚約者をさせる意味も価値もあったはずだ。
それなのに週に一回のペースでデートに出かけ、その途中で手紙まで書いていれば、通常の婚約者より、よほど手がかかるだろう。
ここまでされてしまえば、兄が常々言っている、「レオナールは私を好き」という言葉がしっくりしてくるのだ。




